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突破口

「ただいま」


 部屋に入ると、エノンとザラムがベッドの上で何やらトランプで遊んでいた。


「あ。タケル、イグノス。お帰りー!」

「お二人とも、お帰りなさい」

「おう、ただいま」

「二人とも何してきたのー? もしかしてデート?」


 エノンは小馬鹿にする感じで訊いてきた。いつもはちょいと腹立つこいつの軽口にも何だか救われそうになる。


「ちょ……そ、そんなんじゃないし!」


 イグノスは分かりやすそく照れていた。よし、ちょっと揶揄ってやるか。


「まぁ、そうだな。ちょっとイグノスとデートしてたんだ」

「タケル! な、何言ってるの?」

「そうなんだ、ふーん……」


 俺が冗談を言ってやるとエノンは不貞腐れた。こいつも本当に分かりやすいな。


「冗談はさておき早速、みんなに聞いて欲しいことがある」


 俺は先ほど夢で見た出来事を赤裸々に語った。

 俺がいた世界とこの異世界がぶつかり合い、消滅しそうなことを正直に打ち明ける。

 ザラムは相変わらずポーカーフェイスであるが、イグノスとエノンはショックを受けているのか険しい表情で聞いていた。


「想像以上にやばい事態なのね。このままだとタケルがいた世界が滅びる……」

「けどさ、それって本当なのかな。ただの夢ってこともあるんじゃない?」

「おそらくタケルさんの話は本当です。この本にも世界と世界がぶつかり合いになりそうになり、神々が救い出したという記述があります」


 ザラムは先ほど俺に貸した神話の本をみんなに見せた。

 俺もその本を読んでアマテラス様が何か隠しているのではと勘繰ったのである。


「そんなのただのお伽噺じゃないの?」

「お伽噺……どうですかね。少なくとも私は本当のことだと思っていますが」


 確かに神話は俺がいた世界では創作に過ぎないのだが、実際に夢でアマテラス様から真実を確かめたのだから間違いない。

 みんなに本当のことだと知ってもらうにはどうしたらいいだろうか。


「ねぇ、タケル。夢でアマテラス様と会ったって言ってたわよね?」

「ああ。今までも何回か会って助言を貰ってたんだ」

「そうだったのね。ねぇ、私達も夢の世界で会えないかしら?」

「え?」


 イグノスの質問に思わず戸惑ってしまった。それはどうなのだろうか。

 俺以外の人間も天界に行くことが出来るのか?


「どうなの?」

「すまない。ちょっと出来るかどうか分からない……」

「まーまー。ひとまず試してみればいいんじゃない?」

「エノン。試すったってどうするんだ?」


 エノンは口角を上げた。俺は何だか嫌な予感がした。


「タケルとくっついて眠ればいいんだよ! そうすればきっと夢でアマテラス様達と会えるんじゃない?」

「な、何言ってるんだ。お前は!?」


 みんなとくっ付いて寝るだと? 寝れるか、そんなもん! 

