表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
光の巫女  作者: 雪桃
第4章 次への訓練
85/277

ヴァンパイアの国

 街まで着いてもなお興人が降ろそうとしないため、千花は色々理由をつけて腕から抜けた。

 敵に羽交い絞めにされた時の抜け方を覚えておいて良かったと千花は無駄に安心した。


「そういえばおつかいって何だったの?」


 アイリーンに頼まれたから二つ返事で了承したものの、実は何を持ってくるのかまでは知らなかった。


「ヴァンパイアの牙だよ」

「ヴァンパイア?」


 人混みの中でなくさないようにしながら、興人は依頼の品を千花に見せる。

 それは先端が鋭く尖った1本の犬歯だった。


「これ、本物の歯なの?」

「それは鑑定しないとわからない。ただ、寿命を迎えたヴァンパイアの犬歯は秘薬の材料になることもあるから貴重なんだ」


 興人は再度木箱の中に犬歯を入れ、バッグの中に丁重にしまった。


「ヴァンパイアって確か魔王に支配された国の1つだよね」

「ああ。バスラという、ここから東にある国だ」


 ということは、近いうちに必ず行くことになるであろう国の1つだ。

 千花は興人にバスラについて聞いてみることにした。


「バスラには行ったことある? どんな国なの?」

「5年くらい前に任務の手伝いで一度だけ。そうだな、近代都市みたいな国だった気がする」

「近代都市?」


 名前はすぐ出てくるが、想像がつかない。


「今の東京みたいな感じだな。ビルが密集していて、濃霧地帯だから周りはほとんど見渡せない。ヴァンパイアは夜行性だから、夜に活発に動く」

「なんか、聞いてるだけだと悪魔よりの種族だね。ていうかフィクションの中だとヴァンパイアって悪魔側にいるよね」


 去年、千花を襲ったようなガーゴイルを想像しながらヴァンパイアのイメージを頭の中で形成していく。


「地球ではそう思われているみたいだな。ヴァンパイアはこの世界では英知の象徴とされている。どの種族よりも頭が良く、知略や見識を持って冷静に行動する、と」


 頭が良い種族というわけだ。

 言っては悪いが、ウェンザーズはその特性上考えるより動く種族だったため、反対のヴァンパイアに興味が湧く。


(じゃあ、頭のいいヴァンパイアを騙して乗っ取った魔王は一体どれだけ強いんだろう)


 また苦戦を強いられるのか、覚悟はできているものの、やはり痛みには恐怖を覚える。

 千花がそんな表情を浮かべていると、興人が声をかけてくる。


「田上はウェンザーズでも十分力を発揮したし、今度は仲間も増えてる。バスラの人達もきっと待ってるから、戦う意思だけ持っとけよ」

「……うん、そうだね。光の巫女だもの」


 千花が気力を取り戻す。

 弱音を吐いてもすぐに立ち直るのは千花の長所だ。

 これが魔王を全て倒すまで保ってくれればいい、と興人が願うと同時に、2人はギルドの前まで着いた。


「ただいま戻りました」

「アイリーンさん、依頼の品です」


 ギルドに入ると2人はすぐにカウンターまで向かい、アイリーンに帰りの挨拶をする。

 アイリーンは現在行っている仕事を中断し、小走りで近づいてくる。


「おかえりなさい。思った以上に早くてびっくりしたわ。オキト君ありがとう。納品しておくわね」


 相変わらずアイリーンの手際の良さには驚く。

 1人でギルドの業務をこなしている手さばきは見惚れたものだ。


「シモンさんはどこに?」

「訓練場で光魔法の練習。まだ形にならないってぼやいてたわ」


 千花もシモンの気持ちはよくわかる。

 今まで物になっていた魔法が急に使えなくなるもどかしさでいっぱいだ。

 千花達はアイリーンを後にし、シモンの所へ向かった。


「シモンさん、戻りました」


 2人が訓練場に入った時には既に的が粉々に砕け散った後だった。

 これが魔力を流すことですぐに戻るのだから大した仕組みだと千花は思う。


「もう帰ってきたのか。早いな」

「アイリーンさんにも言われました」


 シモンは顔にかかる汗を拭いながら2人を迎える。


「ビーストモンキーとは上手く戦えたのか?」

「はい。多分」

「なんで曖昧なんだよ」


 追い返すことはできたが、あれが正しい戦闘方法だったのかわからない千花は不安気に興人を見上げる。


「俺は助言を加えただけで田上が1人で倒したようなものです。言われたこともできてたと思います」

「それでこの時間に帰ってきたのか」


 素直に感心するシモンに千花は照れ笑いを浮かべる。

 そんな千花を後目に次いで興人は口を開く。


「まあビーストモンキーの長の顔面に近づいて話しかけた時は肝が冷えましたけど」

「は?」

「あ、興人、それは……」

「チカ、お前また危険に足突っ込んだな」

「話通じると思ったんです!」

「猛獣に言葉が通じるか! もう1回勉強しなおせ!」


 さっきまで褒めてくれたのにと不貞腐れる千花だが、シモンに魔法の練習をしてこいと言われ、渋々離れていく。


「全くあいつの無謀さときたら……オキト? そんな顔してどうした?」


 てっきり一緒に訓練に行くと考えていたシモンはまだ後ろにいた興人に驚きの声をあげる。


「シモンさん、田上の魔力について少し相談が」

「あいつの魔力? 別に普通だが、それがどうした?」

「実は……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