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エノン

「ただいまー!」


 イグノスは意気揚々と宿の扉を開けた。自分の娘の顔を見たフォックさんは口に手を当て、目には涙を浮かばせた。


「イグノス!」

「お母さん!」


 イグノスとフォックさんは強く抱き合った。感動的な光景な俺まで思わず泣きそうになる。


「いやー、良かった。良かったねぇ」


 宿のテーブルの方に能天気に呟く声が聞こえた。その声の主は何と俺が森で出会った金髪の少女であり、彼女はオムライスを食べていた。頬にケチャップが付いている。


「あーーーー! お、お前……森の時の」

「あ、金貨十枚君じゃないか」

「何だそのあだ名は! 今すぐ金貨を返せ!」


 俺は火の剣を抜き、金髪少女に突きつけた。今の俺は強い。一人でこいつに勝つことができるだろう。

 しかし、金髪少女は俺のことを甘く見ているのか慌てた様子はなかった。


「二つ良いことを教えてあげよう」


 金髪少女がキザにピースサインを決める。無駄にカッコよくて腹立たしい。


「な、何を……」

「一つ。君から貰ったお金ならもうない。全部使っちゃった。テヘペロ」


 何がテヘペロだ。無性にグーで殴りたい気持ちが湧いてきた。


「二つ。私は可愛い。とても可愛い。だから、手を出せないでしょう」

「オラ」


 俺は剣で金髪少女の頭を結構強めに叩いた。


「いったいなぁ! いたいけな少女を叩く人がどこにいるっていうのさ!」

「どこにいるって? ここにいる。それで金髪少女。どうしてお前はここにいるんだ?」

「ちょっと、その金髪少女って何さ。私のことはエノンって呼んでよね。私は自分の国にあるダンジョンを攻略しようと思ってこの国まで買い物に来たんだ。それでお腹が空いたからここでご馳走になってるってわけ」


