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神と罪のカルマ  作者: 乃蒼・アローヤンノロジー
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神と罪のカルマ オープニングfirst【03】



「ついにこの時がきたのだ!!」


 とある村の日本屋敷。その屋敷内で一番広い一室にて人が集まっていた。


 部屋は硬い雰囲気で包まれているようだが、原因は恐怖による緊張ではない。

 人々の顔をを一人一人観察していくと、まるで喜びを表に出さないように口を必死に一の字にして引き締めているように見えた。


 ……だが、しかし。

 一人の男が上げた歓喜の声にて、とうとう人々はその努力をやめて大いに喜び始めた。


「百年……!! 長かった!!」

「はい!! この日をどれだけ待ち望んだことか……!!」


 涙を流す老婆に、隣に座っていた若い男が布を差し出してその想いに賛同する。

 彼らだけではない。歓喜の声で溢れる室内では特に年老いた者たちが涙をポロポロと流してお互いに慰め合っている。


「これでやっと……!! 『想い』が果たされるのですね!!」

「私たちの胸に刻まれたこの『想い』が……!」

「あぁ、そうだ。そうだとも同胞たちよ!!」

「あぁ、あ……!!」

「う、うう……!」


「喜べ。泣け。これは『我が一族の願い』。それが今、果たされる時がきたのだから……!!」


 男の言葉に、とうとう部屋にいる者全員が涙を流した。

 部屋中に響かせるように泣く者。静かに泣く者。寄り合って泣く者。


 だが、それは悲しみによるものではない。

 長年の、待ち続けた願いが叶うことへの喜びを表した涙だった。


「決して、この涙は恥じるものでは無い。我らの涙は一族の涙。この百年――この日を待ち望んだ辛さや悲しみ、願いを。全ての想いを含む大切な涙だ――誇り……誇りの涙だ――!!」


「う、あっ……!」

「『主』様……、『主』様……!」


 立ち上がり、高々と語る『主』と呼ばれる男に部屋の者全てが平伏す。

 敬意ある平伏し。彼らの心の支えであり、指導者である『主』への敬意の表し。


「『主』様!我々にとって、貴方様が、貴方様の存在こそが、『一族の誇り』であります!」

「『主』様が貴方様であったから、我々は諦めずにいられたのです!」

「貴方様だからこそ、私たちは付いていこうと思えたのです!」

「貴方様が、我々に生きる意味を教えて下さった!」


『主』様!

『主』様!

『主』様!


 部屋中が『主』を敬い、褒め称える声で埋もれた。

 その声に答えたからなのだろうか――『主』の頬に一筋の涙が静かに流れる。


「何を言う。私はお前たちがいたからここまでの苦しみに耐えてきた。それに、褒め称えるのなら『東の者』であろう。こやつがいなければこの『想い』は果たされなかったのだからな……。なぁ、『東の者』よ」


 己の最も近くに平伏す男――『東の者』と名を受ける男はに声をかける。

 『東の者』は全くと顔を上げる気配がない。その平伏せた姿勢のまま、敬愛する『主』に言葉を返す。


「いいえ。褒め称えられる人間などではありません。私は貴方様に出会わなければ全てを諦めておりました。私がこうして『想い』を果たす手助けになれたのも全て貴方様があってのこと」


 平伏す彼の手に力が入る。

 ……震えているのだ。泣いているのだ。

 泣いている、あまりにも酷い姿を、敬愛する『主』に見られたくない。

 その想いがひれ伏して震える姿からヒシヒシと感じられる。


「顔を上げよ」

「私はいま、とても見苦しい顔でございます。『主』様に失礼である顔です……」

「先ほども言ったであろう。この涙は誇りだ。堂々と見せよ。お前の生きている証を」

「……!! 『主』様!!」


 ひれ伏していた顔がとうとう上がった。

 涙でぐちゃぐちゃな顔。大の大人が、男が情けない、と言えてしまうような顔だ。

 ……だが、『主』は決して笑わない。自分の着物が涙で濡れるのも気にせず、男を抱きしめたのだ。


「お前は本当によく頑張ったな。親にも見捨てられ、泣きじゃくっていたお前がな。大きくなった」

「『主』様の……うぅ、『主』様の存在が、わ、私の、光、でした! 『主』様が私を、見て、くださったから、……わ、わた、わたし……!」

「あぁ、あぁ。ありがとう。本当に、頑張ったな……」


 まるで大きな子供をあやすように男の頭を撫で続け、泣きじゃくる男の言葉全てを受け止める。

 そんな彼らに感動してか、部屋の者たちは涙で汚れる顔を恥じることなく上げて、泣いて震えている手を叩き始める。


 二人の主従愛に感動と敬意を込めての拍手を室内に溢れさせる。


「『主』様! 『東の者』! ありがとう!」

「貴方様方ほどの素晴らしき主従関係など無い!」

「貴方様方の絆はこそわれらの誇り!」


 全ての者が二人を賛美する。

 全ての者が『一族の思い』が果たされることを、心から喜ぶ。

 全ての者が生きてきた意味に涙する。



 ただ、〝()()〟を除いて――。



 喜びが感動が飛び交う部屋の中、その〝二人〟だけが何も感じないまま座り続けていた。


 そこに、『東の者』をあやし終えた『主』が近づいてくる。


「何、仏頂面で座り続けておる。我ら『一族の願い』が果たされるのだぞ。これほど嬉しいことは無いだろう。皆のところへ行き、喜びを分かち合え」


 声をかけられた『着物の男』は『主』に目を合わせるも何も言わず、今度はただ隣に座る『少年』に目を向けた。


「そやつが気になるのか?まぁ、話には聞いていてもお前は初めて見るのだから無理は無い」


『主』と『着物の男』に目を向けられる少年。

 ――だが、少年は気にもしないで騒ぎ立てる群衆を見続ける。


 ……いや、何かが違う。

()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ただそこに座っていた。


 『主』はほほ笑む。


「本当に、素晴らしい『成功作』だ……」




登場人物紹介

●『主』……老人。何やらとある一族の長にて、一族中から敬愛されている。

●『東の者』……中年の男。ガリガリだが何かの一族の願いを叶えた模様?

●『着物の男』……騒いでいる中、少年だけを見つめていた。

●『少年』……???

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