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迷い

「アマテラス。もう正直に伝えないか? 僕達がタケル君に世界を救うのを頼んだ本当の理由を」


 ツクヨミ様の言葉を聞き、俺は察してしまった。ザラムから借りた神話の本。

 あれがもしも本当だとすると……


「アマテラス様。もしかして俺がいた元の世界と異世界がぶつかり合おうとしているんですか?」


 俺が訊くとアマテラス様はバツが悪そうに視線を逸らした。

 この反応……俺の予想は正しかったのだろう。


「その通りです。騙していて本当に申し訳ありませんでした」

 俺は頭がカッとなった。怒りのあまり、アマテラス様に詰め寄り彼女の胸グラを掴んだ。

「ふざけんなよ! あんた、確かに言ったよな? 異世界を救ったら元の世界に返すって。それ、嘘だっていうのか?」

「やめんかタケル! アマテラスだってものすごく悩んだのだ。二つの世界がぶつかり合う以上、どちらかの世界を犠牲にしなければならない」


 スサノオ様を俺はアマテラス様から引き離した。だが、俺はスサノオ様の言葉に納得することが出来なかった。


「俺がいた世界には価値がないって言うのかよ……」


 俺は神様に自分の世界が見放されたことが悲しくて仕方なかった。自分の生きてきた全てが否定されているような気になった。


「そんなことはありません。タケルさんがいた世界にも素晴らしい人間はたくさんいます。しかし、人間のレベルを比較するならば……消すべき世界はタケルさんのいた世界だと判断しました」


 もうダメだ。この人達、いやこの神達と話していても埒が開かない。

 一刻も早く父さんと話をしなければ。だが、会ったところで何を話せば良いんだ?


「タケル。正直に言おう。お前の父親は世界を滅ぼそうとしている。理由はお前がいた世界を守るためなのだ」

「もう良いです。分かりました。早く俺を返してください」


 今は考えがまとまらない。俺はひとまず一人でじっくりと考えたかった。


「分かりました……」




 俺は目を覚ました。時間を確認すると二時間ほど経過していた。

 ベッドから立ち上がり、窓の外の景色を眺めた。

 規則正しく並んでいる西洋風の建物は幻想的で少し気分を安らがせてくれた。

 後ろの方から『ガチャッ』と扉の開く音が聞こえてきた。振り返ると、部屋にイグノス達が入ってきた。

 三人の手には大きな紙袋を持っていた。何を買ってきたのだろうか。


「楽しかったわね、ショッピング!」

「そうだねー。服とか久々に買っちゃったよ」

 どうやら三人は服を買ってきたようである。女性同士の買い物はきっと楽しかったことだろう。

「服……そんなに良いものなんですかね?」


 ザラムは首を傾げていた。ザラム自身はあまり服を購入する必要性を感じていないようである。

 二人に促されるがままに購入した感じだろうか。


「ザラムは見た目が良いんだからもっと服に興味を持った方が良いわよ。タケルもそう思うでしょう?」

「そう……だな」


 三人のやりとりを見てふと思った。

 やっぱり俺はこの世界を救うべきなのかもしれない。

 ザラムのことはまだ良く分からないが、イグノスはとても良く出来た人間だし、エノンはまぁ……何だかんだ良い奴だ。

 アマテラス様に頼めば母さんや大切な友人だけでもこの異世界に転移してくれるかもしれない。

 だが……それで本当に良いのか?


「タケル、どうしたの?」


 俺の異変に気付いたのか、イグノスが心配そうに声を掛けてくれた。

 しまった、今は何とか平静を装わなければ。

 明日、ダンジョン攻略に向かうんだぞ。みんなの士気を下げることだけは絶対にできない。


「何でもない。ちょっと俺も散歩に出掛けてくる」

「あ、ちょ……タケル」


 エノンが呼び止めたが俺はそのまま部屋から出て行った。

 今はとにかくゆっくりと一人で考える時間が欲しかった。

 闇の国をアテもなく彷徨い歩いていたが、大広場のベンチに腰を掛けて休むことにした。

 視線を上げると高く聳え立つ城が見える。今すぐにでも一人で向かうべきか……

 考えれば考えるほど思考が袋小路になる。俺は出来ることならこの世界を救いたいと思っている。

 それはイグノス達と出会い、本気でこの世界で出会った人達のことを守りたいと思ったからだ。


「タケル」


 背後から声が聞こえてきた。振り返るとイグノスが立っていた。

 わざわざ俺のことを追いかけてきたのか。何だか申し訳ない気持ちになった。


「イグノス……」

「どうしたの? 急に部屋から出て行ったりして。顔色も良くないし……」


 打ち明けるべきかどうか俺は悩んだ。もしも正直に話したらイグノス達はダンジョン攻略を諦めるんじゃないかと思った。


「えっと、その……」

「よっと」


 返答に迷っているとイグノスは俺の隣に座ってきた。さらに俺の右手を握ってきた。

 普段であればドキドキするのだが、今は何とも言えない安心感が心を満たしてくれた。


「ねぇ、タケル。タケルは闇のダンジョンを攻略したら元の世界に帰るつもりなの?」

「いや……何ていうか」


 この世界を救えば俺がいた元の世界は滅びる。

 どちらを選択するかなんて選ぶことができない。

 父さんは俺と違ってきちんと選択できたのだろう。

 重い決断をすることが出来た父さんを肯定することは出来ないがすごいと思った。


「私は出来ることなら帰らないで欲しい。ねぇ、もしも世界が平和になったら一緒に冒険したい?」

「冒険か。面白そうだけど宿屋のことはいいのか?」

 イグノスはてっきり闇の国にあるダンジョンを攻略したら宿屋に戻るものだと思っていた。

「まぁ、しばらくはお母さんにお願いすることにしようかしら。前々から冒険をしてみたいと思っていたのよね」

「そっか。エノンも……誘ったら付いてきてくれるかな」

「どうかしらね。戻ったら聞いてみましょうか。ザラムも付いてきてくれたら心強いわね」


 俺は平和になった世界でイグノス達と冒険をする。想像するととても楽しそうだと思った。

 だが、本当にそれで良いのだろうか。

 元の世界を捨てるということは、父さんが守ろうとしていたものを蔑ろにするということだ。


「なぁ、イグノス。相談したいことがあるんだ。一緒に宿に戻ってくれるか?」

「うん、分かったわ」


 イグノスと共に宿へと戻った。俺はみんなに全て打ち明けようと思った。

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