神と罪のカルマ オープニングforth【03】
〇
閑話休題
「頭に傷ねぇ……」
横目で額の傷をみる雅晴。
「いやァ、手に大けがなくて本当に良かったスよ」
「そうじゃねぇだろ」
もし手に怪我でもしてしまったら、仕事が出来なくなってしまうからであろう。
無事でよかった、と呑気に手の心配をしている仁樹の足を雅晴の長い足が軽く蹴った。
「アホかお前。頭だぞ、頭。たく……、無茶すんなよ」
「大袈裟な。大丈夫ッスよ」
「ここで無茶して倒れでもしたら、そのあと俺が大変なんだよ。黙って先輩のいうこと聞きやがれ」
「……うッス」
口調や態度が乱暴でも、彼なりに仁樹のことを心配しているのだろう。そんな先輩の思いに気付いたのか、仁樹は短く返事を返した。
「……しかし、爆発騒ぎでまた客足が減るのかって思うとよ」
「……今回はホールのメンバーだけで押さえられますかね?」
「わからん。ただ、すげぇ疲れることになんのは確かだ」
これから起きる面倒事にお互い溜息を付きながらも、被害が少ないことを願う。
「あー! 考えてもしょうがねぇ! 仕事だ仕事!!」
「先輩。そういえば仕入れ先の弟さんからメールで連絡が来てたみたいッスよ。なんでも、今年新しく栽培した野菜の出来がいいらしいッス」
「そうか。じゃぁ、親父に相談して今年の夏メニューを……―――!?」
言葉は続かなかった。
いや、続けられなかった。
「きゃぁぁあああああああああ!!」
「―――!?」
突然、裏口の方から女性の悲鳴が聞えてきたのだ。
「なんだ!?」
素早く二人は裏口へと駆けていき、扉を体当たりするように開ける仁樹。
本日の天気は霧雨。皮膚に水滴が纏わりつく感覚の中、すぐさま周りを確認する仁樹。
(ゴミ袋―――!)
続けて出てきた先輩は悲鳴を上げたであろう、すぐそこの表通りで蹲っている女性へと近づく。
「おい、どうした!?」
見たところ怪我をしている様子は無いが、震えた身体で女性はゆっくりと指をさした。
「いきなり、そこにあった袋がいくつか爆発して……!」
指さしたところには破裂したゴミ袋。そして、そこから広がるように無数の欠片が広がっている。
「連続犯罪者――!」
何か視線を感じる。
仁樹は、奥の裏通りへと身体ごと向けた。
「……!」
物陰で動く何かが動いた。
「先輩! その人を頼みます!」
「おい!?」
先輩の返事も待たずに、仁樹はその動いた何かを追いかけるために走り出した。
「……たく、無茶するなっていったばっかだろ」
全く自分のいうことを聞かない後輩に、先輩の口から溜息が零れた。
門を曲がった瞬間、その『何か』がすぐにわかった。
全身黒ずくめの服を着た〝人の後姿〟。
それも逃げるように走っている。
(間違いない、犯人だ―――!)
逃がすものか、と犯人に向かって走っていく仁樹。
背格好からして男だろう。帽子を深く被っているせいで顔は見えないが、後ろの様子が気になるのか、何度も顔だけを振り向いて見てくる。
犯人よりも、仁樹の方が足が速かった。足の回転数を上げ、どんどん犯人に追いついていく。
それに気づいた犯人は、逃げる途中でゴミ箱や立て掛けてあった木材などを次々と倒していき、仁樹の追跡を邪魔してくる。
仁樹はそれらを飛び越えるなど、まるで慣れたような動きでかわしながら追いかけていく。
次に、裏通りをジグザグに曲がりながら犯人は逃げていく。しかし、離れるどころか、距離は縮まっていく一方だ。
なんとかして追ってくる仁樹を振り切ろうとするが、上手くいかない。
また雨によって濡れた地面は走りづらく、水たまりに滑りかけそうになる犯人。それでも腕を大きく振り、逃げることを諦めていない。
対する仁樹は、滑りやすいところを見事に避けながら追い続けていく。
「待ちやがれ!」
「……!!!」
息が切れかけている相手とは違い、そんな様子を全く見せない。
しかし、天候は犯人の味方でもないが仁樹の味方でもない。滑りやすい場所を避けてはいるが、それでも濡れた地面に足を持っていかれる恐れを考えてこれ以上加速することが出来ない。
だが、先程よりも距離が小さくなっているのはわかっている。
ならば、あとは犯人の体力次第。持久戦だ。
体力には自信がある仁樹に対して、犯人の体力は既に限界へと近づいていた。
それでも、捕まるわけにはいかないと身体に鞭を打ち動かし続ける。
犯人はもう一度だけ角を曲がり、そこで持てる力を全て出し切り、今度は真っ直ぐに走り出した。
仁樹も追いかけて角を曲がる。追いかけ始めた時よりも大きく見える犯人の背中を視界に入れる。
犯人が真っ直ぐ走る先にあるのは、表通り。今度は人ごみに紛れて逃げるつもりなのだろう。
そうはさせない――幸い、この道は濡れていないと瞬時に見て理解し、加速させる。
距離は瞬く間に小さくなっていく。
(もう少しだ―――!!)
腕を伸ばして届く距離になる。後ろを気にせずに走り続ける犯人はそのことに気付かない。
あと一歩。あと数メートル。あと数秒―――。
(入った―――!)
瞬時に確信し、その逞しい腕を犯人へと伸ばした
―――が、
「―――ぐッ!?」
刹那――――、
突然刺さるような鋭い頭痛が仁樹を襲う―――
《――ダメダヨ》
そのあまりにもの痛さに、伸ばした腕は犯人には届かず空を掴み、そのまま膝を付いてしまった。
そして、次の瞬間。
ガシャァアアアアアアアンーー!!
「……―――!?」
派手に物が壊れる音が前方より聞えた。
「……え?」
突然の痛みはその一瞬のみ。既に感じていない。
そして、いま自分の目の前で起きていることに愕然とする。
「嘘だろ……」
落ちて破片が飛び散っている看板がそこにあった。
(もし、あのまま自分が犯人を追いかけていたら――……)
突然の出来事。だが、「はッ!」として覚醒させる。
慌てたように立ち上がり、裏通りよりも明るい表通りへと走り出した。
数秒である突然の出来事。だが、その数秒は犯人が逃げるには絶好の時間だ。
すぐに表通りに出て辺りを見渡す仁樹であったが、しかし、いくら探しても黒ずくめの者を見つけることが出来なかった。
様々な色を帯びた服を着た人々が街の中を歩いているだけ。
「クソッ……!」
コンクリートの建物に拳をぶつけ、寄りかかる。
「逃げられた――……!」
鬼ごっこの勝者は連続犯罪者?
それとも……?




