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ザラムの正体

「そうだ! アマテラス様、ザラムはここには来れないんですか?」

「そのことですが落ち着いて聞いてください。彼女はスパイです」

「…………え?」


 スパイ? どういうことだ? だって、ザラムはダンジョン攻略を目指していたし、それに船での時だってあんなに一生懸命ギガロドンの討伐に協力してくれた。


「ザラムがスパイですって? 信じられないわ、そんなこと」

「本当だよ。いくら神様だからって言って良いことと悪いことがあるよ」

「信じられませんか………ではこちらをご覧ください」


 俺達の目の前に大きなテレビ映像のようなものが浮かび上がってきた。

 歩道を歩く一人の女性。

 その女性は明らかにザラムで、三つの神器を抱えていた。俺は嘘だと信じたかった。

 だって、俺はザラムのことを仲間だと思っていたからだ。


「……信じらんない」


 イグノスの表情は怒っているようにも悲しんでいるようにも見える。

 一方でエノンは無表情で映像を見つめていた。


「ザラムがスパイね。そっか……」

「あの、いつ気づいたんですか? ザラムがスパイだってことに」

「船での時です。天界からあなた方の様子を見ていました。ザラムさん、ちょくちょく念話していたんです」

「念話……父さんとですか?」

「はい。私も断片的にしか聞き取れませんでしたが念話で神器を回収すると言っていました」


 それで今まさに実行に移したという訳か。

 だとすれば急いで神器を取り戻さなければならない。


「アマテラス様、早く戻らないと!」

「落ちついてください。ほら」


 アマテラス様が映像を指差した。ザラムが持っている三つの神器が突如として煙のように消えてしまった。

 突然の出来事にザラムは戸惑っているようであった。


「どういうこと? どうして神器が……」


「さっきタケルさんが天界に来る時、神器をすり替えておいたのです。本当の神器はこちらにあります」

 アマテラス様、スサノオ様、ツクヨミ様は自分たちの神器をどこからともなく取り出した。

 どうやら神器はこちらの手の中にあるようだ。


「そうだったんですか。安心しました」

「安心するのはまだ早いですよ。ザラムさんが神器を取り戻しに来るでしょう」

「ザラムとは……俺が戦います!」

「ちょっと待って、タケル。もしかしてあなた一人で戦う気?」

「うん。そのつもりだよ、イグノス」


 俺達にも戦う理由があるようにザラムにも何かしらの事情があるのだろう。

 だから俺は戦いを通してしっかりとザラムの覚悟を受け止めたい。


「タケルさん。ザラムさんのステータスはかなり高いです。例え神器を使っても無傷で済むはずがありません。全員で戦うのが得策だと思います」


 アマテラス様の言うことも分かる。事実、ザラムは神器を持ったエノンに勝利している。


「すみません。今回は一人で戦わせてください。お願いします」


 俺は深々と頭を下げた。ワガママを言っている自覚はある。

 父さんと戦う前に俺が死ねば新しい世界を創る計画は破滅するだろう。


「いいわ。どうせ言っても聞かないんだし。ただし、タケルが殺されそうになったら遠慮なく参戦するけど良いわね?」

「ありがとうイグノス」

「出来れば私が戦いたかったなー。ザラムには借りがあるし」

「すまない、エノン。今回だけは俺一人で戦わせてくれ」

「ま、別に良いけどさ。やばくなったら私も戦うから」

「よろしくな、エノン」


 正直言ってザラムはかなり強い。こちらも死ぬもの狂いで戦わないといけないだろう。

 だが、ザラムを倒せなければ父さんを倒すことなど到底できない。


「皆さん、そろそろ戻りましょうか。ザラムさんが戻ってくると思います」

「分かりました。それじゃスサノオ様、ツクヨミ様。行ってきます」

「うむ、気をつけてな! 天界から応援しとるぞ」

「君達三人に神のご加護を授けるよ」


「う……ん」


 気づけば俺は目を覚ましていた。何やら右手の違和感を感じた。柔らかい球体を掴んでいるような感覚である。

 視線を向けると目を閉じている眠っているイグノスの大きな胸を揉んでしまっていた。


「うわ!」


 俺は咄嗟にイグノスの胸から手を離した。幸いにもまだイグノスは起きていない。


