三種の神器
「タケルさん、一旦距離を取ってください」
「わ、分かった!」
舵輪を勢いよく回し、ギガロドンから離れていった。船が上下に激しく揺れ、勢いよく進んでいく。
しかし、奴は食ってやるぞと言わんばかりに大きく口を開け、船の真後ろに付いてきた。
「ど、どうしたの?」
「まさか、モンスター?」
異変を感じたのかイグノスとエノンが神器を持って部屋から出てきた。
「タケルさん、操縦を代わってください。ギガロドンの足止めをお願いします」
「分かった。イグノス、エノン。協力してくれ!」
二人に声を掛け、船の後方部へ移動した。船の真後ろを追うギガロドンは徐々に距離を詰めてきた。
イグノスは奴に右手を向け、掌から大きな火の玉を放った。火の玉はギガロドンに命中するも一瞬、動きが止まっただけで余り効いてはいないようである。
「何て強靭な身体なの……!」
さらにイグノスが数発火の玉を放つが少し奴の動きが鈍るだけでやはり殆ど効果は無かった。
「バラバラに攻撃しても意味がない。全員一緒で攻撃しよう」
三人同時に攻撃すればさすがにギガロドンでもダメージを追うだろう。
闇の鎌での攻撃は試したことないがやるしかない。
「ぶっちゃけ私、遠距離攻撃得意じゃないんだよね」
言われてみればエノンが遠距離攻撃しているのを見たことがない。だが、今はそれでもやってもらうしかない。
「全く出来ない訳じゃないだろ? 俺だって闇の鎌を使うの初めてなんだ。協力してくれ」
「しょーがない。いっちょ、やってみますか!」
エノンがギガロドンに左手を向ける。エノンの身体から『バチ、バチ』と電気が発生した。
イグノスも攻撃の準備を始めたのか、赤いオーラを身に纏い、周辺の温度が上がった。
俺も負けてらんないな。両手で柄を掴み、肩に鎌を構える。
「神器解放。二人とも、行くぞ!」
俺が合図すると、二人は頷き、それぞれ攻撃を放つ。俺も斜め下に鎌を振り下ろした。
赤い豪炎、黄色い雷光、黒い衝撃波が同時にギガロドンに命中し、奴の周囲が爆発した。
さすがの奴もこれで……
「嘘でしょ……効いてないの!?」
イグノスが戦慄していた。ギガロドンは何事も無かったかのようにそのまま悠々と泳いでいる。そして、ギガロドンは海深くに潜ると姿が見えなくなった。
「うわ!」
先ほどよりもさらに大きな水しぶきが舞い上がった。ギガロドンは空に高く飛び上がり、口を大きく開け、船目掛けて落下してきた。
「く、喰われるー!」
「皆さん、しっかりと船に捕まっていてください」
ザラムは船を左に旋回し、ギガロドンの墜落を回避した。しかし、奴が水面に落下した衝撃で、船が大きく揺れ動く。
その反動で俺の身体が船の外へと飛ばされそうになった。
「く! 落ちてたまるか」
何とか落ちる寸前で手すりに捕まり、船に這い上がった。海水を大量に浴び、服がびしょ濡れである。
イグノスとエノンも服がびしょ濡れになっており、少し透けているが興奮する暇もない。
いや、本当に。
「全く……本当、厄介な鮫ね。あれで何とも無いなんて驚きだわ」
「いや、そうでもないみたいだよ? ほら見て。額のところに切り傷があるのが見えた」
エノンの目が鋭くなった。あの一瞬でよく見えたものである。
この三人の中で一番戦闘スキルが高いのはエノンかもしれない。
エノンは手すりに右足を置いた。まさかエノンの奴、直接攻撃するつもりなのか?
「お、おい、エノン! 船から飛び出すつもりか? 幾ら何でもそれは……」
「ギガロドンを仕留めるためにはそれしかないよ!」
確かにこのまま奴に遠距離攻撃を当てても効果は薄いだろう。
なら、一か八か接近戦で行くほうが良いのかもしれない。
だが、最悪全滅する可能性もある。そんなリスクを犯してまで戦うべきなのか?
