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息子の思い

「ば、バカな……」


 次の瞬間、俺が見たのは息を切らして立っている父さんであった。

 父さんの近くにはイグノスとエノンが床に倒れ込んでいる。


「正直……危なかった。想造でバリアを作っていなかったら負けていた事だろう」

「く、くそ……」


 だが、ダメージは相当に減ったはず。俺一人だけでも何とか勝ってみせる。


「やめておけ。タケル。これを見ろ」


 突然、話しかけてきたイザナギ様の方を見ると、地面に這いつくばっているアマテラス様の姿が見えた。


「タケル、見ての通り娘はもう戦えんよ。さぁ、大人しく降参しろ」

「た、タケルさん……私に構わず戦ってください」

「け、けど……」

「この世界を救えるのはあなたしかいません! お願いします」


 イザナギ様が何度もアマテラス様の頭を踏みつけた。とてもじゃないが娘にする行為ではない。


「黙れ。お前は私の言うことだけを聞いていれば良かったものを……余計なことをしおって」


 俺はイザナギ様に対し、怒りが湧いてきた。気づけば脚の痛みも忘れ、イザナギ様に襲いかかっていた。


「アマテラス様を離せ! ヘルスラッシュ!」

「想造」


 父さんは想造で剣を生み出し、闇の鎌を受け止めた。よく見ると負傷したはずの父さんの傷は塞がっていた。


「父さん、そこを退いてくれ!」

「ダメだ。それよりお前、治癒魔法は使えないみたいだな」


 父さんは治癒魔法で自分の傷を治したのか。俺は治癒魔法を使えないため、持参していたポーションを飲んで回復を図ろうしたが、父さんは手刀でポーションの入った瓶を叩き割った。


「しま……!」

「これでしまいだ」


 父さんに強烈な拳を入れられ、その場で膝を崩した。

 肋骨の何本かが折れてしまったんじゃないかと思う程の激痛である。

 立ち上がらなければいけないのに力が入らない。


「ち、ちくしょう……」


 自分の弱さに思わず泣けてくる。父さんは俺の肩に手を置いた。


「恥じるなタケル。お前は強い。それは認める。だから、もうゆっくり休め」


 負傷した部分の痛みが少し和らいだ。おそらく俺が反撃できない程度に治癒魔法を掛けてくれているのだろう。

 情けないことに父さんに諭されたことで俺も反撃する気が失せてしまった。


「タケル、諦めちゃダメよ! 戦って!」


 イグノスが立ち上がり、俺を叱咤した。


「そうだよ、約束したでしょ? 勝ったらデートするって」


 エノンも立ち上がり、俺を励ました。確かに約束したが今はそれを言わないで欲しい。


「ちょっと二人とも! いつの間にそんな約束してたの!?」


 ほら、イグノスも驚いている。出来ればイグノスには知られたくなかった……


「タケル……お前……」


 父さんは何とも言えないような表情で俺を見つめていた。どんな心境なのかは分からないが一瞬父さんに隙が出来たのを俺は見逃さない。


「ヘルスラッシュ!」


 闇の鎌を下から上に振り上げた。父さんの身体から血飛沫が舞い、俺の顔に軽くかかった。


「まだそんな力が残っていたか」


 父さんは咄嗟に後ろに飛んで致命傷を避けた。俺が付けた傷も瞬く間に治癒魔法で塞いでしまった。


「厄介だな。父さんの治癒魔法は」

 ダメージを与えてもあっという間に治癒魔法で回復されてしまう。やはり父さんに勝つには治癒魔法を何とかしなければならない。

「俺の魔力はこの神器から成り立っている。治癒魔法を防ぎたければこの神器を奪うことだな」


 父さんは薬指に嵌められた指輪の神器を見せつけた。

 ずっとこの神器に関して気になっていたことがある。


「父さん。ザラムも指輪を付けていた。あれはどうしてなんだ?」

「あの子は感情の持たない人間のはずだった。けどな、たった一度だけ俺に頼んできたんだ。俺が付けている指輪と同じものを身に付けたいと。俺は想造でこの神器と同じデザインの指輪を作り、あの子にプレゼントしたんだ」

「そっか。ザラムが言ってたよ。俺や父さんと楽しく暮らしたいって」

「知ってるよ。ザラムを通して聞いていたからな」


 誰に何と言われようとも俺は新しい世界を手に入れる。

 なぜなら一緒に旅をしてくれたみんなが新しい世界の『想造』を望んでいるから。


「俺も同じ気持ちだよ! イグノスとエノン、ザラム……それに父さんだって生きていて欲しい。本当は会えてすごく嬉しかった。戦いたくないよ……」


 溜め込んでいた思いを父さんに伝える。すると、後ろから足音が聞こえてきた。


「ざ、ザラム……」


 父さんが小さく呟いた。振り返るとザラムにスサノオ様、ツクヨミ様までもいた。


「あなた達! どうして来たのですか!? 天界で待機するよう言ったはずです!」

「ふん。自分の姉が実の父親にドメスティックバイオレンスされているのに放っておけるか!」

「スサノオ……」


 ツクヨミ様は手を俺の頭にかざした。治癒魔法を掛けてくれたのか全身の傷が一気に治っていった。


「ここまでよく頑張ったね。タケルくん、まだ戦えるかい?」

「はい。俺はまだ諦めません!」

「よーし! ワシはイグノスちゃんとエノンちゃんを治癒するぞー!」

「「きゃー!」」


 スサノオ様はものすごい速度で二人に向かっていった。二人がセクハラされないか心配であるが、ひとまず放っておこう。


「ザラム。もう怪我は大丈夫なのか?」

「はい。お兄様。私も戦わせてください。私が望む未来の為に!」


 ザラムはついに妹であることを認めた。イグノスとエノンが俺の元にやって来た。

 スサノオ様はボコボコにされているがちゃんと二人に治癒魔法を掛けてくれたようである。


「全く信じらんないわ……本当に胸触ってきたし」


 まじかスサノオ様。何と羨ま……けしからん。


「けど、やっぱり神様の治癒魔法ってすごいね。ポーションの比じゃないや」


 とにかく二人が完全回復してくれたことはとてもありがたい。これでまだ勝負は分からない。


「タケル。お前の気持ちは確かに伝わった。ザラムが俺のことを大切に思っていることもな。だが、それでも俺は戦う。死んでいったフラットやブラフの思いも背負う必要があるからだ」


 俺の必死に訴えかけにも父さんは応じない。やっぱり父さんは俺の父さんなんだな。

 母さんが言っていた。俺は父さんにそっくりだったと。今なら何となくその意味が分かる。

 どっちも互いの主張を譲る気がない以上、この戦いで決着を付ける気しかない。


「ザラム、これを受け取ってくれ」

「はい、お兄様」


 俺は手に持っていた闇の鎌をザラムに渡す。


「みんな、覚悟は良いな。眷属!」


 三人のステータスが格段に急上昇する。しかし、自分の身体が何だかおかしかった。

 俺の手元には神器が無いにも関わらず力が漲ってくる。

 父さんを含め全員が俺に注目していた。


「何だ、そのステータスは……」

「数値が∞ですって!?」

「タケルさん。三つの神器に眷属を使った時、あなたのステータスは神をも超越するものになります。今こそ使ってください。スリーゴッドビームを!」


 俺は右腕を父さんに向けて照準を合わせた。父さんも俺のステータスを警戒しているのか魔力を想造で生成した剣に集めていた。


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