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父さん

「タケルさん」


 夢の中でアマテラス様が話しかけてきた。約束通り俺を天界に案内してくれたようだ。

 天界にはスサノオ様とツクヨミ様もいる……しかし、二人は机の上で腕相撲を行なっていた。


「くぬおおおおお! 負けるか、スサノオ!」

「末っ子の癖に生意気な……ふんぬーーー!」

「えっと……」

「バカな弟達のことは放っておいてください。では、まず何から聞きたいですか?」

「そうですね。まずは父さんのことから聞きたいです」


 もしも父さんがこの世界にいるのなら俺は会いたい。父さんに会えたならどんなことを話そうか。

 やはり、母さんの現状とか伝えるべきだろうか。


「分かりました。結論から言えば、あなたの父親は異世界にいます」


 ドクンと心臓の鼓動が高まった。やはりそうか……期待に胸を膨らませ、質問を続けた。


「アマテラス様! 父さんは……父さんはどこにいるんですか?」


 しかし、アマテラス様が悲しげな表情を見せると、信じられない事実を告げる。


「あなたの父親がいる場所は……闇の国です」

「闇の国? それってまさか……」

「タケルさんの想像通りだと思います」


 アマテラス様の話はこうだった。父さんはかつて元の世界から異世界に転生し、冒険者としてモンスターや魔族を倒し、名乗りを上げていった。

 しかし、ある時からこの世界の滅亡を渇望するようになり、災厄のダンジョンを作ったという。


 なお、ダンジョンの主であるフラットやブラフはかつての冒険者仲間だったらしい。


「タケルさん。私はあなたの父親に魔族に苦しむ世界を救うようお願いしておりました。しかし、結果としてそれが良くなかったみたいです」

「そんな……どうして父さんは災厄のダンジョンを作ったんですか!?」

「それは私にも分かりません。私も他の世界の管理で何があったのか詳しく見てはいませんでしたから。おそらくですが、魔王と戦った時に『何か』があったのだと思います」


 世界というのは俺がいた世界と異世界だけだと思っていたが、他にもいくつかあるんだな。

 魔王……父さんが変わってしまったキッカケがあるなら魔王について調べるべきだろう。


「そうですか。分かりました。父さんが変わってしまった原因を突き止めたいと思います」

「よろしくお願いします。それと、あなたの父親が使う『想造』という魔法には注意してください」

「どんな魔法なんですか、それは?」

「自分が思い浮かぶ武器、建物、アイテムなどを自由に生成することができる魔法です。あなたの父親が転生する時、私が授けた魔法です」


 何でも自由に生成できる魔法だと……チートもいいところじゃないか。

 魔法の効果を聞いて、ふと疑問に思ったことがある。


「災厄のダンジョンはその想造という魔法で造られたんですか?」

「その通りです。魔族との戦いで役に立てればと思ったのですが、与えるべきではありませんでしたね」


 アマテラス様は心底過去の行いを後悔しているようであった。

 まさか自分が与えた魔法が世界の滅亡の危機を生み出すなんて思わなかっただろう。


「アマテラス様。俺も想造という魔法、使えるようにできませんか?」

「残念ですがそれは不可能です。想造を使えるように出来るのはただ一人だけです」


 もしも使えるようになればかなり有利だと思ったのだが、出来ないというのなら諦めるしかないか。


「そうですか……分かりました」


 『ダン』と机の叩く音が聞こえてきた。スサノオ様の手の甲が机に接していた。

 どうやら、腕相撲はツクヨミ様が勝ったようである。


「くそー! 負けた、もう一回……って、うおぉ!? タケルじゃないか!」


 スサノオ様が俺に気づいた。というか、今まで気づいていなかったのか。


「やぁ、タケル君。また会えたね。ここは退屈なところだがゆっくりしていくといい」


 ツクヨミ様は柔和な笑みを見せた。さっきまで凄まじい腕相撲を繰り広げていたのに全く息を乱していない。


「スサノオ様、ツクヨミ様。ご無沙汰してます」

「うむ、うむ。お主の活躍は天界からきちんと見ておったぞ! タカイサンダースピア、見事であった」


 正しくはスカイサンダースピアなのだが……まぁいいか。そんなことは。