「タケル」
イグノスが俺の肩に手を置いた。イグノスの表情を見て、理解した。
どうやらエノンの作戦に同意のようである。
「イグノス……」
「タケル、戦いましょう。私達ならきっと出来るわ」
「分かった。あの鮫に見せてやろうか。神器の力ってやつをな! ザラム、船を奴の横に移動させてくれ」
「分かりました」
船はギガロドンと並行するように走る。背びれのみが出ている状態のギガロドンが水中から姿を現し、徐々に船に近づいてきた。
やがて、攻撃が届きそうな距離に入った。
エノンは船から勢いよく飛び出すと、ギガロドンの背中に雷の槍を突き出した。
ギガロドンの身体から凄まじい電撃が迸る。奴はけたたましい雄叫びを上げ、エノンごと水中へと潜っていった。
「エノン!」
ギガロドンが水中に潜ってから数秒後、奴が再び姿を現す。
今度は真正面から突っ込んできた。
大きく開けた口から大量の鋸状の歯が見えた。船は斜め右に移動し、辛うじて喰われずに済んだが、完全には避けきることが出来ず、メキメキと音を立てて船の一部が壊れた。
エノンは雷の槍にしがみ付いているがかなりキツそうである。
「まずいわね。あのままじゃエノンが危ないわ」
「一瞬でもあいつの動きを止めることが出来れば良いんだが……」
水中に潜られるとこちらから手を出すことが出来ない。実に厄介な相手である。
雷の国に向かう際、ザラムがギガロドンとの戦闘を避けたのも頷ける。
「また潜るみたいですね」
ギガロドンは再び水中に身を潜めた。奴の影が船の周りをウロついているのが確認できた。
こいつが次に姿を現した時に必ず仕留めてやる。
やがて、奴の影が船の真下に移動した。まさか、こいつ……
「ざ、ザラム!」
「もうやってます!」
ザラムもやばいと思ったのか、船が進む軌道を変えた。
ギガロドンが水中から飛び上がり、空中から落下してきた。
イグノスが助走をつけて走ると船から飛び出し、落下中のギガロドンに回転斬りをした。
「バーニング・トルネート・スラッシュ!」
刃はギガロドンの額を切り裂き、大量の血が吹き出た。
ギガロドンは『ギャオオオオオウウウン!』と苦しそうな声を上げ、イグノスと共に海に落下した。奴の鮮血で周囲の海水が赤く染まる。
「イグノス!」
ギガロドンはイグノスに向かって泳ぎだした。俺は躊躇うことなく船から飛び出し、跳躍する。両手で鎌を振りかぶり、奴の背中を切り裂こうと試みた。
しかし、俺の接近に気付いたのか、ギガロドンはピタリと止まった。
まずい。また潜られる……!
「うおおおお! やって、タケル!」
水中からエノンが顔を出す。ビリビリとギガロドンの身体から電流が流れた。その場で奴は留まった。
「ナイス、エノン。ヘルスラッシュ!」
水中に一直線上の水しぶきが上がり、ギガロドンの身体が真っ二つに斬りさくことに成功した。
無残なギガロドンの死体を見て、ようやく安堵の気持ちになった。イグノスが俺の近くまで泳いできた。
「全く、無茶するんだから」
「そりゃ、こっちのセリフだ。おい、エノン。平気か?」
「ゴホッゴホ! 全然平気じゃないよ。耳と鼻に水が入るわマジでやばかったんだから!」
大丈夫そうだな。俺達は泳いでギガロドンの戦闘で傷づいた船の上に上がった。身体中が痛い。
「ハァ……偉い目にあったわね。服ももうビシャビシャだし最悪だわ」
「けど、これで安心して闇の国にいけるな」
苦労したが、倒した甲斐があったというものだろう。魔力も大分消費したが、ポーションを飲んで少し休めば回復するだろう。