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闇の国

 予定よりも遥かに船での時間が長くなってしまったが、ザラムが言うにはあともう少しで到着するという。

 闇の国に到着する前に俺はみんなに父さんのことを話しておこうと考え、部屋に集まってもらった。


「悪いな急に集まってもらって。みんなに聞いてほしいことがあるんだ」

「それで何かしら? 聞いてほしいことって」

「闇の国にいるダンジョンの主のことなんだが……どうやら俺の父さんみたいなんだ」


 俺が隠していた秘密を告げるとまるで時が止まったかのようにみんな黙り込んでしまった。

 俺自身に直接的な罪はないとは言え、かなり心が痛い。

 みんなに責められることも覚悟していた。


「それはアマテラス様から聞いたの?」

「そうだ。夢の中でな。俺も信じたくはなかったがどうやら本当のことらしい」

「なるほど、タケルさんが……確かにどこか面影がありますね」


 ザラムは俺の顔をマジマジと見つめた。ちなみに俺自身は父さんの顔をもうほとんど覚えていない。

 やはり、似ているのか。


「そっかぁ。ダンジョンの主がタケルのねぇ……それで、タケルはどうしたいのさ?」

「ど、どうしたいって……」


 確かに俺は一体どうしたいのだろうか。

 もしも父さんが本当にこの世界を滅ぼそうと考えているとしたら俺は父さんと戦わなくちゃいけない。


「タケル。正直に言って。本当はお父さんと話がしたいんじゃない?」


 イグノスの言う通りであった。まずは父さんと話がしたい。


「みんな悪いな。もしも父さんと会ったら少しだけ話をさせて欲しい。父さんのせいでみんなの国が大変なことになったっていうのに虫が良い話だってのは分かってる……けど、どうして父さんが災厄のダンジョンを作ったのか、その理由が知りたいんだ」

「私は賛成よ。まずはタケルの父さんから話を聞きましょう」

「私も良いよ。まぁ、悪い奴だったら容赦はしないけど」


 イグノスとエノンが賛同してくれた。残りはザラムだけだ。


「ザラムは?」


 ザラムは先ほどからずっと無表情で話を聞いている。彼女の心情は全く読み取れなかった。


「まぁ、いいでしょう。本当に親子であれば話し合いも不可能ではないかもしれませんから」

「ありがとう、みんな」


 俺は頭を下げた。最後のダンジョン、出来ることなら戦いではなく、話し合いで解決したい。

 もしも父さんがこの世界を滅ぼすつもりなら、その時は覚悟を決める。


「礼を言うほどのことじゃないわ。だって、私達は仲間でしょ?」

「仲間……そうだな」


 もしもこの冒険が終わり、この世界を平和が平和になったなら、イグノス達と楽しく暮らしていくのも悪くないかもしれないな。




 船はやがて陸地へと辿り着いた。約一週間ぶりの陸である。俺達は荷物を担いで船から降りる。

 ザラムを先頭に闇の国へと向かう。雑木林を抜け、橋を渡っていると少し先に大きな城が見えてきた。


 あそこに父さんがいるのか。


 やがて、大きな壁の前に着き、人一人通れるくらいのスペースを通り抜けて闇の国に入る。


「ここが闇の国です。ダンジョンの影響で今は明るいですけどね」


 ザラムの言う通り、国はまるで朝のような明るかった。

 今の時刻は夕暮れ時であり、感覚がおかしくなりそうである。

 今まで訪れた火の国や雷の国よりも一段と街中には人が少ない。

 ボロボロになった看板や空き店舗が目に付く。


「何だか随分と寂れてるわね……」


 ザラムの言う通り、この辺りは寂寥感を感じられる。

 例えるなら俺の地元にあるシャッター通りのイメージに近いか。


「ここは夜の店がメインの通りですからね。その手のお店は大体どこも売り上げが見込めませんよ」


 その手のお店ね……店の看板には『ハーレムドラキュラ学園』だの『巨乳エルフ風呂』だのいかにもって感じの名前が書かれている。

 エノンが何やらツンツンと肩を突いてきた。一体、何だろうか。


「ねぇ、タケルはこういう店に興味あるの?」

「ね、ねーよ!」

「うっわ、タケル。最低ね」


 イグノスに侮蔑の目を向けられた。割とガチでショックである。

 そんな中、ザラムは表情を変えることなく淡々と道を歩き続けていた。

 俺達のやり取りに興味が無いのか。

 船に居た時にも思ったが、どうもザラムは感情が薄いような気がする。


「皆さん、今日はひとまず宿でゆっくりと休みましょう」

「そうだな。いやぁ、ようやくちゃんとしたところで眠れる……」


 何と言っても船での生活はとても辛かった。部屋での寝心地は最悪だし、交代制でパドルを漕いでいたため一日の睡眠時間も短かった。

 さらに常時この三人と一緒にいたため、ムラムラ感がマックス状態である。

 とても最低なことを言うが、船での生活でとても刺激的なシーンがたくさんあった。

 今日はそれらをネタにあれすることにしよう。男なら仕方ないことである。


「宿にはどれくらい掛かるのかしら?」

「着きました。ここです」


 ザラムは高いレンガで出来た豪華そうな建物を指差した。フォックさんが経営していた宿よりも遥かに豪華そうである。


「か、かなり豪華ね……」

「確かにな。けど、俺はさ。フォックさんの宿もすごい好きだった。料理も美味しいし、それに……あの人、すごく暖かい感じがするんだ」

「そー、そー! あの人、メチャクチャ良い人だよね。私もまたフォックさんの手料理、食べたいなぁ」


 自分の母親を褒められて嬉しいのかイグノスの頬がヒクヒクとしていた。


「ま、まぁね! 世界で一番の宿なのよ」

「あの皆さん。ここの宿はお気に召しませんでしたか?」

「いや、ここで良い。けど、宿代は大丈夫なのか?」


 ザラムはカバンから布袋を取り出した。


「この中に金貨が十枚ほど入っています。これで泊まることが出来ます」

「うわ、めっちゃ大金じゃん! ザラムってお金持ちだったんだね」


 金貨十枚か。確かアマテラス様に渡されたのも金貨十枚だったな。

 転移直後、エノンに強奪されたわけだが。


「そういえば、エノン。お前、俺から奪ったお金って何に使ったんだ?」


 確かエノンと宿で会った時はもう使ったと言っていた。

 具体的には何に使ったのかまだ聞いていない。


「あー、主に装備にかな。この靴さ、金貨五枚もしたんだよね」

 俺はエノンが履いている靴に視線を落とした。革でできた黄色い靴は一見何の変哲もない靴に見える。

「これが金貨五枚もするのか?」

「うん。走力と脚力が高くなるんだ。これで男の玉を蹴れば瞬殺できるよ」

「おぅ……」


 想像したら何だか睾丸がキュンとした。父さんもエノンの金的で倒せたりしないだろうか。まぁ、そんなので倒せてしまったらそれはそれでなんかショックであるが。


「皆さん、そろそろ宿に入っても良いですか?」

「そうだな。宿に入ってゆっくりと休もう」

 早速、宿の中に入ると洒落た内装が視界に入った


 天井にはシャンデリアが吊るされており、黄金で出来たモニュメントが置かれている。

 ザラムは淀みなく手続きを済ませると受付の人から鍵を受け取った。

 ようやく一人の部屋でくつろげる――そう思っていた俺の幻想はあっさりと打ち砕かれることになるのだった。


「それじゃ、皆さん。行きましょうか」

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