「ありがとうございます。スサノオ様のジャンプを見て咄嗟に閃いたんです」

「そうかそうか! 眷属の魔法はあの金髪の娘に使うと良い。あの娘ならきっと雷の槍を存分に使いこなせるだろう」


 雷の槍は確かにエノンに最適ではあるのだが、おそらくエノンと行動するのはこれで終わりとなるだろう。

 イグノスも闇の国まで付いて来てくれるかどうか怪しい。


「俺もそう思います。あの、皆さんのご両親ってどうされてるんですか?」


 古事記にはアマテラス様達の親に関する記述が載っていた。確か名前はイザナギとイザナミだったか。


「母は私達が物心つく頃前には黄泉の国の住人となっています。父は……」

「ふん! わざわざ神器を作りやがったあのクソ親父のことなんか思いだしたくないわ!」


 スサノオ様の言葉に違和感を感じた。確か前に神器は神達が作り出したものと言っていたな。

 神器はアマテラス様達が作ったものでは無かったのか。

 すると、アマテラス様がものすごい目つきでスサノオ様を睨んだ。

 スサノオ様は失言だと気づいたのか「あ」と呟き空を仰ぐ。


「あの、神器は皆さんが作ったものじゃないんですか?」

「はい。神器は私達が作ったものではありません。私達の父、『イザナギ』が作ったものなんです」

「あのクソ親父が作ったのだ。お前らがいつか悪さをした時に閉じ込めて置けるようにってな」


 ツクヨミ様が呆れたようにため息をついた。


「全く良い迷惑だよ。元はと言えばスサノオとアマテラスの喧嘩が原因だったんだよね。挙句、僕の神器まで作っちゃうし」


 アマテラス様は少々バツが悪そうに斜め上を見た。神器の誕生にはそんな背景があったのか。


「ですが、その神器のおかげで人間が神の力を使うことが出来るわけです。ご存知の通り、スサノオとアマテラスは封印されてしまったわけですが」

「その……イザナギ様はどこにいるんですか?」

「さぁ、分かりません。かなり前にどこかに消えてしまいました」


 まさか神様が蒸発するとは。しかし、この三人の父親ね……

 どんな人なのかものすごい気になるな。


「ロクでもない父でしたよ。考えもなしにたくさんの世界を作り出しては私達に管理を押し付ける。本当に迷惑でした」

「えっと……ちなみに皆さんは世界を滅ぼしたこともあるんですか?」

「おお! あるぞ、あるぞ! 民度が低い世界はバンバン滅ぼしたな。おかげで破壊神なんて言われたりしたわ! がっはっはっは!」


 愉快そうに笑うスサノオ様を見て俺は思わずドン引きする。

 やはり、神と人間では価値観が大きく異なるようである。


「スサノオ、タケルさんがいる前でそんな話をしないの!」


 アマテラス様が声を荒げた。怒られてしまったスサノオ様はしょんぼりと落ち込んでしまった。何だか少し可哀想である。


「アマテラス様。俺がいた世界は滅ぼしたりはしないですよね?」

「勿論です。あの世界は他の世界と比べても素晴らしい人間が多いですから」


 その言葉を聞いて安心した。異世界を救って無事に戻れたとしてもその後に神様に世界を滅ぼされたら溜まったものではない。


「タケルくん。君は闇の国で自分の父と戦うことになるかもしれない。出来るかい? もし辛いなら僕がまた戦いに向かうけど……」

「大丈夫です。俺にやらせてください」


 きっと父さんが災厄のダンジョンを作り出したのは何か理由があるはずだ。

 俺は父さんと会い、その理由を聞き出す。


「さすがはタケルさん。私が見込んだ人間です。闇の国に行く為にはまず港に向かってください。そこで誰かから船を借り、闇の国に向かうのです」

「船でですか……かなり遠いんですよね?」

「はい。船以外に行く方法もあるにはあるんですが……かなり時間が掛かるんです。船が一番最適なんですよ」

「分かりました。それじゃ、ひとまず港を目指します」


 ひとまず聞きたいことは聞けた。あとは闇の国に向けて出発するだけである。

 アマテラス様は両手を組み、目を瞑った。


「タケルさん。あなたに神のご加護を与えます」

「ワシからも加護を授けよう。頑張るのだぞ」

「僕からも神のご加護を。頑張ってね」


 徐々に意識が覚醒していき、ゆっくりと目を開けた。窓から差し込む日差しが長時間睡眠をしていたことを知らしめる。

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