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光の巫女  作者: 雪桃
第5章 バスラ
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白い世界への扉

 1日中トロイメアを探したが、とうとう千花を見つけることはなかった。

 既に太陽は沈み、トロイメアは夜の街へと変わっていく。


「シモンさん、見つかりましたか」


 興人はギルドに戻り、先に帰っていたシモンに状況を聞く。

 しかしシモンも深刻な表情を浮かべながら首を振る。


「残念だが。アイリーンも探知できなかったらしい」


 アイリーンの目の前には街の様子を映し出している水晶玉が置いてある。


「ずっとトロイメア全土を見てたけど、チカちゃんは見当たらなかったわ」


 これだけ時間をかけても千花は泉から痕跡を一切残していない。

 悪魔の気配もないが、相当な手練れに拉致されたのだろうか。


「クニヒコは? あいつどこに行ったんだ?」


 興人が邦彦を呼びに行ったはずだが、そこから音沙汰がない。


「機関に戻って田上が扉を通った跡がないか確認しています」

「機関の奴、そこまでできんのかよ」


 扉の維持もそこを通った人の把握も高度な技術が必要だ。

 機関についてあまり詳しくないシモンも多少なりとも驚く。


「それで、返答待ちってわけね?」


 せめてどの国に拉致をされたのかさえわかれば救いに行けるだろう。

 それが悪魔に支配されている国であればなおさら向かった方がいい。


「あ、先生」


 3人の中で沈黙が流れていると、外から邦彦が帰ってきた。


「皆さん捜索ありがとうございます。わかってはいますが手がかりは?」

「ないな。機関の方は?」


 シモンが首を横に振って反対に質問すると、邦彦はすぐに答える。


「わずかですが、田上さんの魔力を検知してもらいました。望みはそこに懸けるしかないと」

「どこに行ったの?」


 アイリーンが立て続けに質問する。


「バスラへの扉を通ったと。それも、もう1人一緒に入ったらしいです」


 悪魔側の拉致が濃厚になってきた。

 バスラと言えば明日、魔王討伐として向かうはずの国だ。


「魔王にチカの存在がバレたか?」

「巫女の正体はこちらで隠していますが、その可能性もありえるでしょう」


 そして、と更に邦彦は続ける。


「仮に魔王の手から逃れたとして、田上さんは自力では帰ってこれません。濃霧が有害であることも知りませんので、誤って外に出たら気絶します」


 拉致されることが目に見えていれば必要な情報は教えられただろう。

 いや、悪魔が警戒を強めたというのに千花を1人にしたのは完全な落ち度だ。


「となると、バスラに向かうしかないか」

「でもどうやって? バスラの霧は魔法でも防御できないでしょ?」


 アイリーンの心配も一理ある。

 少量ならともかく、視界が利かない霧の中で千花を見つけるには時間を有するだろう。

 バスラの霧は、シモンと言えど耐えられない。


「日向君とシモンさんはこれを飲んでください。24時間霧の状態異常を無効化してくれる薬です」

「効果はあるのか?」

「あの人が作ってくれた物なので確証は取れています」


 邦彦は2人の目の前に薄い緑色の液体を1本、千花に飲ませるようにもう1本出す。

 興人はすぐに、シモンは渋々受け取る。


「クニヒコは? お前も行くだろ」

「もちろんです。ただ、先に偵察に向かった機関の者に連絡をしなければなりません。すぐに追いかけますので、2人は先に行っていただけますか」

「わかりました」

「急げよ。チカがどうなってるかは俺らにもわかんねえから」


 興人とシモンは返事をすると、夜更けにも関わらずギルドを出て王城へ向かう。


「チカちゃん、無事だといいけど」

「アイリーンさん」


 1人ギルドに残って帰りを待たなければいならないアイリーンは心配そうに見送る。

 そんなアイリーンに邦彦は呼びかける。


「僕はあなたの過去も力も全て知っています。そのうえで伝えます」

「何を?」

「もし……もしも最悪な事態が起きた時には、あなたの力を借りたい。いえ、借ります。皆を救うために」


 それだけ伝えると返事も待たず邦彦は足早にギルドを出た。

 アイリーンは目を見開きながら固まり、ついで奥歯を噛みしめる。


(人の気も知らないで、皆勝手に……っ)


 人気の少ないギルドでは、アイリーンの悔しそうな顔は気づかれなかった。






 王城の扉の間。

 ウェンザーズへ向かう黄金の扉の隣には、深緑色の扉が聳え立っている。

 扉には鋭い牙と耳を持つ荘厳なヴァンパイアの姿が描かれている。


「ウェンザーズと同じなら、バスラも離れた場所に着くのか」


 興人とシモンは扉の前に立ち、バスラへ向かう手筈を整える。

 シモンは先程渡された液体薬を手に取り、顔をしかめる。


「これ、飲まなきゃだめか?」

「あの人が作った薬なら必ず効果があります。俺も一度飲んだことありますし」


 5年前、任務の付き添いでバスラに行った時も同じ薬を邦彦からもらった。

 だから心配はいらないはずだ。


「そういうことじゃねえよ。あの女の薬はいつも得体の知れないものが入ってるから抵抗がある」

「まあ、それは」


 興人も同意する。

 少なくとも千花にこれを飲ませる時に原材料は伝えてはならない。


「ただ、これでバスラを行き来できるのなら頼るほかねえな。先を急ぐぞ」


 シモンは薬を一息で飲むと、そのまま扉を開く。

 興人も同じように後に続く。

 扉の先には白い世界が見えた。

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