「ひゃ!」


 突然、耳元にこそばゆい感覚が迸った。振り返るとエノンがニヤけていた。


「タケル。イグノスのおっぱい、めっちゃ揉んでんじゃん。エッチだなぁ……」

「う……こ、このことイグノスには……」

「え〜、どうしよっかなぁ……じゃあさ。戦いが終わったら一度デートしてよ」

「で、デート?」

「うん。新しい世界を創る前にさ、タケルとデートがしたい……だ、ダメかな?」


 いつも軽い調子のイグノスが恥ずかしそうに告げる。俺も何だかドキドキしてきた。

 俺はエノンのことを女性として好きかと言われると正直言って答えはノーである。少なくとも今は。

 だが、俺はエノンの気持ちにしっかりと向き合いたい。


「分かった。戦いが終わったらデートをしよう」

「うん、約束ね」

「ふわぁ……よく寝たって、こんなことしている場合じゃないわ! 急がないと」


 アマテラス様はザラムがここに戻ってくると言っていた。俺達は身支度を整えることにした。

 神器は部屋の中にあったため、それを持って宿の外に出た。

 宿の前で巫女の衣装をした人物が見えた。

 間違いない、アマテラス様だ。


「アマテラス様。本当にこの世界に来たんですね」

「はい。そして、ちょうど来たみたいですね」


 アマテラス様が指差す方を見ると、ザラムがこちらに向かって歩いてくるのが見えた。


「タケルさん、イグノスさん、エノンさん。お目覚めになったのですね。強い催眠魔法を掛けておいたのですが」

「それなら私が解除したんですよ。ザラムさん」

「あなたは……なるほど。アマテラス様が解除なさったのですね」

「私のことを知っているとは光栄です。父は元気でしょうか? まだ神器の中に閉じ込められているのでしょうか」

「イザナギ様のことは詳しく話せません。タケルさん。どうか神器を渡していただけないでしょうか?」

「悪いが、それは出来ない」


 俺は強い口調で断った。ザラムは右手を俺に向けると黒いオーラを身に纏う。


「そうですか。ならば、仕方ありません。強引に奪います」

「この状況で勝てるつもりかしら? 四対一よ」


 実際のところは俺とザラムとの一騎打ちを行うつもりなのだが、イグノスはハッタリをかました。

 普通に考えればザラムに勝ち目はない。果たして彼女はどう出るか。


「構いません。私が死んでも戦った記憶はあのお方に引き継がれます」

 ザラムの目に迷いはない。そして、あのお方というのは恐らく父さんのことだろう。

「ザラム、どうしてお前はそこまでして戦おうとするんだ? 父さんにどんな恩義が……」

「あのお方……タケシ様は私を生み出してくれたのです」

「生み出した……? まさか父さんの子供ってことか?」


 父さんが異世界に転生した後、誰かと結婚をして生まれたのがザラムという可能性。

 可能性は低いが考えられない話ではない。

 しかし、ザラムは「いえ」と首を横に振った。


「私は想造によって生み出された人間なのです」

「ま、マジか……」


 さすがに驚いた。確かに想造はありとあらゆるものを生み出せる魔法であるが、人間まで生み出していたとは思わなかった。


「なるほど。どうりでこの世界の人間にしては高すぎるステータスだと思いました」


 想造によって生み出された人間だからこそ高いステータスになったということか。


「なあ、ザラム。ザラムは本当にこの世界が滅びても良いと思ってるのか? このままだとお前も死ぬんだぞ」

「私はタケシ様に従うだけです。あのお方こそ私にとっての神……」


 神。今さらながら神とは一体何だろうな。自分にとっての崇拝対象?

 もしそうならば、俺にとっての神は……


「ザラム。お前の意思を聞きたい。本当に世界を滅ぼしたいのか? 父さんと幸せに暮らしたいとは思わないのか?」

「わ、私は……あのお方の意思に従うだけです」


 ザラムが少し口ごもった。心の底から世界を滅ぼしたい訳ではなさそうだ。


「タケルさん。今、念話を確認しました。タケシさんからです。ザラムさんに神器を奪えと指示を出しています」

「そうですか。父さんが……ザラム、付いてきてくれ。広いところで戦おう」

「分かりました」

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