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迷惑な客人

 その日の夜、エノンが外で食べたいと申し出た為、ブロンさんと共に街中へと繰り出した。

 国に到着した時よりもさらに人で賑わっており、俺達は『スサノオ』というお店に入った。

 そのお店はこの国の中ではかなり人気店らしくエノンもよく来ていたらしい。

 メニューを開くと、海鮮料理と思われる名前がたくさん記載されていた。


「うち一押しの料理はレッド鯨の海鮮丼だよ!」

「そうか。ならそれにしようかな」

「私もそれをいただくわ」


 レッド鯨というからにはきっと赤いのだろう。レッドだしな。

 店員を呼び、レッド鯨の海鮮丼とフルーツジュースを四つずつ注文した。

 およそ十分後、料理が運ばれてきた。レッド鯨の海鮮丼は元の世界で言う所のマグロ丼のような見た目をしている。


「それじゃ、いただきます」


 レッド鯨の海鮮丼を一口食べる。鯨の刺身はコリコリしていて、とても美味しい。


「どう、タケル。美味しいでしょ?」

「そうだな。すっごく美味しいよ」


「いやぁ、しかしヤベェ国だよな。ここ!」


 隣の席からバカでかい声が聞こえてきた。鎧を着た大きな男二人が酒を飲んで談笑していた。

 一人は緑色の髪をしており、顔に切り傷がいくつも付いている。


「だよなぁ。ダンジョンの主に生贄を捧げるとかマジないわー。けどま、俺達がダンジョンを攻略するわけだからこの国も運が良いよな」


 頭に白いバンダナを巻いた男は酒を一気飲みした。

 どうやらこの二人もダンジョン攻略に向かうようだ。明日、向かうとしたら出会すかもしれないな。

女性店員が二人に料理を運んできた。緑色の髪の男が立ち上がると、酔っているのか女性店員に肩を掛けた。


「ねぇ、君。良かったら俺とデートしない?」

「あ、いや。その……」


 女性店員は明らかに困っている。しかし、他の客は二人が屈強そうな冒険者ということもあってか、誰も助けようとはしなかった。

 厨房から身体の細い老人が出てきた。頭にはコック帽子を被っており、店長ではないかと思われる。


「すみません、お客様。他のお客様のご迷惑になりますので……」


 老人が恐る恐る注意を促すと、バンダナ男が立ち上がり、老人の胸ぐらを掴んだ。


「なんだ、テメェ。救世主の俺達に指図するってのか。あぁん?」


 まずい、助けないと。俺が行動しようとするより先にエノンが立ち上がり、バンダナ男の顔ににフルーツジュースをぶっ掛けた。


「あ、ごめーん。手が滑っちゃって。誠にすいませーん」


 一気に場が凍りついた。エノンはまるで某お笑い芸人のような謝罪をした。いや、謝罪ではないか。

 他の客達は神妙な面持ちでこのやり取りを見つめていた。

 バンダナ男は老人から手を離し、俺達を睨みつけながらエノンに近づく。


「おいおい、お嬢ちゃん。俺に飲み物をぶっ掛けるとは良い度胸だな。俺のこと、知ってるのか?」

「さぁ。自分のことを冒険者だと思い込んでいる迷惑な客人じゃないの?」


 バンダナの男はビキビキと額に筋を立てた。人間、イラつくとこんな漫画のようなことが本当に起こるのか。


「ふふふ……そうか、俺のこと知らないのか。だったら、教えてやろう。俺は超凄腕の冒険者、カシムだ」

「何でも良いけどさ、緑髪の人。その人、離してあげなよ。めっちゃ迷惑してるじゃん」

「ジュラ。離してやれ。お嬢ちゃん。ちょいと表へ出な」


 ジュラという緑色の髪の男は女性店員を離すと、カシムと共に店の外へ出た。

 俺達も外に出ることにした。俺も加勢したいが、神器はブロンさんの家に置いてきてしまったため、役に立つことはできないだろう。

 カシムというバンダナ男はエノンを指差した。


「俺と一対一で勝負しろ。負けた方は潔く店から出て行く。どうだ?」

「うん。いいよー。今のうちに私のステータスを見て作戦でも考えておきなよ」

「大した自信だな。えっと…………」


 急にカシムの表情が険しくなった。俺もさっきあの二人のステータスを見たのだが、彼らはエノンのステータスより劣っていた。

 エノンは馬鹿にしているかのようにニヤニヤと笑っている。エノンも二人のステータスを予め確認していたのだろう。


「ば、バカな……こんなステータスはありえない! 故障だ!」


 え、故障とかあるの? スカウター?


