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異世界人

「入って良いかしら?」

「うん、良いよ」


 イグノスが部屋の中に入ってきた。手にはランプを持っている。


「食事の用意が出来たから降りてきてちょうだい」


 一階に降りると、大テーブルの上には豪華な食事が置かれていた。大きなローストチキンにシチューなど、見ているだけでお腹が空いてきそうである。


「二人とも! 今日は奮発して作っちゃった。さぁ、みんなで食べましょう」


 椅子に座り、三人で夕食を食べることにした。イグノスの母が作った料理はどれも美味しく、現実世界にいる母さんのことを思い出す。

 何も言わずにこの世界に来てしまったが、母さんは元気にしているだろうか。


「あのイグノスのお母さん……」

「フォックだよ。そういえばまだ名前を言ってなかったね」


 フォックさんは優しく微笑んだ。フォックさんは本当に普通の人にしか見えないのに、この国と心中する――そんな強い覚悟を持っている。


「フォックさん。あの……怖くないんですか? この国に残るの。死ぬかもしれないんですよ」

「ちょっとタケル。あなたね……」


 イグノスが俺に突っかかろうとするのをフォックさんが手を出して制した。


「怖くないって言ったら嘘になるけどね。私はこの国に感謝してるんだよ」

「感謝ですか?」

「うん。昔からの言い伝えでね、この国はアマテラス様のご加護があったからここまで発展したんだってさ。私は生まれてきてから一度もアマテラス様への祈りを欠かしたことがない。だから、今日までこの宿をやってこれたし、娘もこんなに立派に育ってくれた」

「お母さん……」


 アマテラス様は見ていたのだろうか。フォックさんが毎日祈りを捧げていたのを。

 だからこそ、この国を救うために俺をこの世界に転移させようと思ったのか。

 イグノスとフォックさんは大好きな国の為に命を懸ける。

 ならば、俺は一体何のために命を賭けるのか?


「そうですか。なら、俺もダンジョン攻略に協力します」

「ちょ、ちょっとタケル! 止めときなさいって言ったでしょ!」

「フォックさん。俺がダンジョン攻略に協力するの反対ですか?」

「いや、私は賛成だよ」

「お母さん、どうして……」

「タケルくんが持っていたあの剣、私には分かる。あれにはアマテラス様の加護があるんだね?」


 なんと、フィックさんは火の剣が神器ということに気づいていたのか。

 もっとも俺が異世界から来た人間とまでは気づいてはいないと思うが。


「その通りです。あの剣にはアマテラス様のご加護があります。俺もアマテラス様のお告げが聞こえたんです。ダンジョンを攻略しろって」

「だってさ、イグノス。この子もダンジョン攻略に連れて行ったらどうだい?」

「無理よ。私は自分のことで精一杯。あなたを守る予定なんて無いわ」

「なら、俺がピンチになっても助けなくていい。自分の身は自分で守るよ」

「ふん、その低いステータスでよく言うわね」


 イグノスは不満そうに二階に行ってしまった。これは完全に怒らせてしまっただろうか。


「ごめんね、タケルくん。あの子、意地っ張りだから」

「あ、いえ……そもそも俺が弱いから」


 さっきだって啖呵を切ったものの、本当に自分の身を自分で守れるかというと全く自信はない。


「ねぇ、タケルくん。違ったら謝るけど、あなた違う世界から来た人間じゃないかしら?」


 ば、バレただと!? どうして分かったのだろうか。やっぱり挙動不審だったのだろうか。


「あの、どうしてそれを……」

「十年前だったかしら。この国に異世界人を名乗る人がやってきてね。街に現れた凶暴なモンスターを一瞬で倒してくれたのよ。あなたはどこかその人に似てるわね」

「あの! その人の名前って分かりますか?」

「さぁ……ごめんね。名前までは聞いてなくて」

「そうですか……いえ、気にしないでください。夕食美味しかったです。ご馳走様でした」


 夕食を食べ終え、俺は部屋に戻った。火の剣に手を掛け、鞘から抜こうと試みるもやはり抜けない。

 戦う意思……戦う意思ってなんだ?


「失礼するわね」


 イグノスが部屋に入ってきた。もう寝る準備をしているのか、肌面積の少ない白い絹で作られた寝巻きを着ていた。

 森であった時もそうであったが抜群のプロポーションを誇るイグノスは見ていてドキドキする。


「お、おう……」

「一応、これを渡しておくわね」


 イグノスは机の上に青い液体が入った透明な瓶を置いた。これはポーションだろうか。


「こ、これは……」

「もしもダンジョン攻略に付いてくるつもりならそれを持っていきなさい。魔力と体力を全回復するポーションよ。殺されそうになったらそれを飲んで何とかすることね」

「あ、ありがとう!」


 俺は深々と頭を下げた。一応は同行するのを認めてくれたってことで良いのだろうか。


「やっぱり、あなた似ているわね」

「似ている? 誰に?」

「十年前、私達をモンスターから助けてくれたあの人に」


 イグノスは部屋から去っていった。十年前に突如、この国に現れた異世界人。

 まさか、父さんが……? 父さんが亡くなったのはちょうど十年前である。

 死んだ父さんをアマテラス様が転生させたってことだろうか。

 もしもそうだとしたら、なぜわざわざそのことを隠していたのだろう。


「また、夢で会った時に聞いてみるから」

 明日に備えて俺は寝ることにした。しかし、夢でアマテラス様が現れることはなく、そのまま朝を迎えた。

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