神と罪のカルマ オープニングsixth【04】
〇
雨の降る住宅地。電灯で照らされた道は濡れていることでその光を反射してわずかに輝く。
仁樹は歩いていた。傘を差しているが既にずぶ濡れ状態である。それでもこれ以上濡れないように、と差しているのであろう。傘を打つ雨の音を聞き流しながら実家――愛しき人が待つ場所へと帰っていく。
トゥルルン、トゥルルンーー
「……ん?」
着信音が鳴り、スマホ画面を確認すると思わず苦笑いを零してしまう。
「……よォ」
《お疲れ様。今回もあんただったわね》
電話に出ると労いの言葉はくれたが相手はかなり不機嫌なご様子だった。
「あァ。また俺だった」
ただ、仁樹も相手がどんな様子なのか想像できていたのだろう。臆することなく肯定の言葉を返すと電話の相手――華花菜が遺憾の声を溢す。
《最近、ずっとそう。死の運命に飲まれた人間ばかりがターゲット。今回の事件こそ人を殺す夢なんて見ないでって祈ってたのに……》
朋音はその霊能力故に、将来人が死ぬ瞬間を夢で予知してみることができる。
だが、それは第三者として見るのではなくて加害者か被害者のどちらかの目となって殺人の光景を見ることになるのだ。
ある時は加害者の目となって人を殺し、ある時は被害者の目となって殺される。
霊能力はいつ、だれが、どこでといった正確な答えを教えてくれない。
彼らの『世界』ではそういう決まりなののだろう。その変わりに予知夢やフラッシュバックのように突然光景を映し出してヒントとして教えてくれるのだ。
朋音が『人を殺す瞬間を見る力』によって未来の殺人事件を見た日。仁樹たちはその未来を阻止するため、朋音の見た殺人現場の情報を基に起こるであろう現場を推理していった。
推理の時間が朋音にとってはかなり酷な時間となることは誰もがわかっていたが、死にゆく運命を変えるために、何より彼女が「殺人を止めなければ」という世界から与えられた宿命であり使命をなす為に何度もその苦しい光景を思い出して、必死に候補を絞っていく。
間違えれば夢の中に出てきた人物は死ぬ。
まさに命を懸けた推理勝負だ。
「だけど、今回も未来は変えられた。相変わらずお前の洞察力と海琉の勘の良さには驚かされるぜ」
普通の人間では候補を絞れても的確に現場を当てるのは無理だ。だが、その無理を可能にする二人がいた。
飛田兄弟――海琉と華花菜だ。
二人がそれぞれ持つ天賦の才能は数多く存在する候補地を限界まで絞り込み、正しき答えへと導いていく。
誰もが羨む才能だと思われるが、華花菜は皮肉めいて笑う。
《あたしと兄さんだもの当たり前よ……でも、本当に運命を変えられるのはあんたしかいない》
「いつも通り暴力での解決だけどな」
《それでも悔しいのよ。あたしの方が先にあの子に寄り添ってたのに、助けることができても救うことができないことがね》
きっと、華花菜は強くスマホを握っているであろう。
携帯だけではないもう片方の手も。
いまの想いに比例して強く強く―――
『悔しい』と――……
いつも毅然とした彼女だが、朋音の話になると無力な自分を責めてしまう。
「そうか……」
ただ一言。それ以上の言葉を仁樹は言わなかった。
これは本人の心の問題。心の戦い。華花菜が解決しなければならない。
そこで仁樹が何かを言ったとしても、彼女のプライドを傷つけるだけで終わってしまうだけだ。
《……ねぇ》
少しの間をおいて、華花菜が問い掛ける。
「なんだよ」
《どう思う? あの子の『力』》
(またか――……)
華花菜の問いに戸惑うことはない。歩みを止めないまま、雨の音で聞き落とさないように耳を傾ける。
「お前、事件解決する度に聞くよな」
《当たり前でしょう》
これも予想できていたのだろう。冷たく返されるも仁樹はまったく気にしていない。
《完璧に理解してあげられないなら常に考えてあげないといけないじゃない》
「……その通りだな」
下手に相手の事を理解しようとすると逆に相手を傷付ける。
一生消えない傷を『精神』に刻み付ける可能性だって誰にだって容易にあるのだ。
だから、華花菜は考える。
完璧に理解してあげられない代わりに、親友について常に考えることを選んだのだ。
大切な親友――縁 朋音がこれ以上に傷つかないように。
彼女が幸せに生きられるように。
信頼とは包帯であり、刃。言葉とは薬であり、毒。
信頼し合うために伝えたい言葉は多く生まれるが、一度口から放たれた言葉は取り戻しは聞かない。
人は言葉だけで人を殺められる存在。
一言だけで人を天に連れて行く事も、地に落とすことも出来る。
《私は中途半端で安っぽい言葉なんかであの子に傷を付けたくないの。信頼から生まれる優しさの言葉で助けたいの》
「それは俺たち全員一緒だろ?」
《そうね。でも、負けたくないの》
耳に伝わる華花菜の意識。
大の男にすら臆さない、気高く、『女』であることを誇りに持つ彼女の強さ──
《あんただけには負けたくないのよ》




