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光の巫女  作者: 雪桃
第5章 バスラ
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合わせ技

「こんにちはアイリーンさん。お久しぶりです」

「チカちゃん! 会いたかったわ。何日ぶり?」


 邦彦の提案で試験期間中のみ寮で勉強漬けを言い渡されていた千花がアイリーンに会うのは実に1週間ぶりだ。


「シモン君はもう訓練場にいるわよ。オキト君はまだね」


 興人のことだ。

 クラスのことで何か頼まれているのかもしれない。


「ありがとうございます。また後で遊びに来ますね」


 千花はアイリーンに礼を言うと訓練場へと続く扉に手をかける。

 中に入ると、壁にかかっている的がいくつか魔法で壊されていること以外何もない。

 もぬけの殻だ。


「メテオ」


 千花が辺りを見回していると、自分ではない声で呪文を唱える誰かがいた。

 千花が急いで後ろを向くと鋭く尖った岩が目の前まで迫っていた。


土壁(マッドウォール)!」


 千花は急いで自分と岩の間に魔法で壁を作り、間一髪攻撃を防ぐ。


「……何するんですかシモンさん! 危ない」


 岩を仕向けてきた人物──シモンは千花の眼前に立ちながら意地悪そうに笑う。


「そう言うなって。1週間ぶりの訓練だろ? 肩慣らしに一戦どうかと思ってな」

「メテオが当たってたら頭に突き刺さってたんですけど」

「今のお前がこの程度の魔法気づかないわけないだろ」


 認めてくれるのはとても嬉しいが、奇襲をされるのは心臓に良くない。

 悪魔との戦いにそんなこと言ってられないが。


「で、どうする。やるか?」

「……やらないわけないでしょう」


 シモンは強い。

 今は千花が1人でシモンと対峙できる絶好の機会だ。

 千花はすぐに魔法杖を異空間から取り出す。

 待ってましたとばかりにシモンも臨戦態勢に入る。


「命をとる以外はありの戦闘にするか」

「はい」


 条件のない訓練の方が単純でわかりやすい。

 千花は魔法杖を大きく振ると目の前に葉っぱを数枚出す。


「リーフカット!」


 緑の葉は刃となってシモンへ襲いかかる。


「イグニート」


 シモンは葉に向かって手をかざすと手中から炎を出す。

 葉は1枚も残さず炎に焼かれる。


「メテオ」


 シモンが唱えると5つの岩が千花へと向かう。

 千花は魔法杖で岩を1つ弾くと、地面を蹴りあげシモンと目と鼻の先まで距離を縮める。


「えいっ!」

「っ」


 魔法杖でシモンの首を狙うと、見越していたかのように片手で弾かれる。


「ウィンド」


 シモンが千花の腹に手を当てながら呪文を唱える。

 手からは強い風が一瞬で吹き、千花は遠くまで飛ばされる。


「?」


 千花を吹き飛ばしたシモンだが、不意に足元に違和感を覚える。

 シモンの足首には結ばれた草が絡みついていた。


「ウッドボム!」


 千花が魔法杖を向けると草から木の形をした爆弾がシモンに飛びあがってきた。

 シモンは咄嗟に爆弾を土壁で防ぐと、魔法で草を切り後ろへ下がる。

 その間に千花も起き上がって体勢を立て直す。


「随分素早く動けるようになったなチカ。リカバリーもできてる」

「毎日嫌という程同じ経験をしましたから」


 ようやく興人に並ぶことが増えたと思っているのだ。

 これで攻撃も当てられたら千花としては万々歳だ。


「それならチカにご褒美だ。新しい技を見せてやるよ」

「ご褒美?」


 シモンが戦闘中にそう言う時は確実に「ご褒美」ではないのだ。

 千花は魔法杖を構えながらシモンの攻撃を警戒する。


「ウィンドエコグラフィー」


 シモンが新しい呪文を唱えると突風が千花を襲う。

 立ってられない程の風を避けなければならないが、千花は動くことができない。


(あれ? なんか、目が回る)


 千花が呆けている間にも風は千花の体を容易く飲み込み、壁に体を叩きつけた。


「いっ」


 千花が我に返った時には既に遅く、シモンが手中に光を溜め込んでいた。


「ライトアロー」


 光の矢は目にも止まらぬ速さで発射され、瞬きする暇もなく、千花の顔面スレスレを撃ちぬいた。


「ま、まいりました」


 千花が座り込んだまま両手を挙げるとシモンはすぐに魔法を止める。

 勝てるわけはないと思っていたが、シモンに手加減されていたことを知った千花は頬を膨らませていじけた。


「中々上達したんじゃねえの」

「お世辞はいらないです」

「世辞じゃねえよ。今だって受け身を取ろうとしたろ。判断力はついてきてる」


 シモンが手を出すので千花は受け取りながら立ち上がる。

 聞きたいことはいくつかあるが、まずは魔法についてだ。


「今のなんですか? いつもの突風と違ったんですけど」


 シモンの繰り出した風魔法は判断能力を鈍らせるような細工が施されていた。


「あれな、魔法の合わせ技ってやつだよ」

「合わせ技?」


 聞いたことは何度もある。

 属性同士の技を合わせることでより強力な魔法を作り出すことだ。


「今のは風魔法と音魔法の合わせ技だ。普通の突風に、感覚を鈍らせる超音波を加えて発動する」

「ああ超音波……ってわからないですよ。せめて私ができる属性で合わせてくださいよ」

「できるけどわかりやすい攻撃技の方がすぐ反応できるだろ」


 シモンの言うこともよくわかるが、音属性なんていつ習得できるかわからない。

 もちろん風魔法も覚えていない。


「……合わせ技ってどうやるんですか」


 それでも技術が上がれば、戦闘は有利になるだろう。

 千花はそれ以上反論することはなく、シモンに新しい技を教えてもらうことにした。


「イメージするのが難しいだけで原理は簡単だ。2属性の魔法を頭の中で描いて、いつも通り発動する。

「全く理解ができません」

「だろうな。もう少し詳しく……」

「遅くなりました」


 千花とシモンが更に訓練しようとしていると、興人が訓練場に入ってきた。


「後で教えてやる。とりあえずいつも通り模擬戦闘やるぞ」

「私今やられたばっかりですよ!?」

「無傷だろ」

「疲労感!」


 先程まで戦闘を知らない興人は千花が苦情を入れているのを見てまた何かあったのかと首を傾げた。

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