神と罪のカルマ オープニングthird【02】
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《あなた全く人の話を聞きませんね》
ガシャァアンーー!
ガラクタを蹴り飛ばす音が響いた。
それも一回だけではない。続けて二回、三回と足元に転がるガラクタを狂い人はボール蹴るように壁へと当てまくる。
一昨日、今日との失敗。
人を殺すことが出来なかった悔しさが 青筋を立てて暴力としてまき散らす。
……本当にその行為は『人間』の子どもにしか見えない。
滑稽にも滑稽。本人は自分のどうしようもない姿に全く気付いていない。
《まぁ、元々あなたが素直に聞くような方だとは全く思っていませんでしたしね》
「あ゛ぁあ!?」
《あと、少しは声の大きさを考えてはもらえませんか? こちらも耳が痛くてしょうがない》
「機械みたいな奴が痛いとか抜かしてんじゃねぇぞ!?」
《『機械』、みたいですか?》
その言葉にまた珍しく『感情』を見せた。
何が面白かったのか。自分を馬鹿にしてきた言葉のはずなのに、電話越しの相手は怒るどころかくすくすと笑い始めたではないか。
「何が可笑しいんだよ!?」
《いえ、ワタクシごときが機械だと言われるのはなんだかおかしな話だと思いましてね。
ワタクシよりも機械と言われるのにふさわしい存在がいるのに―――》
――いや、機械というより『人形』ですかね……―――
人によってしか動かされることのない『人』の『形』をしたもの。
紐に吊るされ、動かしてもらわなければ何もできない『操り人形』――
《ワタクシはそんな哀れな存在ではないですよ》
「何、気持ち悪ィこといってやがる!!」
《ですから、そんな哀れな存在ではない私の耳が貴方の馬鹿デカい声で痛んでいるんです》
「知るかそんなもん!?」
《本当に自分勝手な方ですね》
電話越しでため息をついた相手だが、それが増々狂い人のイラつきに油を注ぐ。
携帯を投げ捨て、あたり一面に広がるガラクタたちを無差別に拾っては力に任せ、投げてぶつけていく。
壁に大きな跡が残ろうとも、ガラス瓶が割れて巻き散らかしても、拾っている途中で小さな傷が出来ても。
《で、話してもいいでしょうか?》
再び、機械のように淡々とした声が聞こえる。
暴れるに暴れまわった狂い人の方は肩で息をしている。
幸い、投げ捨てられた携帯電話が壊れることは無かったようだ。
携帯の相手は狂い人が暴れていないと察し、どうしようもない彼へと話を続ける。
《今日を合わせて一週間、何もしないでくださいね》
「俺に指図するんじゃねェ!!」
携帯へと叫ぶ。だが、相手は臆さない。
それどころか、距離ができたおかげか「聞きやすくなりましたね」と口にする。
「てめェ、コソコソしてねェで出て来いよ!! その舌引っこ抜いて殺してやる!!」
《一度も人を殺したことが無い人間が何を言っていますか? 戯言にも程がありますよ》
機械みたいに淡々とした声だが、言葉は自分を馬鹿にしている。
腹立たしいだろう。自分の運命が、こんなやつらによって今後決まってしまうから反撃することができない。
気に入らない。認められない。
いずれ頂点に立つ自分が見下されていることを認めたくはない。
殺したい、消したいと湧き上がる感情。
……だが、相手の次の言葉でそれらはおかしなことにすんなりと収まるのであった。
《来週まで待ちなさい。そうすれば、あなたの望む素敵な玩具が手に入りますよ》
「―――!!」
『望む素敵な玩具』――。
「……なぁ、俺の望むものってなんだ?」
狂い人は物欲よりも犯罪への欲が大きい。
犯罪よりもこの身を満たすものなどこの世にはないはず。
だから、自分が『望む素敵な玩具』がわからない。
《自分のことなのにわからないのですか?》
「わからないから聞いてんだよ!!」
《簡単なことですよ》
まるで、子どもに簡単な足し算を教えるといった内容だ。
《物より犯罪を好むあなたが欲しいものは犯罪に役に立つものです》
「……?」
犯罪に役立つものとは―――?
人間はどんな方法でも死ぬ。
この床に広がるガラクタたちでも、人に必要とされなかったものでも簡単に。
人が造り出すものは全ては凶器に変えられる。
人は凶器を作れる。
その凶器が凶器として使われないのはどうして?