 イグノスの宿は宿泊だけでなく、料亭も営んでいる。偶然にもここに辿り着いたというわけか。


「そのダンジョンってのはまさか、雷の国にあるダンジョンってやつか?」

「ん、そうだけど?」

「エノン。俺をダンジョンに案内してくれ。攻略したいんだ」

「ぶふふ」


 しかし、エノンは俺をバカにしたように鼻で笑った。何だこいつ腹立つな。


「えー!? 君がダンジョン。絶対に無理でしょう」

「聞き捨てならないわね。タケルはね、火の国のダンジョンを攻略したのよ」


 俺がダンジョンを攻略したことを知り、エノンはさっきとは打って変わって興味深そうに俺を見つめた。


「へぇ、ステータスは最初に会った時とあんまり変わらないみたいだけど」

「タケル。見せてあげたら、神器の力」

「そうだな。神器解放」


 エノンに認めてもらうにはひとまず向上したステータスを見せる必要がある。

 俺は鞘に手を掛け、剣を抜く。あの時と同様に身体に力が漲ってきた。


「なるほど。確かにすごいステータスだね」

「ダンジョンを攻略したこと、信じてくれるか?」

「まーこんなステータスを見せられたら信じざるを得ないかな。一緒にダンジョンを攻略してくれたらすごく助かるよ」

「それじゃ、契約成立だな」

「ちょっと待って二人とも。私も一緒に行くわ」


 驚くことにイグノスが同行すると言ってきた。火の国のダンジョンが終わればもう目的は達成したはずだと思ったのだが。


「どうしてだ? もう火の国が滅びることはないんだろ?」

「そうだけど……タケルには色々とお世話になっことだしね」

「それは助かるけど……宿屋はいいのか?」


 フォックさんは自身の胸をドンと叩いた。それと同時に娘より大きな胸が激しく揺れる。


「宿屋のことなら大丈夫! イグノス。タケル君を手伝ってあげなさい」

「ありがとう、お母さん。タケル、私も一緒に付いていってもいい?」

「勿論だ。よろしく頼む」

「三人でダンジョン攻略かぁ。ま、人手が増えるのは私も大歓迎だけどね。明日、雷の国に向かう予定だったんだけど二人とも大丈夫かな?」

「俺は大丈夫だ」

「私もよ」


 この日は宿に泊まり、次の日の朝に雷の国へ向かうことにした。激しい戦闘をしたせいか、すぐに寝付くことが出来た。

 夢でアマテラス様が現れることを期待したが結局現れることはなかった。

 食堂に向かうと、フォックさんが美味しそうな料理を用意してくれていた。


「美味しいです! フォックさん」


 ハンバーガーを食べているのだが、肉がとても柔らかくて美味しい。


「ありがとう、タケル君。これはドラゴンの肉を作った自信作だよ」

「ドラゴンの肉……そうなんですか」


 ドラゴンは食料としても優秀なんだな。元の世界で言うところの牛肉に近い食感である。


「美味しいねー、この肉!」


 エノンは骨つき肉を豪快に噛り付いていた。エノンは細身なのにかなり食欲旺盛のようである。某宇宙戦闘民族のような食べっぷりだ。


「エノン、あなた……すごい食べるのね」

「食べれる時に食べる。これが冒険者の基本だよ」

「まぁ、確かにね」

「みんな、また食べにきてね。必ず生きて帰ってくるんだよ」

「はい。必ずダンジョンを攻略します」


 朝食を食べ終わり、俺達は宿屋を後にした。国の外にある繋ぎの森へと向かう。

 ダンジョンを攻略したことは昨日のうちにイグノスが国の職員に伝えていた。

 そのせいか、街には昨日よりも活気付いているようであった。


「イグノス、ダンジョン攻略出来て良かったな」

「そうね。タケルには本当に感謝しているわ」

「いいねぇこの国は。雷の国なんて激ヤバなのに」


 そういえば、雷の国にあるダンジョンのことは何も知らないな。今のうちにエノンから訊いておくか。


「なぁ、エノン。雷の国のダンジョンってどんなダンジョンなんだ?」

「まー、一言で言うと『最悪』ってやつ?」


 ざっくばらんすぎてどんなダンジョンなのか全く分からない。


「えーっと、その……もっと詳しく説明して欲しいんだが」

「うちの国にあるダンジョンはねー、生贄を要求してくるんだ。いや、正確にはダンジョンの主がね」

「い、生贄?」


 物騒な言葉に思わずビビる。祭壇的なところに人間を捧げる光景が思い浮かぶ。


「そう。ダンジョンの主が国にやってきて、生贄を寄越すよう言ってくるんだ。攫った人間をどうしているのかは分からないけど……もれなく死んでるっぽい」

「ねぇ、エノン。生贄を捧げないとどうなるの?」

「ダンジョンの主が強引に誰かを連れていくよ。助けに行った人は見せしめに首を刎ねられたね。それから、みんなビビってあいつに従うようになったんだ」


 ダンジョンの主、随分と恐ろしい奴だな。生贄にされた人達が不憫でならない。


「なぁ、エノン。国の人達は雷の国から離れようとはしなかったのか?」

「勿論、国を離れようとする人もいたけど、私くらい高いステータスを持ってないと大抵は繋ぎの森にいるモンスターに喰われるか、盗賊に襲われるのがオチだよ」


 雷の国にいれば生贄にされる恐れがある。だが、国を出ようにもモンスターが生息する繋ぎの森を抜ける必要がある。

 雷の国にいる人はかなり厳しい状況にいるわけだな。


「どんな奴なの? そのダンジョンの主ってのは」

「ブラフっていうダークエルフだよ。うちの国じゃ誰も勝てる人はいないんだよね。ステータスも私の数値よりもかなり高いんだよね」


 ダークエルフ。またまた異世界っぽい種族が出てきたな。


「そんな強い相手に一人で戦おうとしたのか? エノンは」

「まぁね。ぶっちゃけ、装備を整えても勝てるか自信なかったけど二人が協力してくれるなら何とか倒せそうだね」

「そうね。タケルならきっと大丈夫よ。そうでしょう?」

「お、おう……」


 正直不安だが、やるしかない。ブラフがフラットよりも強くないことを祈ろう。

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