神と罪のカルマ オープニングforth【01】
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「それにしても、お前。爆発に巻き込まれたっつうのに、よく普通に通勤してきたな」
「でも、厨房に入るなって言われたッスけどね」
「お前何のために来たんだろうな」
仁樹の額には、医療用の白いガーゼが張られていた。
出勤はしたが、衛生的に怪我で厨房に立てないため、裏方の作業に回ることに。
店長がいうには「仁樹は万能。事務でも役に立つ」とのことだ。
「俺には『専門医』がいるので、最後でもいいのでその病院に回してください」
昨日、爆発に巻き込まれた仁樹は朋音とともに、彼の専門医がいる病院へと向かった。
病院名、西芽総合病院――
「いえ、先生! これぐらいの傷なら僕が――」
「いや、私にやらせなさい」
外科病棟の診察室。そのベットの上で横になっているとドアの向こう側の騒がしい声が聞こえてきた。若い医師が何か訴えているようだが、その言葉を無視するように病室に入ってくる。
「仁樹、大丈夫か?」
「よォ、博士。頭切ったみてェだ、縫ってくれ」
そう言って、『博士』と呼んだ男性医師に、全然大丈夫だとヒラヒラと手を振る仁樹。だが、もう片方の手は朋音を安心させるように握っている。朋音の方は泣き止んだとはいえその目が腫れていて、看護師から渡された温タオルで抑えている。
二人そろって痛々しい。
「嬢ちゃん、大丈夫だ。私が来たから心配ない」
「先生! たかが、こんな傷、先生の手を煩わせなくても自分ができます!」
「相変わらず、博士信者が多いんだなここ」
「君! 先生に向かって博士とはなんだ!? この人がどれだけ偉大な人かわかっているのか!」
どうも煩い付き人がいたもんだ。怪我人だっていうのに、仁樹の心配などまるでしていない。そのことに朋音も気が付いたのか、彼女が珍しくも立腹な様子である。
「博士がご立派なのはわかっています。でも、その前に、あなたは患者の心配を少しもしないのですか?」
「え、そ、それは!」
朋音のもっともとした言葉に、まさか彼女からそんな風に言われると思わなかった医師が困惑し始めた。
(あ、こいつ。朋音が狙いだな)
自分を治療しがてら、朋音に手を出そうとしているのだろう。
確かに、『偉大な医師』が出るまでもない治療だが、その医師がやると言っているのだ。普通は疑問に思いながらも引き下がるべきだ。
だが、仁樹にも『偉大なる医師』にも諸事情があるため、彼が出る幕ではない。
そもそも、そんな下心が分かってしまったら、ますます頼みたくもなくなるってことだ。
「いいから下がりなさい。私がやる」
「ですが……!!」
「私の家族なんだ。私がやる」
その言葉に、若い医師は「へっ」と間抜けな声を零した。
「家族って……先生のご子息ですか!?」
「あー、年齢的にはそうなるな?」
「えらく若い時にできた息子だな」
しかし、そんな二人の会話などこの若い医師には届いていない。顔面蒼白にして、「失礼しました!!」と大慌てで部屋を出ていった。
「俺のこと全然知らなった様子から、あいつ新しく奴かァ?」
「そうだ。煩いがそこそこ腕はいい……が、気遣いはまだまだか」
そう評価して、仁樹の治療に取り掛かる
いつも清潔に見える様に整えられた髭に、ブランドもののハーフリム眼鏡。
ヨレヨレのワイシャツと可愛らしいバッジがいくつか付けられたクロックスシューズ。
そこに医師の証である白衣を纏うのが、いつもの彼のスタイルだ。
名は、財峨健一。
仁樹の家族であり、灯真の父親にあたる人物である。
その後、すぐに欠片で傷ついた身体を検査し、傷口に破片が入りこんでいないか入念に調べた。
検査、消毒、縫合。一つ一つの作業を手際よく行う博士。
その間、仁樹はずっと朋音の手を握っていた。
心配ない。大丈夫―――、と。
未だに振る彼女の手を安心させるために、握り続けた。
「一番酷かったのは頭の傷ぐらいが、流石お前だ。いつも通り早く抜糸できるだろう」
「よかったぁ……」
博士の言葉で、ようやく朋音の震えが止まり、安堵した。
「さて、俺も一緒に帰るか」
「あれ、仕事終わったのか?」
「家族が怪我したのにこのまま仕事なんぞ続けられるか。何日も箱詰めになっているんだ、一日くらい帰ったって文句は言わないだろう」
そう言って、博士は遠慮なく帰宅する準備を始めた。
後ほどきたあの若い医師に止められようとも、その『帰る意志』は誰にも止められなかったのであった。
登場人物紹介
●財峨健一……
仁樹の家族で灯真の父親。ヨロヨロシャツの髭面親父。
家族が大好きで、突然来る仕事には殺意を込めて取り行う。




