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光の巫女  作者: 雪桃
第5章 バスラ
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強くならないと

 千花の頼みで魔法なしの戦闘を行った。

 興人との体格差が体術では肝になることがよくわかっていた千花はできるだけ体力を温存しながらの防御戦に持ち込んでいた。


「田上、疲れるのが早くないか?」

「シモンさんとバトルしてたから」


 いつもより早く息を上げる千花に興人が質問する。

 実力差のある人間との連戦は流石に疲れる。


「シモンさんと戦ったのか?」

「興人が来るまでって」


 千花が休憩するように息を整えていると、興人が普段よりも目を輝かせてシモンの方に歩いていく。


「シモンさん、俺とも一戦お願いします」

「あ? お前とは何度もやりあって」

「魔法を使われたことはありません。手加減なしでいいので俺にも攻撃してください」

「お前戦闘狂かよ」


 意気揚々としている興人に気圧されながらシモンは待ってろと言わんばかりに手で制する。


「わかったわかった。手合わせしてやるからそんなに期待した目で見んな。チカ、いつも通り魔法の練習しとけ。後で合わせ技教えてやるから魔力は残しておけよ」

「はーい」


 千花は息を整えながら2人の邪魔にならないよう端に移動する。

 自分より慣れている興人との戦闘を間近で見たいが、流れ弾を避けられる気がしないので我慢する。


(大人しく技の復習でもしよう)


 千花が魔法杖を構えながら的に向かって土魔法と草魔法を交互に繰り出す。

 同時に背後から激しく何かがぶつかり合う音が聞こえてくる。

 千花が音のする方へ顔を向けると間違いなく興人とシモンが戦っている姿が見えた。

 炎をまとった大剣を容赦なく振り上げる興人と、軽々攻撃を避けながら連続で魔法を繰り出すシモン。


(めっちゃ手加減されてたんだな)


 先程までシモンと対等に戦えていたと思っていた千花は2人の動きを見て静かに項垂れる。

 とてもじゃないが、あの戦闘範囲に割って入ったら瞬殺される。


(実力の差はそんなすぐに埋まらないか。大人しく自主練してよう)


 千花は魔法杖を一度しまい、両手を合わせて的に向かう。


「ライトアロー!」


 千花が呪文を唱えると、小さな花火のような光の矢が雫のようにその場に落ちた。

 地面が少しだけ焦げている。


「やった! 今日も魔法出た……って何も役に立たない花火だけど」


 つい3日前、根気強く何度も発動できない光魔法を高校の片隅でひっそり練習していたらようやく花火のようなものが出てきた。

 これで喜んでいたら話にならないと千花は首を何度も横に振る。


「いいえ上達ですよ。努力は少しずつ出てきますから」

「本当ですか? ありがとうございます……安城先生!?」


 背後から褒められたので素直に受け取る千花だが、その正体に驚いた。

 最近また忙しくて中々会えなかった邦彦だ。


「びっくりしました」

「気配を消していたつもりはないんですが、あの2人が激しすぎて気づきませんでしたね」


 邦彦は未だ激化を繰り広げている興人達を指しながら言う。

 よくあの戦闘を避けながら千花の所まで来たものだと感心する。


「近頃は様子を見に来れなくてすみません。その後、調子はどうですか」


 やはりこの世界での保護者である邦彦と話すのは安心する。

 千花は今訓練していたことを話す。


「シモンさんと模擬訓練をしたんですよ。自分では手加減されてるとは言え上達してきたなと思ったんです。でも2人の様子を見てるとまだまだだと思って……」


 合わせ技も受け身の取り方もシモンが本気を出せば手も足も出ないほど追い詰められるだろう。

 千花が項垂れていると邦彦が励ますように声をかける。


「あの人達は幼い頃から実践経験を積んでいますから、実力差が縮まらないのは無理もないでしょう。僕から見れば、半年も経たずここまで魔法を使えている田上さんも十分素質がありますよ」


 邦彦の言葉に千花は一瞬表情を明るくしたが、すぐに現実に帰る。


「いいえ、これくらはできて当然なんですきっと。魔王を倒すためには強くならないと」


 千花が洗脳されたように強さにこだわるため、邦彦は戦闘に熱中する2人を横目に見る。


(田上さんの経験相手(ライバル)として日向君は適任ですが、それが彼女のプレッシャーになっているんですね)


 強くなりたいという思いは身を滅ぼすこともある。

 邦彦は無駄に張り切りすぎてしまった千花を宥めようとする。


「田上さん。少し出ましょうか。2人も後30分は戻ってこないでしょうし、魔力の回復も込めて」

「でも」

「お話したいこともあります。もちろん、田上さんが嫌であれば何もしませんが」


 邦彦の提案に千花は迷う。

 だが、これからもっと多忙になる邦彦が時間を作ってくれるのも残り少ないかもしれない。


「はい、お願いします」

「シモンさんには置き手紙だけで十分でしょう。どっちみち話せる暇もなさそうです」


 本当に、邦彦と話している今も休みなく2人は戦い続けている。

 長期戦に持ち込んだら体力の限界まで追い詰められそうだ。


「どこに行くんですか」


 訓練着のままギルドの外に出た千花は、行き先を邦彦に問う。

 邦彦は微笑のまま首を横に振る。


「特に決まっていません。元々、訓練場でお話する予定でしたから」

「じゃあ戻った方が」

「気分転換も兼ねてます。どこか行きたい所はありますか」


 そう言われても、先程腹ごなしは自分でした。

 最近はギルドと学校の行き来ばかりでほとんどトロイメアの街を周っていない。


「そうだ、教会。あれ以来行ってないのでそこがいいです」


 魔法が使えなかった頃、一度だけ邦彦とおつかいで教会へ向かった。

 あの時見た光の巫女の像をもう一度確認したい。


「いいですよ。はぐれないように」

「はい」


 千花は邦彦の背を追うように、人混みの中へ溶け込んでいった。

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