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ステータス

 国の中心部にある商店街ではやけに人が少なく、歩いている人間もどこか元気が無いように感じた。

 

「それじゃ、うちに案内するわね」

「お、おう……」


 イグノスが案内したのは商店街にある古い木造建の建物であった。なるほどここがイグノスの宿屋か。

 無一文でお世話になるから失礼の無いように気をつけなば。


「お邪魔します」

「あ、いらっしゃーい!」


 中に入るとカウンターにいる中年の女性が快く挨拶してくれた。イグノスを彷彿とさせる顔立ちをしている。


「ただいま。お母さん」

「あら、イグノス。そちらの方は?」

「森で会った人よ。タケルって言うの。盗賊に襲われて一文無しらしいから泊めても上げても良い?」

「あら、そうなの。それは可哀想ね。是非うちで泊まっていってちょうだい」


 あっさりとタダで泊めてくれることを了承してくれた。娘に似て優しいお母さんだな。


「ありがとうございます。あの……俺もお店のこととか手伝えることがあれば何でも手伝いますので」

「別にそんなの良いのよ。けど、代わりと言っちゃ何だけどもしも良かったらイグノスとダンジョンに……」

「お母さん!」


 突然、イグノスが叫んだ。イグノスの母さんは気まずそうに俯いている。

 どうしたんだ一体? それにイグノスのお母さん、『ダンジョン』って……


「い、イグノス……どうしたんだ?」

「何でもないわ。今、部屋に案内するから付いてきて」


 イグノスが案内したのは二階の部屋で、部屋の中には机とベッドなどが置かれている。

 俺が寝泊まりするには十分すぎるくらい立派な部屋であった。


「ここ、自由に使ってくれて構わないから。それじゃ」

「ま、待ってくれ!」


 イグノスが部屋から出ようとしたところを俺は呼び止めた。どうしてもダンジョンのことについて聞いておきたかった。


「何かしら?」

「ダンジョンについて……詳しく教えて欲しい」

「タケル……もしかして、あなた何も知らないの?」

「え、何がだ?」

「災厄をもたらす『火のダンジョン』は後三日のうちに攻略しないとこの国を滅ぼすのよ」


 俺は驚きのあまり絶句した。まさかダンジョンを攻略しないとそんな事態に陥るとは思わなかった。

 だから、アマテラス様はダンジョンを攻略するよう俺にお願いしたのだろうか。


「そうなのか……すまない、本当に何も知らなかったんだ」

「そ、だったら三日以内に準備を進めて早くこの国から出ていくことね」


 街に人の姿を殆ど見なかったのはダンジョンの影響か。国が滅ぶと分かればほとんどの人は出ていくことだろう。


「なぁ……イグノスは逃げないのか?」

「逃げないわ。私は一人でダンジョンを攻略するつもりよ。そのために今日だってポーションの素材を手に入れたんだから」

「だったら! 俺も連れて行ってくれ」


 俺が頭を下げて頼むと、イグノスは呆れたようにため息をついた。


「悪いけどお断りするわ。森での動きを見ている限り強くないようだし、それにステータスだって私よりも遥かに低いじゃない」


 ステータス……そういえばあの金髪少女もステータスがどうとか言っていたな。

 何かステータスを見る方法や魔法があるのだろうか。


「イグノス、自分のステータスを見るにはどうしたらいいんだ?」

「そんなことも知らないのね……鏡でじっくりと自分の姿を見れば見えると思うわ」


 ちょうど部屋の中には立て鏡があり、それで自分の姿を凝視してみることにした。

 見えるのか、これで本当に……

 すると、鏡越しから自分の身体に何やらぼんやりと文字が浮かび上がってきた。


 腕力:20

 脚力:50

 防御力:10

 走力:20

 魔力:10


 おそらく、この数値は普通の冒険者から比べたら低レベルなのだろう。


「どう、見えた?」

「うん。見えたよ」

「良かったら私のステータスも見てみる?」


 俺はイグノスのステータスを見ることにした。果たしてどれくらいの数値なのだろうか。


 腕力:60

 脚力:100

 防御力:50

 走力:60

 魔力:70


 全ての数値が俺よりも高い。魔力に至っては俺の七倍も差がある。

 確かに俺がノコノコと付いていったところで足手纏いになるだろう。


「手伝おうとしてくれる心遣いは嬉しいけどね、ダンジョン攻略は本当に危険なの。だから、私一人で行くわ」


 イグノスの意思は固そうだ。もしもイグノスが一人でダンジョンに直撃すればどうなるのか?

 予想だが彼女は命を落とすことになるだろう。わざわざアマテラス様が俺に神器を持たせてこの異世界に転移したくらいだ。

 この世界の人間だけで攻略できるくらいの難易度であるなら、わざわざそんなことはしないはずだ。

 だが、俺はこの神器は使えなかった。俺が非力すぎて使えなかったのか?


「タケル。私はね、この国を守りたいの。母さんは私がダンジョンを攻略できなかったらこの国と心中するつもりよ」


 心中だと……俺はどうしてそんな考えに至るのか理解に苦しんだ。

 命あってこその人生。逃げればいいじゃないかと思った。


「なぁ、余計なお世話かもしれないが、イグノスもイグノスの母さんも国から出るべきだよ。失敗すれば死ぬんだぞ?」

「そんなこと……分かってるわよ! けどね、どうしても出来ないの。この大好きな国を守りたいのよ」


 イグノスは声を荒げてそう言い残すと、部屋から出て行った。

 俺はベッドに横たわり、身体を休めることにした。くそ。本当に訳が分からない。

 どうしてイグノスはダンジョン攻略なんて無謀なことをしようとするんだ。

 怖くないのか……俺は怖くて怖くて仕方ないのに。今更ながら依頼を引き受けてしまったことを猛烈に後悔した。

 気づけば眠ってしまっていた。夢の中で俺は初めてアマテラス様と出会った場所にいた。


「トラブルがあったようですが、無事に火の国に着いたみたいで安心しました」


 アマテラス様が突然その場に現れた。そうか、夢の中だとアマテラス様とこうして連絡が取れるのか。


「はい。ですが、やっぱり俺には無理そうです……」


 情けないことに既に俺は自信を失っていた。金髪少女にすら手も足も出せないのにダンジョン攻略なんて出来るはずがない。


「そんなことはありません。できますよ」

「だって、神器すら使えないのに……」


 そもそもこの剣は何なのだろうか。鞘から抜くことすら出来ない。別の剣を使って戦った方がまだマシだろう。


「神器は使用者の意思によって覚醒します。あなたが戦う意思を持てば……存分に力を発揮するでしょう」

「戦う意思……」

「神である私からのお告げです。イグノスと共にダンジョン攻略に向かってください。彼女はあなたにとってかけがえのない存在になることでしょう」

「かけがえのない存在?」


 アマテラス様がスーッとベルトコンベアで移動しているかのように後ろに向かって俺から離れていった。


「ちょ、ちょっとアマテラス様!」

 そこで目が覚めた。気づけばすっかり外は暗くなっている。扉の外からコンコンと音がなった。

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