プロローグ
「ん……ここは一体」
気づけば俺は見知らぬ場所で座っており、前の前で巫女の衣装を着た長い黒髪の麗しい女性が俺を見つめていた。
記憶が確かならば、さっきまで自分の部屋で古事記を読みその感想文を書くという宿題をしてそのまま眠ったはずだったのだが。
やけにハッキリしているが果たしてこれは夢なのだろうか。
「初めまして。伊藤健さんですよね?」
「は、はい……」
目の前にいる女性は何故か俺のことを知っているようであった。しかし、俺はこの女性が誰なのか全くわからない。そして、ここがどこなのかも。
視線を下げると地面は白いタイルのようなもので出来ており、周りには家具などの置き物が全くなかった。
「落ち着いて聞いて欲しいのですが、ここは天界という人間界より上に存在する世界です。そして、私の名はアマテラスと言います」
「アマテラスって神様の……」
名前は知っている。ちょうどさっき読んでいた古事記に登場していた神だ。
ちなみに俺が初めてその名前を知ったのは某国民的忍者漫画であり、よくソシャゲでモチーフにもされる。
「はい。一応、私は神です。健さん、あなたにお願いがあります。これはあなたにしかできないこことなのです」
アマテラス様のトーンが変わり、少し不安な気持ちになった。神様直々のお願いを断るとなれば偉い目に合いそうだ。
「ど、どんな依頼なんでしょうか……?」
「あなたは異世界をご存知ありますか?」
「異世界って……よく小説家になろうで出てくるやつですか?」
俺は普段、趣味でラノベをよく読むので異世界に関してはそれなりに知識がある。
よくあるパターンだと死んだ主人公が神様からチートスキルを貰い、異世界で活躍するといったパターンが多い。
「その通りです。この世界とは違う世界……私達、神が管理している別の世界があります。そして、その世界は終焉の危機を迎えています。どうか健さんの力を貸していただけないでしょうか?」
終焉の危機ね……神ですら対処できない事態に一般人の俺がどうこうできるものなのだろうか。
「あの、俺なんか役に立つんですか? 一体、何をすれば……」
アマテラスはどこからともなく鞘に収まった剣を取り出すと、念力のようなものでそれを浮遊させ、俺に渡してきた。
剣を受け取ると、ズシリとした重量感を感じた。おぉ、これは重いな。
「この剣を持って『火の国』という国に向かってください。そして、その国にある『災厄のダンジョン』に挑んで欲しいのです。この神器はダンジョン攻略に役立つでしょう」
「ダンジョン攻略……それをすればその異世界は平和になるんですか?」
「はい。正確には他にもう二つダンジョンを攻略する必要がありますが……まずは火のダンジョンを攻略してください」
神から渡された武器を使ってダンジョン攻略か。早速異世界っぽいことをさせられそうだな。
しかし、こんな一見普通の剣だけでダンジョンを攻略できるものだろうか。
「ちなみに断ったらどうなりますか?」
「特段何もありません。私、自らダンジョン攻略をすることになるでしょう。ちなみに私の弟達もダンジョン攻略に向かいましたが、全て失敗しています」
ま、マジか……神ですら攻略できないダンジョン。そんなの俺に出来るわけがない。
「そ、そんな……俺なんかじゃ絶対無理ですよ!」
「そんなことはありません。異世界においては神より人間の方が力を発揮できるのです。さらに、私の力を使えるその神器もあります」
「そうは言っても……それにどうして俺なんですか。他の人じゃダメなんですか?」
「神器を使える人間はそう多くありません。審査の結果、健さんが一番ダンジョンを攻略できる可能性が高いと判断しました」
アマテラス様のその言葉に何だか自分が特別な人間のような気がして悪い気分ではないが、それでも命懸けのダンジョン攻略というのは気が引ける。
それに俺は今の世界にだって未練がある。
「ダンジョン攻略が終われば元の世界に返してくれますか?」
「勿論ですとも。それと、もしダンジョン攻略が終われば私が叶えられる範囲で願いを一つ叶えてあげます」
「本当ですか? 叶えられる範囲っていうのはその……大金とかでも可能ですか?」
「可能です。むしろそのくらいならお安い御用です」
うちの家庭は母子家庭で母さんは毎日夜遅くまで必死に働いている。
よし、ダンジョン攻略したら大金を貰って母さんを楽させてやろう。
「分かりました。それじゃ、挑戦させてもらいます」
「ありがとうございます。それではこれからのことについて相談させてもらいますね」
アマテラス様が言うにはこれから火の国の近くにある森に俺を転移させるらしい。
そこからひとまず火の国へと向かい、ダンジョン攻略を行う。
なお、俺が異世界語を話せるよう力を授けてくれるとのことだった。さらに、金貨十枚入った袋を渡してくれた。これで当分の間は生活には困らないらしい。
「それじゃ、あなたを異世界に飛ばします。覚悟はいいですね?」
「はい、行ってきます」
俺が座ってる場所に赤い魔法陣が浮かび上がってきた。いよいよ、異世界に向かうわけか。
「伊藤健さん。あなたのご武運をお祈りします」