神と罪のカルマ オープニングsecond【04】
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《──……重傷者四人。現在市内の病院で全員治療中とのことです。また、事件発生から数時間後に近くで男性が切りつけられる事件が──》
「仁樹」
「なんスか?」
「いま事務室行くんじゃねぇぞ」
「はい?」
「あぁぁあああぁあああー!!」
場所は料理店・グーテンターク。
いつも通りランチタイムを終え、休憩室で寛いでいた仁樹に自販機帰りの雅晴が謎の警告を口にした。
その途端。荒れ狂った女性の叫び声が店内中に広がった。
「……店長?」
「いまホールの奴らが押さえてる」
トガン、ガシャンーーと物が落ちる音が頻繁に聞こえてくるのは気のせいではないだろう。
同時に、必死に押さえ込もうとする勇敢な人たちの声が聞こえてくる。
料理店・グーテンタークのテーマは『静かで居心地の良い料理店』。
それは開店当時から変わらない。
「店長があーだと世話ねぇな」
仁樹はここで理解した。この人逃げてきたな、と。
店長との付き合いは雅晴が従業員の中でも長い方だ。そのためか、いつ店長が爆発するか予想ができて逃げる絶妙なタイミングが自然と分かってしまう。
「でも、あのままだと午後の仕事に支障が出ると思うんスけど」
「そーだな。おーい、早くなんとかしろよー」
「ならあんたも手伝んかい!!」
事務室からホール担当である女性の怒鳴り声が聞こえてきた。
「だそうでス」
「嫌だよ、めんどくせぇ。仁樹が行けよ」
俺殴られたくねぇし、と仁樹の向かえに座って灰皿を手前に引っ張る。
仁樹も同様、店長に殴られるのが嫌であった。過去に顔面を殴られたことがあるからなおさらだ。
助けに行かない代わりに事務室の方に合掌。
「仁樹も手伝いなさぁぁあああい!!」
無事に帰って来れますように。
さらに一礼もして勇敢なる戦士たちの無事を祈る。
「で、なんで店長はあんなに荒れてるんスか?」
「コレのせい」
そう言って、机に置かれたのは本日の新聞。
それに書かれている大きな見出しが目にすぐにはいった。
「《一日で四件!謎の連続犯罪者!》……」
「ほら、ここ1ヶ月で事件ばっかり起こしてるやつ」
「あー……」
その話なら仁樹は耳にタコが出来るぐらい聞いていた。
『連続犯罪者』。
最初の事件は1ヶ月前。仕事帰りのサラリーマンへの頭部殴殺未遂。
二回目の事件はその二週間後。街中でロープによる、女子高校生絞首未遂。
「今回のは昨日で四件。刺殺未遂二件とまた殴殺二件と……」
「幸いにも今んところ死者は出てねぇみてぇだが、重傷なのは間違いないな」
「一回目は夜、二回目は昼間、三回目は朝と夕方と深夜……見事にバラバラッスねェ」
「二回目なんか街中だぞ。つまり言い換えりゃぁ、犯人はいつ、どこでも犯行できるってことだ」
「……あー、そういうことスね」
何故、店長の叫び声とこの連続犯罪者がどう繋がるのか理解出来た。
「結果、安易に人が街を歩けなくなる」
「街を歩く人が減ると店に入る人も減る」
「客が減ると売り上げもさがる」
「仕事も同じく減るってことだ」
風が吹けば桶屋が儲かる。
(まァ、この場合、儲けてはいねェけど……)
飲食店系はこのように、外に出られない事件が大敵だ。
特に、『眠れない四年間』の時は大打撃であっただろう。
「しっかし、不思議ってか不気味だよなぁ」
〝不気味〟。
確かにその言葉は、この連続犯罪者にぴったりな言葉かもしれなかった。
仁樹は新聞を広げ、改めて今回の事件の内容を読んでいく。そして、一、二回目の時にも書かれていた『言葉』を見つけた。
「……そうっスね。今回の新聞にも犯人の目撃情報は書いていない」
何故、こんなに世間を騒がせている連続犯罪者が捕まらないのか。
簡単に言ってしまうば、犯人の目撃情報がないのだ。
被害者である人々は全員重傷で酷い者は意識不明な状態であるために、口をまともに開ける者はいない。
また話せたとしても何も覚えていない、何も見ていないのだと情報が手に入れられないのだ。
だが、犯人の特徴がわからない中で、唯一これらの事件の犯人が同一人物だと決定つけるものがあった。
『Hello. I'm a player! Let's play together!』
『こんにちは! 私は遊び人さ! 一緒に遊ぼうぜ!』
