溜まるもの
「あの……実は言いにくいのですが、先ほどの戦闘で操縦が効かなくなってしまいました」
ザラムが余りにもショックな事実を告げる。ここは海のど真ん中。
まさか、ここから泳ぐなんてことは無いよな?
「操縦が効かなくなったって……それじゃ、どーすんのさ!? 言っとくけど私、あまり泳ぎは得意じゃ無いんだかね!」
エノンのやつ、泳ぎが得意じゃ無いのによく躊躇いもなく船から飛び出したな。
「魔力による操縦が出来ない以上、パドルを漕いで闇の国に向かうことになるでしょう」
パドルか。そういえば、部屋に置いてあったな。ひとまず泳いで海を渡る必要は無いみたいで安心した。
「パドルを漕いでってなると、闇の国までどれくらいかかるんだ?」
「おそらく五日くらいですね」
五日という日数を聞き、絶望的な気持ちになった。
数日くらいならまだしも五日もこの船で泊まるなんて、ある意味普通の戦闘よりきつい。
「五日……数日分の食料は用意してあるけど結構厳しいわよね」
「釣竿は用意してありますので最悪、それで調達しましょう。水も私の魔法で作れますから何とかなると思います」
「それじゃ、安心だね! とりあえず服がビチャビチャで気持ち悪いからちょっと着替えてくる!」
「あ、私も……」
イグノスとエノンが着替えをするべく部屋へと向かった。
俺は船の上での生活を何とか耐えきってみせると自分に言い聞かせるのだった。
しかし、俺は船での生活を甘く考えていた。最初は異性である俺に対して気を使ってくれていたイグノスも徐々に警戒心が薄くなってきたのか、俺がいるのに平然と着替えたり、寝ている時、密着することなどが度々あった。
イグノスですらこの有様のため、エノンはさらにひどく俺がパドルを漕いでいるとき、平然と用を足したりする。それも大。
そんな訳で色々と溜まる訳だが、トイレが無いから発散する方法もない。
海に出すことも考えたが……やはり出来なかった。
パドルは二人ずつ三時間交代で漕いでおり、自分の番を終え、部屋へと戻った。
部屋ではイグノスが壁にもたれかけて座っていた。イグノスは赤を基調とした露出が多めの服を着ており、胸元から大きな胸の谷間が垣間見える。
やはり、イグノスは大きいな。ずっと見ているとバレそうだったため、すぐに胸元から視線を逸らした。
「お疲れ。タケル」
「お、おう……」
俺はイグノスから離れたところで座った。近くにいるとおかしな行動をしてしまいそうだからである。
イグノスはそんな俺に対して、不思議そうな表情をした。
「ねぇ、タケル。どうしてそんなに離れたところに座るの?」
俺は必死にイグノスから離れた理由を考え出した。頑張れ、俺!
俺は必死に足りない脳みそをフル活動させた。
「いや、何ていうかその……俺もう何日も風呂に入ってないからさ結構臭うんじゃないかと思うんだ」
我ながらよく出来た言い訳である。しかし、イグノスは立ち上がると俺に近づいてきた。
「そうかしら?」
顔を近づけ、クンクンと匂いを嗅いできた。イグノスの顔が近く、肩にズッシリと重く柔らかいものが当たる。視線を下げると、先ほどよりもはっきりとイグノスの谷間が見えた。
胸と胸の間が大きく開いており、右胸に大きなホクロがあるのが確認できた。
「い、イグノス……」
やばい。何だかドキドキしてきた。イグノスから漂う石鹸のような匂いが鼻腔をくすぐり、興奮を昂らせる。
女性というのは風呂に入らなくても良い匂いがする生き物なのだろうか。
「タケルは何ていうか植物みたいな匂いがするわね……私は好きな匂いよ
」
母さんが言っていた。体臭の匂いで遺伝子の相性が分かるのだという。
自分が良い匂いだと思った相手とは遺伝子の相性が良いらしい。
母さんは父さんの人柄や性格もだが、『匂い』で結婚を決めたと言う……まぁ、冗談で言った可能性も高いが。
「悪い……ちょ、ちょっとトイレに行ってくる!」
俺は急いで部屋から飛び出した。もうダメだ。ここは誰にもバレないように出すしかない。
許せ、偉大なる海よ。俺の遺伝子で汚してしまうことをお許しください、神様。
神と言えば、まさかアマテラス様とか見ていないよな?
