神と罪のカルマ オープニングsecond【02】
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「このカレーから灯真の人参嫌いがひしひしと感じるな」
目の前に置かれた朝食のカレーを見て、仁樹は思わず笑ってしまう。
他の野菜と比べて小さく切られ過ぎたが故に、逆に目立ってしまっている人参。その存在に「そこまで嫌いか」と笑わずにはいられなかった。
「そして、好物のジャガイモは大きいときた」
「個性が出ているカレーでしょう?」
「可愛い個性の出し方だな」
甘口と辛口に分けられたカレー。勿論仁樹は辛口の方を口に運び、今日を生きるためのエネルギーを蓄える。ちなみに朋音は辛いのが苦手で甘口だ。
「ん、旨い!」
「ありがとう。灯真くんも喜ぶよ」
天気は生憎の雨だが、食卓は見事な笑顔の快晴。
愛しい恋人と可愛い弟の作ったカレーがジメジメとした天気などに負けるはずない。
「今日、何件か相談来てるのか?」
「うん、午前と午後にそれぞれ数件ずつ入っているよ。でも、遅くはならないから今日も灯真くんとゆっくり夕方は過ごすよ」
「俺の家のことなのに、いつもごめんな」
仁樹の実家だが、二人がここに住んでいるわけではない。
急にこの家の家主である灯真の親が帰る暇もないぐらいに多忙になってしまい、代わりに二人……主に朋音が面倒を見ることになったのだ。
本来ならば兄である仁樹が責任を持って面倒を見なければいけないのだが、こちらも仕事の都合上四六時中近くにいるわけにもいかなく、都合のつく朋音が選ばれたのであった。
「ううん、大丈夫。寧ろ、灯真くん大好きだから大歓迎だよ!」
嬉しい点としては朋音が大の子ども好きであったことだろう。苦になっていないことは頼んだ側としては安心できる。
「大好きかァ、灯真に嫉妬しそうだ」
「灯真くんはカッコいいからね~」
「可愛いじゃなくて?」
「カッコいいって言われたいんだって」
「それはマズイ。浮気されねェように頑張らねェと」
弟が恋のライバルになってもらっては困る。
「もっとカッコよくなるの?」
「ならないといけなくなっちまった。男として、彼女に余所見なんかして欲しくねぇしな」
「余所見なんてしないよ」
そう言って、朋音は動かしていたスプーンを止め、目を細めて仁樹に微笑む。
「私の心を射止められたのは仁樹くんだけだから」
それは紛れもない――彼女からの愛。
疑うことのない、朋音が仁樹に向ける愛――
一途で、『揺ぎ無き愛』―――
『私の……私の『想い』を置いていかないで……!!』
一度は置いていってしまった彼女の『想い』。
だけど、いま仁樹の目の前にある。
そして、仁樹の中にある。
置いていってしまった『想い』は、追いかけてきてくれた。
これがどれほどの幸福か―――
「……そうだよなァ!」
追いかけてきてくれた『想い』。
だから、その『想い』に応えられた時。
仁樹はを一生彼女を愛し、大切にしていこうと決めた。
彼女に相応しい男になろう。
隣に立っていても恥ずかしくない男に。
彼女の悲しみに寄り添える男になろう。
彼女が喜ぶことができる男になろう。
彼女が困ったに助けられる男になろう。
彼女が笑っていられる世界を作れる男になろう。
「うん、そうだよ!」
彼女に会って、愛したことで、そう思えるようになった。
人を愛するということは、きっと尊いことなのだ――、と仁樹は彼女の笑顔を見るたびに思うのだった。
「じゃァ、戸締り頼むな」
「うん。今日もお互いに頑張りましょう」
出勤の準備を終えた仁樹が玄関へと向かい、続けて朋音も見送りのためについてくる。
「行ってきます」
「行ってらっしゃい」
二人の約束の一つ。所謂、いってらっしゃいのキス。
恋人になった日から離れる際は必ず行っている。二人にとってはもう日常の出来事であり、相手に愛を伝える大切な行為の一つだと認識している。
……が、だからと言って、片方は見られているのには慣れていない。
「わーラブラブだー!」
「はひっ!?」
奥から聞こえる子ども特有の高い声。
唇を離してそちらに目を向けると、昨晩と同じく階段の柵に抱き着きながら二人を見ている灯真。
だが、顔だけは違ってニコニコと嬉しそうにしている。
「と、とととと灯真くん起きてたの!?」
まだ寝ていると思って油断していたのであろう。真っ赤な顔をした朋音が顔を抑えながらゆっくりと振り向く。
「うん、起きたよ! お兄ちゃんとお姉ちゃんが朝からラブラブで嬉しいなぁー!」
子どもの純粋無垢さはたまには残酷なもので。灯真は自分の嬉しさ百パーセントを届けようとしているのだろうが、聞いている本人はとても恥ずかしそうにして今度は顔を隠してしまった。
『絶世の美女』の真っ赤な顔。中々見れない光景ではないだろうか。
そんな彼女の姿に、ニヤッと仁樹の悪戯心が出てきた。
「なァ―兄ちゃんと姉ちゃんが仲良しで嬉しいよなァ!」
「きゃっ!?」
ガバッと、見せつけるかのように朋音を力いっぱい抱きしめる仁樹。まさかそのようなことをすると思わなかったのだろう。突然の行動に朋音は成すすべもなく、その大きな胸板に顔を押し当てることになる。
「うん、嬉し―!」
「そうかそうか!」
「ひ、仁樹くん!?」
この男に羞恥心はないのだろうか。
ニッコニコに身体を揺らしている弟の姿に満足したのか、朋音から身体を離して、その額に一つのキスを送る。
全く容赦がない。羞恥で涙目になった彼女がこちらを見上げてくる彼女に、再びニヤッと笑った。
「仲が良いことは良いことだろう?」
「……! もー!!」
羞恥が限界に達した彼女は、両手をグーにしてポカポカ殴り始める。
数発は甘んじて受けたが、そろそろ出社の時間だ。笑いながら攻撃から逃げるために、玄関の扉を開く。
天気は雨。だが、心は快晴。
傘は借りていく。最近買ったのだろうか通常より大きくて仁樹の背丈にぴったりな藍色の傘を片手で掴んで、仁樹は楽しそうな声で二度目の挨拶を言った。
「行ってきます!」
多分、仁樹は恋と愛に関しては羞恥心はぶっ壊れていると思う。
あの男は怖いぞ、色んな意味で。