犯罪をまるで娯楽だと言っているかのように、気赤のペンキで堂々と描き残されていったメッセージ。
警察を馬鹿にしているように感じ、同時にゲームに参加者を求めるようにも見えた。
連続犯罪者。
またの名を『死の遊び人』。
「まぁ。『九年前』には到底及ばねぇが、怖ぇことには変わりねぇんだよなぁ……。大丈夫かな、カミさん……」
「まァ、めいかさんの場合は職場が自宅ッスから。外を歩かない分、危険度は低くなっているんじゃないッスか?」
「でも、危険なのは変わんねェよ。お前ん家みたいな超セキュリティーハウスじゃねェんだし」
「俺の実家は特別ですから」
『時代が進んだら防犯撃退用自動レーザービームを導入したい』
いつの日か忘れたが、愛する愛息子のために、と。そんなことを言っていた灯真の父親を思い出す仁樹。
「というか、こんな危ない日まで朋音ちゃん仕事なのか?」
「あーはい。午前と午後に数件入ってるみたいッスよ。でも、遅くならないみたいで、今日も灯真と夕方ゆっくり過ごしって言ってました」
「そうかぁ。こんな事件、繋がったらあの子が苦労するからな」
ちゃんと気にかけてやれよ、と。朋音の心配をしてくれる先輩に、仁樹は感謝しながら「当然ッスよ」と力強く頷いた。
そして、目線は時刻を確認したくそのまま時計の方へと向ける。
「あ、すみません。俺、電話してきます」
「お、もうそんな時間か? 行ってこい行ってこい」
仁樹が電話をする意味を分かっているのだろう。
いつも通りのことだ、と。雅晴は軽く手を振って裏口へ向かうように促す。
仁樹も軽く頭を下げて、遠慮なくその方向へと向かっていく。
「仁樹コノヤロー!!」
事務室から聞こえる自分への罵声を見事にスルーして。
トゥルルン、トゥルルンーー
《はいはーい、仁樹くん。お疲れ様~》
「あァ、朋音もお疲れ様」
罵声が聞こえないようにしっかりと扉を閉め、電話口にいる朋音に労いの言葉を贈る。
二人の約束の一つ。休憩時間の数分だけ電話をする。
外は雨が降っている。
現在は六月。梅雨の時期だ。今日からまたしばらく雨が降り続けるらしい。
都会独特のコンクリートの匂いと雨の匂いが混ざり合う裏口で、扉に寄り掛かりながら雨で塗れて色が変わっている壁をその目に映す。
「午前中の相談は全部終わったのか?」
《うん、無事終わったよ。でも、午後予定は全部リモートに変更かな⦆
「例の事件でか? リモートなら俺もありがたい」
先程、雅晴にも言っていたが外に出ない分、危険度は低くなる。
心配していたことが一つ消え、ひとまず安心だというように肩の力が少し抜けた。
《灯真くんも集団下校で帰ってくるから、外に出るのはお迎えに行くくらいかな》
「わかった。あと、何か必要なものがあったら言ってくれ。コンビニになるけど、俺が勝って帰るから」
《うん。でも、仁樹くんも気を付けてね》
仁樹は強い。
昨晩のように多数の不良に襲われても一人で解決できるほどの力を持っている。
だが。だからと言って、心配しない理由にはならない。
《無理はしないでね……私がいうのもおかしいんだけどね……》
「……おかしくはなねェよ。心配してくれてありがとう」
少し落ち込んだ声になってしまった彼女を慰めるように、仁樹はその優しい心にお礼を言った。
その後、しばらく話をしてから仁樹は電話を切った。
朋音と話すことは楽しく同時に癒しでもあるのだが、流石に話し続けるわけにもいかない。
(それにしても、『連続犯罪者』といい、最近こんな事件が多すぎる)
ふっとコンクリートで囲まれた世界から灰色の空を見上げた。
今朝よりは弱くなったが、一向に止む気配を見せる気配がない。
数多の水の粒が重力に従って落ちてくる。
「天気が悪いと気持ちも落ち込むッてか……」
晴れの日が待ち遠しいと思いながら、店の中に入って行った。
―――と同時に、お盆が勢いよく回転して仁樹の顔面に見事に当たった。
「ぐわッ!?」
見事。クリティカルヒットだ。
あまりにもの威力だったためか、あの仁樹でもよろけずにはいられなかった。
「謝らないわよ!! それ天罰だから!!」
どうやら店長を抑え込むことに参加しなかったことへの仕返しらしい。
結局は参加しなくても痛い目に合うのは変わらなかった。
このお盆のクリティカルヒットシーンをどうしても絵に描きたくて練習した覚えがあります。
だって、本当にこのシーン書きたくて仁樹に裏口に行ってもらったようなものだもん。