スサノオ様とかならともかくアマテラス様に見られたら凹む。
例えるなら、使用済みティッシュを母親に見られるくらい恥ずかしさがある。
俺はズボンに手を掛け、パンツごと下ろそうとした。
「タケルー」
後ろから明るげな声が聞こえた。振り返ると、エノンが何やらニヤケながら立っていた。
「ひゃあ! エノン……な、何だ?」
「いやー、さっき慌てて部屋から出て行ったのが見えたから。どうしたのー?」
「ちょ、ちょっとトイレに行きたくなってさ……恥ずかしいからあっち行っててくれ」
エノンに出すところを見られるなんて恥ずかしすぎる。
普通に用を足すところですらきついのに『あれ』なら尚更だ。
「タケル、もしかして抜きたくなったの?」
抜く? 抜くって言ったか、こいつ。俺のしようとしていることが分かったというのか。
まさかエスパーなのか。みんなエスパーだよ! いや、魔法使いだよ!
「い、いや違う! 何ていうかちょっと水を飲みすぎてしまったからお花を摘もうとしたんだよ」
「あははは! 何、お花を摘むって。草生えるんだけど!」
はっら立つな、こいつ!
それにしても草生えるなんて言葉、日本人しか使わないと思ってたぞ。
この世界の人間も使うのか……
「と、とにかく……早く俺から離れてくれ」
エノンが去ったら隙を見てやってやる。三分……いや、一分以内に済ませてみせるぞ。
船で女性と一緒に生活できるなんて羨ましいと思うかもしれない。
だが、そんなことは無いからな! 実際に体験するとかなりキツイと思うぞ。
「もしかしてイグノスのエッチな姿でも見て興奮しちゃったの……?」
エノンが俺の耳元で甘く囁いた。ゾクゾクと鳥肌が立つ。
気づけば、自分の血液が尿を排出する部位に集まり、方向が上に向く。
「な、何馬鹿なこと言ってるんだよ……ち、ちげーよ」
「嘘ばっかり。タケル、気づいてないかもしれなけどさ。ずっとイグノスが着替えてる時、チラチラ見てたじゃん。このエッチ!」
エノンがズボン越しから股間を掴むと小刻みに手を動かしてきた。
やばい。自分で触るよりも遥かに気持ち良い。
出来ることならこのままエノンの手の感触を堪能していたくなるが、この快楽を受けているといずれとんでもないことになる。出る。
「やめろ、エノン!」
エノンの手を俺の股間から遠ざけた。危なかった……油断すると出すところだった。
「私が抜いてあげても良いんだよ? やり方は知ってるからさ」
どうしてやり方を知っているのか気になる。やはり、そういう経験があるのか?
自分としては無いと信じたいところだが……
「え、遠慮しておくよ。俺はエノンのようなお子ちゃまには興味無いからな」
虚勢を張り、どうにかエノンの手淫を断ると彼女は明から様に不機嫌そうな眉を顰め、「うー」と唸り声を出すと、ポカポカと俺の胸を叩いてきた。
「タケルのバカバカバカ! そりゃ、イグノスの方が胸も大きいし、性格も良いし、タケルがイグノスのことを好きなのは何となく知ってたけど……私のこともちゃんと見てほしいの! 女としてさ」
「エノン……」
エノンは背伸びをすると、俺の唇に自身の唇を重ね合わせてきた。
初めて体験するキスの感触は脳内に電流を浴びせられ麻痺するような感覚であった。
「絶対に…………絶対に振り向かせてみせるからね!」
エノンは俺に気持ちを伝えると少し恥ずかしそうにその場から離れて行った。
エノンの思いを知ってしまった俺は結局『あれ』はせず、そのまま部屋に戻ることにした。