それは、人が勝手に決めた決まりごとのせい。
決まりごと。『法律』――――。
「……!?」
《残念な頭のあなたでもわかりましたか》
「おい…、マジかよ?」
興奮が身体のそこから湧き上がってくる。顔がにやけてくるのを止められない。
相手が再び侮辱の言葉を並べても耳には入らなかった。いや、気にする余裕などない。
そんなものどうでもいい。
《えぇ。勿論いいですよ。ですが、あなたが結果を出せたらの事ですけど》
そんな狂い人におかまえなしに話し続ける。
《今日を合わせた一週間後、『それ』は届きます。そして、ワタクシ達はその日の夜、あなたに仕事を出します。それを見事達成出来たのなら差し上げましょう》
「本当か!? 本当か!? 本当なのか!?」
相手がはい、と短く答える。
「ひゃっほぉぉぉおおおおおおおおいぃぃいいい!!」
突如、男は建物内を走り回り始めた。
床に散らばっているものも壁も何もかも関係ないというばかりに足を動かし駆けめぐる。
まるで、新しい玩具を目の前にした子供のように。目を輝かせ、笑い、叫び続ける。
気持ち悪い……誰もがみれば答えたくなる、狂ってしまった『人間』の姿。
「無理だと思ってた!! あんな最高の『玩具』が手に入るなんて!! この国じゃ無理だと思ってたんだ!!」
《嬉しそうですね》
「当たり前だろ!? 『法律』があるために手に入れるのは難しいさ!? ましてや、素人の俺が手に入れるのはな!?」
割れた窓から雨の世界を見る目には既に理性を感じられない。
感じるのは触れてはいけなかった快楽。
『人間』として触れてはならない『殺人への楽しみ』。
「あぁぁあ!! 一週間後!! それまで我慢すればいいんだなぁあ!!」
《おや、納得して下さいましたか?》
「当たり前だ!!」
遠くで雷が落ちた。
「銃刀法違反なんぞで縛られたこんなクソみたいな国で、簡単に『銃』を手に入れられるなら我慢なんざ楽勝だ!!」
《それならは良かった》
それでは、また一週間後、と。
狂い人は知らない、気づかない。
知る気もない、気付く気もない。
電話越しの相手が自分とは違った『笑い』で電話を切っていったことに―――
「あぁ……。俺は運命に愛されたんだ……」
叫びに叫んだ。男はやっと疲れが身体を回ったのか、よろけながらその場に座り込み、続けて仰向けになる。
雨が当たりうるさい音を奏でる錆びれた天井に自然的に視線が向く。
《……昨晩……狂気は…………》
《……男性が……事件……》
《重傷を負い……病院へ……》
《……意識不明……》
《これを含め、……犠牲者……確認されまし……》
「最高だ……!!」
男を取り囲むように建物内のあらゆる場所から雑音が入り混じるラジオからのニュース。
かろうじて全てが壊れなかったもの。壊れたものは形として残っていない。細かすぎる、見るも哀れな姿を形とはいえない。
「あは、あははは……あはははははははっはははははっははははっはははっはははははははははっはははっはははははははは!!」
そんな壊れた世界で男は笑う。
自分の全てに、喜びと狂気が混ざり合ったおぞましい声で。
世界中に届けと言うばかりに笑い続ける。
自分に恐れるものなど何もない。
まるで、年頃の中学生が考えることが頭を支配する。
「あぁ、あぁ、あぁ、あぁ、あぁ、あぁ、あぁ、あぁ、あぁ、あぁ、あぁ、あぁ、あぁ、あぁ、あぁ、
あぁ、あぁ。俺は『鬼』になる。なりたいからじゃない。運命がなれというんだ。俺は『鬼』になる運命だ。宿命だ。決まっているんだ。世界が決めたんだ。素晴らしい『鬼』になる。『九年前』よりも。『鬼』になるべき俺が新しい時代を作る。運命だ! 宿命だ! 必然だ! 決まりだ! 決定だ! 正解だ! 当然だ! 完璧だ! 予定通りだ! 俺は悪神だ! 俺は邪神だ!」
狂った人間は止められない。
止められるとするのなら―――……
「俺は世界が望んだ『鬼』だぁぁああああああ!!」
同じく狂った人間か、または─────……
結構、セリフの修正したかもしれません。
なんせ何言っているのか作者もわからない時があるので。




