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父さんの思い

 父さんがボクサーの要領で拳を構えた。

 俺は父さんのことを凝視した。まずは父さんのステータスを確認しようと思ったのである。


 腕力:999

 脚力: 999

 防御力:999

 走力:999

 魔力:999


「何だこのステータスは……」


 全てのステータスの数値が999である。父さんのステータスが高いことは覚悟していたがここまでデタラメな数値だとは思わなかった。


「落ち着いてタケル。全員で掛かれば倒せない相手じゃないわ」

「そうだな。よし、眷属」


 冷静になった俺はイグノスとエノンに眷属の魔法を掛けた。二人のステータスが急上昇する。

 二人のステータスを確認したのかイザナギ様は感心したように二人を見つめている。


「皆さん。父は私に任せてください。この人は私が倒します!」

「ほう。この父に楯突くか。良い度胸だな」


 アマテラス様から何やらどす黒いオーラが出たかと思うととんでもなく恐ろしい形相を見せた。


「うるせぇバカ親父。散々勝手に世界を作っておいて私が一番好きなこの世界を滅ぼすだぁ……あぁん!? 勝手なこと抜かしてんじゃねぇぞ。オラァ!」


 アマテラス様は急に田舎のヤンキーみたいな口調になった。

 余りのド迫力に父さんを含めた周りにいる全員が困惑する。


「な、なんだその口の聞き方は!? ワシは最高神だぞ!」


 イザナギ様の主張も意に返す様子もなく、アマテラス様は親指を自分の顔に突き立てた。


「黙れ無能。今は私が最高神だ。文句があるなら私を倒してみるがいい!」

「ちょ、おま……うわー!」


 ドタドタドタと音を立てながらものすごい勢いでアマテラス様は駆け出し、イザナギ様を殴りに掛かる。

 目にも止まらないラッシュの雨にイザナギ様はてんやわんやになっていた。

 あの素早い動きと承○郎のようなラッシュは流石に神様と言ったところか。


「ふぅ……ま、そっちはイザナギに任せるとしてタケルも早く神器を解放するがいいさ」


 神器。それは文字通り神の武器。俺は神器の力で異世界にいる猛者と何とか戦ってこれた。

 まさか最後に戦う相手が実の父親になるとはこの異世界に来るときは思いもしなかった。


「神器解放!」


 闇の鎌の力を解放した。実はさっき父さんとの会話中、ツクヨミ様からアドバイスが来た。

 闇の鎌にはもう一つ隠された力がある。


「中々のステータスだな。だが、その程度では俺には勝てない。さあ、三人とも。どこからでも掛かって来るがいい」


 神器解放したステータスを見ても驚く様子はない。三人相手でも勝てる自信があるのだろう。

 バチバチと電気が迸るような音がしたかと思うとエノンが目にも止まらぬスピードで父さんに突っ込んでいった。


「あいつ、考えもなしに……」


 父さんは雷の槍を片手で掴み、突き技を防いだ。


「良いスピードだな。俺じゃなかったら見切るのが結構難しいだろう」


 エノンが必死に力を込めるが父さんはその場からビクともしなかった。

 雷の槍からは強力な電流が流れているはずなのに父さんは全く苦しむ様子もなかった。


「この離しなさい!」


 イグノスが父さんに斬りかかる。豪炎を纏う剣を父さんは左腕で受け止めた。


「中々の太刀筋だ。少し腕が痺れた」


 父さんが二人を吹っ飛ばす。僅かに生まれた隙を突いて闇の鎌からいくつもの黒い衝撃波を放つ。

 それらは全て直撃するも頬に軽い切り傷が出来たのみであった。


「タケル、俺に傷を付けたことは評価する。だがな、これで分かっただろう。お前の力では俺には勝てない。子供は子供らしく親の言うことを聞きなさい」

「父さん。俺、父さんのことはあんまり覚えてないけど、俺や母さんの為に一生懸命働いていたこと、尊敬してるよ」


 母さんは父さんのことを今でも愛している。毎日仏壇に手を合わせ、再婚するつもりもないと言っていた。

 父さんとの記憶はほとんどないが、葬式で母さんが大泣きしていた記憶が今でも焼き付いている。


「タケル。父さんはね、立派な父親だったのよ。他人の為に命を掛けられるような素晴らしい人だったわ。一緒に過ごせた時間は少なかったけど、私は今でもあの人のことが好きだわ」

「そうか。タケル、母さんは元気か?」


 終始淡々とした様子の父さんが初めて動揺した。俺は父さんの本心を知りたい。


「うん。母さんは今でも父さんのことを愛しているよ。父さんもなんでしょ。だから戦ってるんだよね?」

「そうだ……俺だってこの異世界には色々と思い入れがある。本当は滅ぼしたくない。けどな、お前や母さんを救いたいんだ!」


 ようやく父さんの本音が聞けた。やっぱり父さんもこの異世界を見捨てたくはないのだろう。


「じゃあ救ってあげるよ。俺が!」


 イグノスとエノンに目配せする。普通に攻撃しても父さんにまともなダメージを与えることは出来ない。ならば、やることは一つだ。


「ヘルトレードオフ!」


 自分の左脚に闇の鎌を突き刺した。突き刺さった箇所から大量の血が溢れ出る。


「うがああああ!」


 覚悟をしておいたつもりだったが、激痛に悶絶しそうになる。


「ぐ……お前、何をした?」


 父さんもまた痛みで顔を歪めていた。さっきの技は自分が受けた痛みを相手に共有させる魔法なのだが、この魔法を使うには条件がある。

 この魔法は自分と親しいものにしか発動しない。簡単に言えば、対象は家族のみなのである。

 俺が父さんの息子だからこそ使えた魔法ということだ。

 ありがとうツクヨミ様。あなたのおかげで勝てそうです。


「これが神器、いや俺達の力だ。イグノス、エノン。やれ!」


 俺は痛みに耐えながらも懸命に叫んだ。

 今の俺は立つ事もままならない。父さんの負傷も相当なものだろう。


「ナイスタケル! そんじゃ、行くよー。スカイサンダースピア!」


 エノンは天井ぎりぎりまで高く飛び上がり、電流を身に纏いながら落下していった。


「この一撃に全てを掛ける! バーニング・トルネート・スラッシュ!」


 イグノスが駆け出し、動くことが出来ない父さんに回転斬りを仕掛けた。

 神器による二つの強大な技がぶつかり、城全体が大きく揺れ動き、いくつかの窓ガラスが割れた。

 三人の姿が煙で見えなくなった。いくら父さんでもこの攻撃には耐えられないだろう。

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