ギガロドン
「それじゃ、ザラム。この船について詳しく話してもらえるかしら?」
俺達四人は部屋に集まり今の状況を話し合うことにした。操縦は現在、誰も行っておらず、帆が追い風を受けて、真っ直ぐ進んでいる状態である。
「分かりました。まず、この船にはトイレがありません。ですので、したい場合は海でするようお願いします」
イグノスは頭を抱えた。先ほど、俺はイグノスとエノンには部屋へと戻ってもらい用を足した。
小なら何とか海で出来るが、大の場合は結構難しそうである。
もしもするなら尻を海の方に突きつけてする形になると思うが船の速度は中々速い。
下手すると海に落っこちる可能性がある。それも排泄しながら。
「やっぱり……海でするしかないのね」
「はい。船でされると悪臭……特に大の場合はひどくなりますので必ず海でするようお願いします。あと、船酔いして吐瀉物を吐く場合も海にお願いします」
船酔いは今のところ大丈夫そうであるがみんなはどうだろうか。
「この中で船酔いしている人はいるか?」
「私は大丈夫よ」
「私もー」
「今のところは大丈夫そうですね。ですが、油断しないでください。波の揺れは天候で大きく変わりますから。揺れが大きくなればなるほど酔う可能性も高くなります」
「分かった。気をつけておく。それとさ、ギガロドンについてなんだが、いつぐらいに遭遇するんだ?」
俺はギガロドンが気になって仕方がなかった。今もこの瞬間にも現れるんじゃないかと思うと不安に駆られる。
「分かりません。ギガロドンはこの海域を縦横無尽に泳いでいます。今すぐに現れるかもしれないし、明日現れるかもしれません」
「随分怖いこと言うな……それじゃ、いつでも戦えるようにしておいた方がいいってことか」
「その通りです。それと皆さんにも船の操縦をお願いしたいと思います。三時間交代でどうでしょうか?」
「俺は構わない。二人はどうだ?」
「私はいいよー!」
「私も。それじゃ、操縦方法を教えてくれるかしら?」
俺達は部屋から出て、ザラムから操作方法を教えてもらった。
操縦方法は至ってシンプルで俺でも操縦することが出来るようなものであった。
船の速度は舵輪に注ぎ込む魔力量で変わるため、ザラム以外は神器を持ちながら操縦することにした。
なお、操縦はザラム、イグノス、俺、エノンの順である。ザラムとイグノスが順当に操縦を終え、俺の番がやってきた。
俺は左手に闇の鎌を持ち、右手で操縦を行なっていた。
操縦中にギガロドンと遭遇してもすぐに戦闘に移れるし一石二鳥である。
最初は操縦しにくかったものの徐々に操縦のコツも掴み、大分暇になった。
天気が良く、日差しを受けた眩い海は実に美しい。
このまま何も起こらず無事に着けばいいなと思った。
――ジョロジョロジョロ。
「……」
船の後ろの方から海に液体が落ちるような音が聞こえてきた。
いやぁ、正直これはきつい。誰かが用を足しているのが丸分かりである。
到着するまで何とか耐えるしかないか。
音が消えてから少し時間が経った後、ザラムがやってきた。
「タケルさん、今少しよろしいですか?」
「うん、いいけど。どうした?」
「イグノスさんとエノンさんには既に伝えましたが、闇の国とダンジョンについて教えておきたいと思います」
「そうか、聞かせてくれ!」
俺は父さんのことについてどんな些細なことでもいいから知りたい。
父さんが死んだのは十年前、俺が小学一年生の頃であった。
父さんの職業は消防士であり、毎日働きづめで一緒に遊んでもらった記憶がほとんどない。
ある日、学校から帰宅すると母さんがリビングで泣き崩れていた。
父さんは仕事中に亡くなったらしい。
当時の俺は悲しいとかそういう感情は無かったが、母さんが泣いているのを見てとても辛い気持ちになった。
「闇の国は本来、常に夜のように暗い国です。そのため、闇の国では接待を伴う飲食店や風俗店がたくさんあります」
「そ、そうか……」
闇の国、中々すごいところだな。しかし、そんな店が多いとなると治安はあまりよろしくなさそうだ。
「ですが、この数年でダンジョンの力が強くなってきました。国民が次々と死に絶えている状態です。さらに闇の国に日差しが差し込むようになりました」
「国民が次々死に絶えているっていうのはダンジョンの主が直接手を下しているわけじゃないんだよな?」
「はい。間違いなくダンジョンの力でしょう。闇の国にあるダンジョンはお城です。城の最上階にダンジョンの主がいます」
城の最上階……そこに父さんがいるのか。父さんは俺のことが分かるだろうか。
父さんがどうして災厄のダンジョンを生み出したのか知りたい。
「ザラム。ダンジョンの主と戦ったんだよな?」
「はい。負けましたが」
「教えてくれ。ダンジョンの主がどんな魔法を使うのか」
アマテラス様から父さんが想造という魔法を使うことを聞いたが、他にどんな魔法を使うのかまでは知らない。
「分かりません。私と戦った時は魔法を使いませんでしたから」
「それじゃ、体術だけでザラムを退けたっていうのか?」
「はい。完敗でした」
魔法に長けたザラムが体術だけでやられてしまうなんてさすがに驚いた。
こちらには神器があるとはいえ、果たして勝てるだろうか。
「相当強いんだな。なぁ、ザラム。そろそろステータスを見せてくれないか?」
船に乗った時から何度かザラムのステータスを見ようとしたのだが、彼女は未だにステータス隠しの魔法を掛けているようであった。
「仕方がありませんね。では、お見せします。ステータス・解」
俺は早速、ザラムのステータスを確認することにした。
腕力:100
脚力:100
防御力:100
走力:100
魔力:100
これがザラムのステータスか。全ての数値が100とは某幻のポケモンのようである。
確かにこの数値なら神器を持ったエノンと渡り会えたことも頷ける。
「ザラム。俺は眷属っていう他の人が神器を使えるようにする魔法が使えるんだ。この闇の鎌はザラムが使ってくれないか?」
ザラムが神器の恩恵を受ければ、相当なステータスになるだろう。
俺はザラムに眷属の魔法を掛けようとした。
「ありがとうございます。ですが、それは後にしておきましょう。今は無事に闇の国に辿り着くことが先決です。船に着くまではタケルさんがその鎌を持っていてください」
「それもそうだな。分かったよ」
ふと斜め前方に何かが泳いでいるのが見えた。尾びれのついた大きな生き物。
まさかあれは……
「どうやら来たみたいですね。ギガロドン」
大きな水しぶきを上げ、勢いよく現れたギガロドン。
かなりの大きさで、この船よりも大きいと思われる。