「もしかしたら私がステータスを誤魔化す魔法を使っているのかもしれないよ。試してみたら?」

「バカにしやがって……んじゃ、遠慮なく行くぞ!」


 カシムが勢いよくエノンに接近する。アッパーカットを決めようとするも、エノンは顔を逸らして避けた。


「えい」


 エノンがカシムの脇腹に拳を入れる。カシムは苦しそうに「う……」と声を出した。


「このアマ!」


 顔面目掛けて放ったカシムの拳も虚しく空を切り、エノンは「えい!」と股間に蹴りを入れた。


「ガ……ヒョ……」


 カシムが股間を押さえて疼くまった。おいおい、いくら悪党とはいえ、それだけはやったらあかんだろう。

 戦いの様子を見ていた野次馬達はクスクスと笑い出した。すると、ジュラがナイフを取り出すと、エノンに向けて投げた。エノンはナイフを投げられたことに気づいていない。


「危ない!」


 俺はエノンの前に立った。ナイフはぐさりと俺の肩に突き刺さる。


「ちょ、ちょっとタケル。大丈夫?」


 エノンは心配そうに俺に声を掛けてきた。正直、大丈夫ではない。ナイフが刺さったところは尋常ではないくらい痛く、何だかフラフラしてきた。


「正直、やばいかもな……」

「あんた、何てことをするの! 一対一って言っていたじゃない!」

「う、うううううるさい! お前らが楽しい時間を台無しにするからだろ!」

「イグノスちゃん。タケルくんの治療をお願いしたい」

「わ、分かりました」


 ブロンさんがツカツカとジュラに詰め寄る。イグノスが俺に治癒魔法を掛けてくれた。


「ありがとう、イグノス……」

「全く、無茶するんだから」

「タケル、ありがとう。タケルが助けてくれなかったら少し怪我してたよ」


 軽傷で済んだのか。それじゃ、無理して庇わなくても良いような気がしてきたな。

 イグノスの治癒魔法のおかげで大分痛みが引いた。


「ほら。とりあえずはこれで大丈夫。私の治癒魔法も完璧じゃないんだから帰ったらちゃんと手当てしなさいよね」

「うん、助かった。それより、ブロンさんは大丈夫か?」


 ブロンさんがジュラと戦おうとしている。ジュラは六本のナイフを指と指の間に挟んでいた。


「いいか、じじい。俺はな、風魔法が得意なんだ。今からこの六本のナイフを投げ、風魔法で軌道を操り、あんたの身体に突き刺してやる! それが嫌なら土下座しな」


 ジュラはご丁寧にも具体的な攻撃方法を説明してくれた。確かに六本のナイフが同時に飛んでくるのは怖いだろう。


「大丈夫だよ。お爺ちゃんは若い時はめちゃくちゃ強かったんだから!」

「若い時は余計だ。ほれ、若僧よ。もったいぶってないでとっとと投げてこい」


 ブロンさんはちょいちょいと手招きをして、ジュラを挑発した。


「良いだろう! 投げてやるとも。ウィンド・シックスナイフ!」


 何て安直なネーミングセンスだろうかと思った。六つのナイフは複雑な軌道を描いてブロンさんに飛んでいく。


「雷走」


 ブロンさんがポツリと呟くと、ものすごい速さでジュラの背後に移動した。


「じじい。いつの間に……」


 そして、ジュラの肩に手を置く。ジュラからバチバチと電気が流れ、白目になりながら「あがががが……」と声を出し、倒れた。


「おいおい、瞬殺だよ」


 思わずそんな感想が口から溢れる。まぁ、大丈夫だろうとは思ってはいたのだが。

 実はここにくる前、ブロンさんのステータスを見ていた。

 ブロンさんのステータスは全体的にエノンより少し低いくらいで、ジュラよりも遥かに高いステータスであった。

 全盛期のステータスは一体どれくらいなのだろうか。


「勝負は付いたな。さ、そいつを連れて帰るが良い」

「お、覚えておけよー!」


 カシムはジュラを背負い、店から立ち去っていった。野次馬達からたくさんの拍手が浴びせられる。


「皆さん、ありがとうございます。お礼として代金はただ、さらにサービスとして無料でデザートをお持ちいたします」

「そう? 悪いねー、店長!」


 ブロンさんが軽い口調で先ほど胸ぐらを掴まれていた老人に礼を述べる。やはり、この人が店長だったようだ。

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