神と罪のカルマ オープニングthird【05】
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雨が止んでいる。だが、そんなのは些細なことだ。
人で賑わう街中を二人は仲良く歩いていく。
「それでも、街は賑やかだね」
「だな。立ち飲みしてるのとか見ると、人間って神経図太いのかもしれねェな」
街から人は消えない。連続犯罪者が次々と事件を生み出そうとも。
仁樹の言う通り、人間は図太く生きているのかもしれない。
右を見れば一日頑張った自分を労う者。左を見れば今日も楽しかったと笑う者。
世間を騒がしている事件など忘れて、いま目の前にある幸福に浸かっているのがわかる。
「明日は一件も相談がないから、今日の夜は少し夜更かしするんだ~」
「また新しい刺繍でもすんのか?」
「そうなの!……あ、でも、その前に借りた本読まないと……」
「ん? あァ、ソファーで読んでた本か?」
深夜に帰宅して、ソファーで寝ていた彼女を起こした時、その手元には本が置かれていた。
見た目から想像しにくいが、仁樹は読書家だ。彼の自室にある本棚は高校生の時に集めた本が種類やジャンル関係なく、ビッシリと隙間なく並べられている。
そのため、てっきり自分の本を読んでいたのかと思っていたが、どうやら知人から借りてきたものだったらしい。
「うん。……でも、やっぱり、読むのは止めて刺繍にしよう!」
「面白くなかったのか、その本?」
「うーん、人気ベストセラーには選ばれていたんだけど、読んでいて悲しくなっちゃって……」
「まァ、面白さなんてそれぞれだもんな。人気だからって、無理して読むものじゃないもんじゃねェし」
感じ方なんて人それぞれ。
感動できないものを無理矢理読んで話題についていこうとするよりも、そんな時間を自分を幸せにする時間として使ってほしい。
そんな仁樹の考えに朋音も共感したのか。「そうだよね」と嬉しそうに頷いた。
「さてと。今日の晩飯は灯真リクエストの豆腐ハンバーグだから、豆腐買わねェとなァ。付け合わせは人参のグラッセでもいいか?」
「うん、大丈夫! それに人参のグラッセなら灯真くん食べられるもんね」
「あーそうだなァ。こんな感じでピーマンも食わしてやりてェ……」
人参はなんとかなったが、ピーマンに対しての灯真は手強い。
子どもの味覚は大人の三倍と言われているが、灯真は多分その標準な子どもよりも味覚が鋭いようで。「繊維に沿って切る」「油通しする」「濃い味で消す」……といった料理人知識の下、色々試したが現在完敗中のとのことで、若干遠い目になる。
それでも、頑張って食べてくれるものだから。仁樹は怒るどころか申し訳なくなってきてしまうらしい。
「私も苦手だったけど、大人になったら食べられるよ~」
「最後はそうだなァ……。最終的にはそう願う――!?」
最後まで言い切れなかった。
バァアアアアアン!!
「きゃぁぁぁぁああぁああああああ!!」
突如の爆音と女性の叫び声が聞えたのだから―――!!
「爆発だ!!」
「いきなりゴミ袋が爆発したぞ!!」
「救急車ぁああ!!」
「爆発って!?」
叫び声が聞こえてくる方へ振り向く仁樹と朋音。
「まさか例の……!?」
連続犯罪者―――!!
どちらもすぐに、その言葉が頭に浮かんだ。
バァアアアアアン!!
バァアアアアアン!!
バァアアアアアン!!
「また爆発だぁぁあ!!」
「怪我人だぁぁあ!!」
「ガラスが混じってるぞ!?」
「早く! 救急車ぁああ!」
爆発音は続いている。だが、同時に人々が騒ぐ音が周囲を埋め尽くす。
何処が発信源なのか、何とか音を拾おうとするが人々の声がそれを邪魔してしまう。
動揺と混乱に落ちた人の群れなど、今は凶器でしかない。
「くそッ!」
続いて爆発がどこで起きるかわからない状態で、動くのは危険だ。
ならば、と。すぐに朋音をその身体隠すように抱き込み、なるべく周りに物がないところを瞬時に選び、体制を低くしてしゃがみ込む。
そして耳を澄ませ、今の状況を知るための情報を集め始めた。
「怪我人はどうだ?」
「破片で切ったみたいだ」
「破片って何か壊れたのかい?」
「いや、ゴミ袋に入っていたみたいだ」
「ガラスの欠片」
「殺傷性はなさそうだ」
「死人は出ていないようで」
「しかし、被害は」
「女性が被害を」
「誰か警察に連絡を」
「救急車はいつ」
(死人は出ていない―――!)
「仁樹くん」
推理する仁樹に、さらに朋音は耳を澄ますようにジェスチャーを送る
バァアアアアアン!!
バァアアアアアン!!
バァアアアアアン!!
