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ロシアと隠れんぼ

作者: 風花

 先週から、毎日19時のニュースが欠かせなくなった。

 コロナの感染者数の伸びを追いかけるのにも飽きてきて、ようやく自分の平穏な日々のために使える時間を取り戻した矢先のこと。


 ロシアがウクライナへ侵攻する。


 それはもう動かし難い未来予測で、時間の問題であることは世界の慌てぶりからも明白であった。もしかして解決できるのでは、そんな希望はあるかのようでいて、どこにもないことを感じていた。

 もはやそれは、どうなるかでなく、いつなのか、それだけだった。


 果たして、予想通りの結果を迎え、やはりとごちただけで、激しい抵抗のようなものを表明する気にもならなかった。自分の大きさは世界に到底影響を与えるものではない。そのくらいは知っていた。


 そんななか迎えた束の間の休日。


 天気の良さに呼ばれるように朝から外へ繰り出し、行く先々でコーヒーを飲んだ。明らかに水分の摂りすぎだったが、仕方ない。コーヒーの味でしか好みのカフェかどうか判断できないのだ。

 そう言い訳して、カフェインで醒めた頭で行った海の見えるカフェ。

 強い風音が寒さを連れてくるような、一面の冬の海。敢えて地平線でなく、山の見える端の席に腰を据えた。訝しむ店員を尻目に、安定感のある椅子にかけて一つ息をついた。


 見上げた山の稜線を、ロープウェイのゴンドラが上っていく。この風で揺れるだろうそれに、今度乗りに行こうと決意し、頭の中のやりたいことリストに追加していく。


 手にした梅シロップのお湯割りが少し冷めるのを待ち、ぼけっと海を眺める。

 さざめく波間を見つめながら、冷めないお湯割りをソーサーに戻し、インスタグラムを起動する。行きつけのカフェが新しい投稿をしていた。

 世界が戦争に揺れるこんな時だから、カフェに来ることに罪悪感を覚える人もいるー。

 大体そういう意味の一文に、泣きそうになった。


 あぁ、これは自分のことだ。


 込み上げそうな涙を感じながら、目を逸らしていた胸の痛みに気づく。そうか、なんともないなんてことはなかったのかと。

 今、この瞬間に、空を閃光が走り、核兵器が焼き尽くす世界を何度も想像しては、心構えをした。その瞬間まで幸せを取りこぼさないように生きようと、前向きなイメージトレーニングを繰り返した。今になって分かる、落ち込む自分を励ましていたのだと。

 

 海を見つめ、カモメの鳴く声を意識して、カップをソーサーに戻した。美味しかったと一呼吸して、家路についた。

 帰り道、海を見ても、もう泣きたくならないと知っていた。

 心の影で蹲っていた傷ついた自分は、見つかった時に、ただ見つけられたというそれだけで癒されていたのだろう。


 みーつけた!

 みつかっちゃった!


 まるで小学生がかくれんぼをしている時のようだと、笑みがこぼれた。


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