神と罪のカルマ オープニングsixth【03】
〇
真夜中にパトカーのサイレンが鳴り響く。
普段ならこんな時間に五月蠅いと文句を言ってしまいそうになる音だが、この街に住む人々にとっては自分たちの安全を確かめる手掛かりとなっていた。
「こいつですね」
「間違えないな」
雨に打たれ、伸びきっている連続犯罪者――狂い人だった者。
雨合羽を身にまとった警官によってパトカーへと連行される犯人の姿をスーツを着た男女二人が傘をさして見ていた。
「赤色のスプレー缶を持っていた時点で俺たちが捜していた連続犯罪者だ」
「持っていただけで決定的な証拠にはなりませんけど」
「なッ!?」
「でも、あたしもこいつであってると思います」
犯人は、と――
犯人が赤色のスプレー缶を左手に持っていた姿を二人は思い出す。
「でもよ」
「なんですか?」
「もう一人は何処へ行ったんだろうな」
「……」
「通報した女性を助けた男」
数十分前に警察署に通報があった。
通報してきたのは女性。必死に声を出してカタカタと歯を鳴らしながら、通報内容を伝えてきた。
連続犯罪者に襲われて男の人が助けてくれた、と──。
「途中で怖くなって逃げ出したんじゃないんですかね」
「はぁー、逃げた……じゃぁなんで犯人はこんなところで伸びてたんだ?」
「知りませんよ。勝手に転んで気絶でもしたんでしょう」
「んな、阿呆な」
マンガじゃあるまいし、と女の方へと顔を向け……そのまま言葉を止めた。
「……」
無言ではあるが女の全身から「不機嫌」と言う名のオーラが大量に放たれている。それは真横にいる男へとひしひしと伝わってきて、自分の頬に一筋の汗が流れた。
多分、無自覚であろうが隣に立っている者からすればたまったものではない。
「なんですか?」
眉間に皺を寄せながら女は視線だけを男に向ける。
背筋を伸ばして凛として立ち、きっちりレディーススーツを着こなす。
その姿は毅然としていて、若いながらも見るもの全員を委縮させてしまいそうだ。
顔立ちについては――きっと彼女への第一印象を位置づけるであろう。
勝気な女性と例えられる目つきで、絶対に不義を許さないと訴えているように見える。
強くて美しい――まるで彼女を見ていると『華』を思い出させる。
名は、飛田華花菜。
朋音の親友であり、海琉の双子の妹である。
「いや、その……なんで機嫌悪いの?」
「……別に悪くないですけど」
「いや嘘つくな! どっからどう見ても悪いわ!」
思わず突っ込んでしまったスーツ姿の猫目の男――形原 景だったが、ギッと睨み返してきた華花菜に圧倒されて怯んでしまった。
先輩なのだが全く先輩としての威厳が出ていない。
(垂れ目でも睨まれると怖いなぁ)
彼女の眉の形は攻撃的に感じるが反対に目は綺麗なたれ目であり、彼女の兄――海琉とはほぼ顔のパーツは同じだ。
海琉をそのまま女性にした顔が華花菜。華花菜をそのまま男性にした顔が海琉。
この地域ではとても有名な飛田兄妹である。
「二人ともー」
怖すぎる後輩に情けない先輩。そんな二人に声が掛ける女性が一人。
「警部」
「これから署に戻るのだけども……、って、何だいこの空気?」
「いや、華花菜が……その……」
「なんでもありません」
「あ、機嫌悪かったのね」
自分たちよりも上の階級を持つ上司に敬礼を行う二人。だが、この微妙な空気間に気付いた警部が臆することなく問いかけ、華花菜の嘘を容赦なく切っていく。
「うぐっ」
「ほら見ろ」
「で、景が怖じ気付いてたわけか。情けない」
「ぐはっ」
景にも遠慮なく切りつけていく。
「惚れた女に弱気になってどうするんだい!」
「はぁ?」
「それは言わなくていいですから!!」
「え、何言ってるんですか?」
「ええい、気にすんな!!」
「あはは!」
「笑わないでください!」
景を茶化しまくる女性上司の警部――水津地翔子。
だが、場所が場所。ここは殺人未遂現場だ。
すぐに顔を戻し、「警部」と呼ばれるに相応しい顔つきになって二人の部下に命令をする。
「さて、悪ふざけはここまで。すぐに署に戻り、事件について纏めます。犯人が回復次第、取り調べを行います」
「はい」
「わかりました」
再び敬礼。
事件はまだ幕引きではない。
犯人を法で正しく裁き、相応しい『罰』を与えるまで終わりを宣言してはならない。
「それと華花菜」
「なんでしょうか?」
パトカーに乗るために歩き出そうとした矢先、華花菜が上司に呼ばれた。
「ちゃんとお礼を言っとくんだよ」
「うっ……」
「わかったかい?」
「…………はい」
(またか……)
二人のやり取りを見ながら景は苦笑した。
華花菜は上司に弱い。その様子は傍からみれば母親が大好きな子供のようで上司に褒められると喜悦の情を顔に浮かび、叱られたり注意されたりすると肩を落とし落胆する。大変分かりやすい後輩である。
「ねぇ、君もそう思わないかい?」
そんな可愛いところのある片思い相手について思いふけていると、突然景は上司に話題が振られた。
「え?」
思いふけていたために何を話していたのかわからなかったため困惑していると、上司がだからさぁ、と話を続ける。
「華花菜は先延ばしにするほど素直になれないってことさ」
「あーそうですね。そういうところあります」
上司の言葉はまさしくその通りで、景はその言葉につよく同意し何度も頷いた。
「素直になれないわけじゃないです……」
だが、二人の言葉に不満があるらしい華花菜は不満そうな表情を浮かべる。
「素直とかじゃなくて。あたしは〝あいつ〟が気にくわないだけです」