「――近づいてきてるのか!?」
朋音が頷く。
連続に、聞こえる爆発音。
だが、段々と自分たちのエリアへと近づいてきている。
「うわぁぁ!!」
「全員、建物から、物陰から離れろ!!」
「ゴミ袋から離れろ!!」
物陰――そこに置いてあるゴミ袋が爆発したということか。
幸い周りに物が少ない場所に身を潜めている。
だが、あと何発起きるかわからない、何処で起きるかわからない。
この爆発騒ぎが落ち着くまでジッとしているのよりも、ようやく全員が動きの流れを合わせて非難しているいま、動いた方がいいに決まっている。
ここにいるよりももっと開放的な場所に。そう思い、腰を上げた。
――だが、
「仁樹くん、あの子!」
「――ッ!?」
朋音が見開いた目線の先には、壁を伝って逃げる少年が一人。
足を引きずっている。この騒動で怪我をしたのだろう。
「先に逃げてろ!」
そう言って、仁樹は真っ先に少年の下に走っていく。
人の流れを横断する仁樹。多くの人が邪魔だ、と暴言を吐いてすれ違っていくが、知ったことではない。
「大丈夫か!?」
「た、助けてください……!」
誰も自分など気にしてくれないと諦めていたのだろう。何とか逃げようと痛い脚を引きずっていた自分を心配して駆けつけてきてくれた仁樹に、少年はボロボロと涙を流す。
「頑張ったな。いま背負うから―――」
そう言って、少年を背負おうとしたとき。
その時――
仁樹は、建物と建物の間に出来た暗闇を見た。
よく見えづらいが、
そこで、一瞬だけ小さな光を見つけた。
光―――。
仁樹の脳がたったその瞬間で光の正体を暴く。
爆発と光。光は輝く。輝くは―――。
『火』―――。
「―――!! 伏せろぉおお!!」
仁樹の声が周りの者たちへと伝える。
その次の瞬間。
爆発音とともに凶器とかした欠片が彼らを襲い掛かった―――!
「ぐっ!!」
すぐに少年を庇え込み、放物線外へと逃れるために横へと飛び伏せた。
だが、破片が容赦なく仁樹を襲い、次々とその皮膚を切っていく。
「仁樹くん!!」
爆発が収まると同時に、朋音が血相を変えて駆け寄ってくる。
「仁樹くん、しっかりして!!」
「あー耳痛ェ……朋音、無事か?」
「私なんかどうでもいい!! 目は見える!? 耳は!?」
「どうでもよくなんかねェよ。とりあえず五感は大丈夫だ。怪我も昔より全然マシだ」
起き上がって、安心させようとするが当たり前だが効果はないようで。ハンカチを取り出した彼女は、すぐにそれを切れた仁樹の額へと押し当てる・
黄色いハンカチ。以前彼女が痛く気に入ったものだ。
「動かないで!! 大丈夫? 横になる?」
「いいから、落ち着け」
「落ち着けないよ!!」
もう泣きそうな顔ではなかった。
彼女のブラウンの瞳からポロポロと涙が流れる。
「ごめんなさい……、ごめんなさい……」
「なんで謝るんだよ」
「だって、私が見つけたのに……!」
「お前のせいじゃない」
何処に彼女の悪いところがある。
一番の原因は、この爆発を仕掛けた犯人だ。
「おう、少年。大丈夫か?」
「すみません……、僕が……!」
「おいおい、お前まで謝るのかよ」
同じくボロボロと涙を流す少年。欠片による外傷は見当たらない。
見事に守り切った、といったところだろう。
そして、気付く。
爆発音が聞こえない。どうやらここの爆発が最後であったみたいだ。
立ち上がって爆発現場をみようとするも、朋音がそれを阻止する。
「お願い。大人しくして……」
仁樹を掴む朋音の手が震えていた。
「……わかった」
これ以上、彼女を泣かせるべきではない。いまなお顔面蒼白で震える彼女の手を優しく掴み、素直に従った。
「君たち、大丈夫かい?」
そんな二人のもとに周りの人々は駆け寄ってくる。
そのうちの一人がスマホ片手に仁樹たちへと話かけてきた。
「はい……頭を切っているみたいです……。君、いま救急車を呼んでいるから暫く待っていてくれ」
「あァ、ありがとうございます。助かります」
「あの……」
続いて、声を掛けてきたのは仕事鞄を両手で抱えている若い女性。
「はい?」
「ありがとう、ございました……。あなたが伏せろ、と言ってくれたおかげで怪我をしませんでした……」
「俺も、ありがとうございます」
「私も」
「ありがとう」
女性に続き、駆け寄ってきた人々の口から感謝の言葉が並べられる。
「そうか……」
身体から力が抜けた。
「あんたたちも、無事でよかった……」
「祭りだ!! 祭りだ!! 祭りだぁぁぁあああ!!」
とある錆びれたビルの屋上にて男は叫ぶ。
見渡す景色は、謎の爆発によって騒ぎ出す夜の街。
「祭りの目玉!? 目玉はなんだ!? そう『花火』に決まっている!!」
男の言う『花火』。
それは、『爆発』―――。
「騒げ虫けらども!! ゴミ共!! 雑魚共!! 俺はこの世界を、恐怖のどん底に落とす『鬼』!! お前らが跪く存在!! 最低の、最悪の、最強の『鬼』!! 『悪神』!! 『邪神』!!」
誰のも歓迎されない存在へと。
「俺が『鬼』になる時代は近い――――!!!!!」
男が夢見る存在へと―――。
神と罪のカルマ オープニングthird 終
神と罪のカルマ オープニングforth 続
物語は動き出す。
さぁ、傍観者は楽しもう。




