神器解放
「い、イグノス!」
俺はイグノスの元へ駆けつけた。頭を抱えると、脈がまだあることを確認する。
すぐにポーションを飲ませようとすると、炎が俺に飛んできた。
「うわ!」
本能的に炎を避けたが、ポーションを落としてしまい、瓶が割れてしまった。
「し、しまった……」
上を見上げると、翼を羽ばたかせて宙を舞っている赤い竜がいた。
まさかあれはフラットなのか。
「あはははは! まさか自爆技を使ってくるとは思わなかったな。少し焦ったよ」
ちくしょう、ポーションが……このままではイグノスの命が危ない。
「テメェ……よくも」
すると、イグノスが俺の肩を叩いてきた。
「タケル……あなたは逃げて。ありがとうね、ここまで付き合ってくれて。少しの間だけど楽しかったわ」
「な、何言ってるんだよ! イグノスも生きて帰るんだよ」
「無理。分かるの。私はもうすぐ死ぬ……最後に一つだけお願いしていい?」
「何だよ。お願いって!」
「母さんを連れて……国から逃げてちょうだい……」
そう言い残すとイグノスの目が閉じてしまった。俺はイグノスの首に指を当てる。
彼女の脈はもう無かった。
「い、イグノス……」
イグノスは優しい少女だった。見ず知らずの俺を助けてくれた。
そんな彼女が自分の国を救えないというのはおそらく悔しく仕方ないのだろう。
俺がイグノスの為にしてやれるたった一つのこと。それは……
「あーあ、死んじゃったか。まぁ、ここに来たからには覚悟は出来てたわけでしょ」
「そうだな。フラット、お前の言う通りだ。けどな……イグノスは無念だったと思う。だから、俺がダンジョンを攻略する!」
「君が? 笑わせないでよ。神器も使えないってのに」
さっきから何故か急に力が湧いてくる。今なら――俺は鞘に手を掛け、剣を抜く。
ゆっくりとだが、確実に刃が鞘から姿を現していった。
「ば、バカな……どんどんステータスが上がっている!?」
「神器解放!」
完全に鞘から剣を抜くと、周囲に熱風が吹き荒れ、フラットの身体を軽く吹き飛ばした。
「こ、これが……アマテラスの神器」
「フラット。今の俺のステータスはどうなってる?」
「へぇ……随分と伸びたみたいだね。これなら少しは楽しめるから」
フラットが口から凄まじい炎を吐き出した。しかし、火の剣は炎を全て吸収してしまった。
「きゅ、吸収しただと!? そんなバカな」
「オラァ!」
その場で剣を振り落とす。剣先から炎が放出し、その炎はフラットの身体を飲み込んだ。
「ぐわああああ! あ、熱い!」
効いてる。俺はフラットと互角以上に戦えている。
走り出すと、いつもと比にならなほど素早く走ることが出来た。フラットの後ろに移動すると、大きくジャンプし、奴の上を取る。
「せいやぁ!」
フラットの翼を切った。宙を舞っていた奴の身体は一気に落下していった。
「うわぁ!」
ズドンと大きく地面が揺れ動く。フラットはドラゴンの姿から亜人の姿に戻っていた。
俺はフラットの顔に火の剣を突きつけた。
「終わりだ、フラット」
「舐めるなよ!」
フラットは顔から炎を放つも、火の剣が炎を吸収する。やはり、この剣には炎を吸収する力があるみたいだ。
剣を振り下ろして、吸収した炎を放つ。フラットは苦しそうな表情をしながらも両手でガードした。
「火の魔法は通用しないみたいだね。なら……」
フラットは地面に落ちている雷の槍を拾い上げた。また、さっきのような素早い攻撃が来る。
俺は剣を構えて、攻撃に備えることにした。
ビュン、ビュンと風を切る音が鼓膜に響く。前後左右とフラットは俺の周りを高速で動き回った。
ステータスが上がったおかげでフラットの動きを何とか目で追うことができる。
俺は火の剣を真上に掲げた。炎が刃を竜巻状に纏った。
すると、フラットが後方から俺の背中を突き刺そうとした。
右足を軸に身体を捻り、回転斬りを行う。
「バーニング・トルネート・スラッシュ!」
フラットの攻撃が届くより先に火の剣が奴の腹部を切り裂いた。
「ぐふ……」
フラットはよろよろと歩き、口から血を吐き出した。まだ攻撃をしてくるか?
俺はフラットを警戒したが、奴はバタンとその場に倒れこんだ。
「今に分かるさ……お前らのやっていることが、ただの偽善だってことにな」
そう言い残しと、フラットはピクリとも動かなくなった。
死んだのか。何とか俺はダンジョン攻略に成功した。だが、失ったものが多すぎる。
「ちくしょう……フォックさんに何て言えばいいんだよ」
俺はイグノスの死体を運び出そうとした。すると、脳内から何やら声が聞こえてきた。
――お疲れ様でした。タケルさん。
「そ、その声は……アマテラス様?」
――その通りです。あなたの戦いは天界から見ておりました。
「アマテラス様! お願いします。まだダンジョンを全て攻略し終えていませんけど……俺の願いを叶えてください!」
俺の願いは既に決まっている。それはイグノスを生き返らせることだ。
もし、今願いを叶えることが出来なくても、ダンジョンを全て攻略した後に必ず生き返らせてみせる。
――分かりました。特別にあなたの願いを叶えて差し上げましょう。
「う……ん……」
イグノスが息を吹き返し、ゆっくりと目を覚ますと、辺りを見渡した。
「イグノス、本当に良かった……」
「タケル、どうやらダンジョンを攻略したのね」
イグノスが起き上がり、服に付いた埃を払う。俺は一つだけどうしてもイグノスに言っておきたいことがあった。
「イグノス、約束してくれ。さっきみたいな魔法は絶対に使わないで欲しい。自分を犠牲にするような魔法は絶対ダメだ」
「分かったわ。本当にごめんなさい。勝手なことをして」
――タケルさん。雷の槍を拾ってください。
「分かりました」
俺は地面に落ちている雷の槍を拾い上げた。
「うわ! 何だこれ……」
雷の槍は突然光を放ちし、何かが出てきた。俺の前には黄色い和服を着用し、無精髭を生やした筋肉隆々の男が立っていた。