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雷の槍

「こいつらは俺のとっておきだったんだがな。お前らを殺すためにありがたく使わせてもらうぞ」

「ブラフ……テメェ」


 ぶっ殺してやる――そう言おうと思った時、エノンが立ち上がった。

 黄色いその瞳の奥から並々ならぬ強い覚悟が感じられう。


「タケル。お願いがある」

「な、何だ?」

「この二人は私が止める。だからさ……あいつはタケルが倒して。雷の槍で」


 俺は正直心配だった。死体とは言え、エノンは自分の両親とまともに戦うことが出来るのだろうか。


「エノン。任せても……良いんだな?」

「勿論。だって私は強いから!」


 エノンは慎ましやかな胸をドンと叩いた。本当にこいつは頼もしいな。

 俺は「イグノス!」と叫んだ。呼び掛けられたイグノスは俺の方を見た。

 剣を鞘にしまい、イグノスに火の剣を投げ渡す。


「これを使え。眷属!」


 イグノスは剣を受け取り、ゆっくりと鞘から剣を抜き始めた。


「タケル、ありがたく使わせてもらうわ! このゾンビ達は私に任せてちょうだい!」


 イグノスの近くにいたゾンビ達は火の剣から放たれる熱風によって吹っ飛ばされた。

 イグノスはさらに追い討ちをかけるべく、火の剣で彼らを斬っていく。

 ゾンビは斬っても身体が再生するが、先ほどよりはイグノスの表情に余裕が出ていた。


「はい、タケル。これでチャチャっとあいつを倒しちゃって!」

「おう! 任せておけ!」


 エノンから雷の槍を受け取ると、力が漲ってきた。

 ブラフは俺のステータスを確認したのか、眉を顰めた。


 エノンは自分の両親と戦闘を開始した。

 母ゾンビは杖から放たれる雷の球を放つ。

 エノンは雷の球を鮮やかに避けると、父ゾンビに的確に蹴りを入れる。

 しかし、父ゾンビは何語も無かったかのように剣を振り上げる。


「おっと! さすがは私の父さん。結構強いな」


 相手がゾンビである以上、倒しきることは出来ないだろう。

 やはり、ネクロマンサーを止める為には俺がブラフを倒さなければならない。


「雷の槍を使うか。懸命な判断だな」

「そりゃどーも。一瞬で決めてやるから覚悟しておけよ」


 地面を蹴り上げ、超スピードで突き技を放つ。

 しかし、自分のスピードをコントロールできず、ブラフの遥か横を通り過ぎてしまった。


「…………お前、まさか神器を使いこなせないのか?」


 ブラフが大きくため息を吐く。なんだよ……そんなに呆れなくたって良いじゃないか。


「じゅ、準備運動だ! そう、準備運動」


 再び攻撃を試みるも、やはり当たらない。

 どうする。モタモタしているとイグノスとエノンがやられてしまう。


「お遊びはここまでにさせてもらおうか。ダークスラッシュ」

「うわ!」


 闇の鎌による斬撃を咄嗟に超スピードで避けた。回避には最適だな、この神器は。


「ち、鬱陶しい!」


 ブラフは腹立たしそうにカシムを殺した黒い衝撃波を何度も放ってきた。

 雷の槍の力で何とか攻撃を避け続けていたが、両脚に疲労を感じてきた。

 神器の力はその強大さゆえ、今の俺では長時間使い続けるのは難しいようだ。


「鬱陶しいなその動き。だが、このまま戦い続ければお前は負けるだろう。そこで一つ、提案をしてやろう」

「提案?」


 この場を無事に脱することが出来るのなら条件を呑むことも少し考えたがブラフが提案したその条件は俺にとって到底受け入れ難いものであった。


「今戦っているイグノスとエノンという少女を生贄にさせろ。そして、神器をここに置いていけ。そうすれば、お前の命だけは助けてやろう」

「ふざけるなよ。そんな条件受け入れられるか!」

「そうか。結構良い提案だと思ったんだがな。お前はここの国の人間ではないのだろう。どうしてそこまでして戦おうとする?」


 確かに俺はこの国の人間でも、この世界の人間でもない。だが、俺はこの国を守りたいと心の底から思っている。


「最初はアマテラス様に頼まれたからダンジョン攻略をしようと思った。だけど、今は違う。この世界に来てから俺は色んな人に世話になった。だから……俺は自分の守りたい人の為に戦う!」

「タケル……お願い、そいつを倒して! 私は絶対に雷の国を守りたいの!」

「タケル! 負けたらただじゃすまないからね。あなたの力、お見舞いしてやりなさい!」


 エノンとイグノスから激励の言葉を貰ったおかげなのか、両脚の痛みが少し和らいだように感じた。

 この神器を使いこなす為には……俺は夢で見たスサノオ様の行動を思い出した。


「お前の志は認める。だが、俺も大義の為に負けるわけにはいかない。さぁ来い! 決着をつけよう」

「望むところだ! ブラフ!」


 雷の槍による突撃はやはり、コントロールが上手くいかず、ブラフの遥か横を通り過ぎた。

 だが、これで良い。俺は膝を大きく曲げ、思いっきりジャンプした。


「上だと!?」


 さすがのブラフも驚いたようである。

 雷の槍の力でステータスが大きく上がったのは走力だけではない。脚力もである。

 それはすなわち高い跳躍力が可能ということ。天井スレスレまで達し、斜め下にいるブラフに狙いを定めた。


「神器解放!」


 雷の槍はバチバチと音を立てて放つ電気に包まれた。平面の移動よりも遥かに速い速度で落下していく。


「面白い。ダークスラッシュ!」


 落下中に何度も黒い衝撃波を喰らってしまい、身体に激痛が走る。

 火の剣を使っている時と比べて、今のステータスは防御力が三十ほど低い。

 だが、俺は気合で耐えた。ここで引いたらもう勝ち目はないだろう。


「ここでお前はぶっ倒す! スカイサンダースピア!」


 ブラフは鎌を右肩前に掲げる。まるでバットを構えているようであった。鎌はダークスラッシュを使った時よりも漆黒に輝いた。


「タケル。こちらも全力の技で迎え撃つ。ヘルスラッシュ!」


 お互いが攻撃の間合いに入ったところで、ゆっくりと時間が流れるような感覚に陥った。

 鎌が右肩に突き刺さり、激痛が走る。俺は負けじとブラフの左肩に雷の槍を突き刺した。


「くそ、力が抜ける……」

「ふははは! どうやら俺の勝ちのようだな。闇の鎌はお前の魔力を奪う。さぁ、とっととくたばれ!」

「おりゃあ!」


 諦めかけたところで、イグノスが火の剣を投げ飛ばした。クルクルと回転しながら飛来する火の剣はブラフの両腕を斬り下ろした。イグノスのおかげで魔力を奪われることは無くなった。


「お前ら……くそ、痺れて動けん!」


 雷の槍の効果でブラフは動くことが出来ないでいる。もうひと押しはであるが残念ながら俺ではトドメを刺すことが出来ない。


「エノン、やれ!」


 エノンがこちらに視線を向けると、両親のゾンビを縫うように走り抜ける。そして、二メートルほど大きくジャンプする。


「これで終わりだ! サンダーキック!」


 エノンは電気を帯びた脚でブラフの首を強く蹴った。『ボキッ』という首の骨が折れる音が聞こえた。

 ブラフは無表情のまま倒れる。カシムとジュラ、そして他の死体は動きを止めた。

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