 船で寝た時だってかなりしんどかったんだぞ。

 すると、イグノスはパチンと指を鳴らした。


「なるほど! 試して見る価値はありそうね。今日の夜、やってみましょうか!」

「う、嘘だろ……」

 みんなで食事を摂り終えた後、寝支度を整えた。一つのベッドの上で身を寄せ合う。

「さてと、寝ましょうか!」

「そ、そうだな……お休みなさい」


 本来であればランプの灯りを消すのだが、闇の国はダンジョンの影響で常に明るい為、カーテンを閉めて暗くしていた。

 俺は目を閉じて何とか眠ろうとした。


 ドクン、ドクン、ドクン。俺の心臓は激しく鼓動している。

 そりゃ、そうだろ。

 美少女三人が俺にくっ付いた状態で眠れるわけがない。

 それに夕方に二時間ほど眠ってしまったため、俺の目はギンギンに冴え渡っていた。

 意識していると三人の良い匂いがしてきた。


 やばい、何かクラクラしてきた……ふと右隣にいるイグノスに視線を向けると、彼女はスヤスヤと可愛らしい寝息を立てて眠っている。

 イグノス。もう眠ったのか。

 視線を下に向けた。俺の脚を枕にしているザラムもすでに眠りについていた。

 起きているのは俺だけだろうか。左隣にいるエノンが起きているか確認してみることにした。


「やぁ」

「お、おう……」


 エノンは俺のことを見上げている。薄暗闇の中、エノンの瞳は大きく開いており、猫のようであった。

 何を言うか考えているとエノンは俺の左腕をぐいっとしがみ付き、距離を詰めてくると耳元で囁いてきた。


「タケル……大丈夫?」


 エノン、俺のことを心配してくれたのか。

 残酷な真実を知った時、俺は辛くて辛くて仕方がなかった。

 だけど、今は違う。俺は一人じゃない。みんながいる。


「大丈夫だ。みんなに打ち明けたおかげで大分気持ちが楽になった」

「そっか。じゃあ……」

「うお!」


 エノンは俺の頭を抱きかかえてきた。自分の顔がエノンの慎ましやかな胸に当たる。

 こうしていると何だか落ち着いてきた。


「私の豊満な胸で休むと良いよ!」


 豊満な胸か……ちなみに俺の右腕にはイグノスの胸が当たっている。できれば……


「うん。その、ありがとう」

「…………何か文句あんの?」


 エノンの声には怒気が含まれているような気がした。

 まさかこいつ、テレパシー能力でもあるのか。


「あ、ありませぬ」


 俺はエノンに抱かれたまま眠ることにした。息を吸い込むとエノンの匂いがした。

 檸檬に近い香りは嗅いでいると何だか落ち着いてくる。

 エノンに抱きつかれている安心感で段々と眠くなってきた。


「ん、ここは……」


 地面は白いタイルのようなもので出来ている。この場所に既視感を感じた。

 どうやら天界に辿り着くことが出来たようである。イグノス達はいるだろうか。

 辺りを見渡すと数メートル先に二人の人物がいるのが見えた。

 俺は二人の人物の元へと近づく。


「あ、おーいタケル〜!」


 エノンが手を振っていた。どうやら二人は無事に天界に辿り着くことができたようである。

 俺は歩いて二人に近づいた。


「二人とも、ちゃんと来れたんだな」

「まぁね。しかし、神様がいるところっていうんだからもっとすごい場所かと思ったけど随分と殺風景ね」


 確かに天界にはほとんど何も用意されていなかったな。

 強いて言えば椅子くらいのものだが、今はその椅子すらない。

 お呼びではないということなのか、それとも俺への嫌がらせか。


「なぁ、ザラムはいないのか?」


 周囲にザラムらしき人影はなかった。ザラムはここに来ることが出来なかったのだろうか。


「皆さん、お揃いですね」


 突然、俺達の前にアマテラス様、スサノオ様、ツクヨミ様が現れた。

 さっき、俺はアマテラス様に激昂したため居心地の悪さを感じた。

 アマテラス様の表情も心なしか強張っている。


「ガッハッハ! よく来たな二人とも。イグノスちゃん、ちょこっとその胸触らせてもらっても……」

「ひ……!」


 イグノスは咄嗟に両腕を胸の前に重ねた。

 俺がイグノスを助けるべく動こうとしたその瞬間、アマテラス様は腕を上げた。


「うぐわ!」


 スサノオ様の身体が燃え上がり、黒焦げになって倒れた。

 今の炎はアマテラス様がやったのか。


「スサノオ、ちょっと黙ってなさい。それでイグノスさん、エノンさん。私達に聞きたいことがあるのでしょう?」

「あるわ。アマテラス様、これは本当に夢では無いのよね?」


「はい。ここは本来、神々しか入れない世界。あなた達が眠りに落ちた時、精神のみがここに来ることができます」

 なんとそれは初耳であった。今の俺は身体はなく精神だけの状態なのか。

 しかし、イグノスとエノンを見る限りいつも通りの格好である。


「まぁ精神だけとは言ってもね、ここでは現実世界の姿がそのまま形成されるんだよ」


 すかさずツクヨミ様が補足してくれた。やはり、神の中ではツクヨミ様が一番まともそうである。


「私からもしつもーん! なんかタケルがいた世界と私達の世界がぶつかりそうらしいけどさ、何とかならないの?」


 エノンが実にストレートな質問をした。もしも何とか出来る方法があるのなら知りたいが……

「一つだけ……方法はあります」

「ほ、本当ですか!? 一体、それはどんな方法なんですか?」


 俺の気分は高まっていた。重い選択をするつもりであったが、小さな突破口が開いたようでる。

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