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光の巫女  作者: 雪桃
第4章 次への訓練
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謎の魔力切れ

「やった! 合ってるよね興人!?」

「まあ。視覚が弱点な分匂いで飛んでくる習性があるから、足下を狙うのはよく気づいたな」


 気づかなかったら延々ビーストモンキーを攻撃していくところだったと千花は自分のひらめきに我ながら感心した。


「それで、こいつはどうするつもりだ?」

「あ、そうだ。岩抜かなきゃ」


 見た目は痛々しいが、敢えて先端の的は外したので、最悪擦り傷で済ませられた。

 千花は岩を取り除き、リーダーの顔を覗き込む。


「群れを荒らしてごめんね。でも村の人が困ってるから、他のビーストモンキーと一緒に奥まで移動してくれる?」

「おい田上」


 千花が怖気ることなくリーダーに話しかけるため、興人は大剣を構えながら千花を遠ざけようとする。


「グルルル……」


 仰向けに転がっていたリーダーは力なく声を出すと、怪我をした足を引きずりながらも、群れが逃げた方向へ自身も逃げていった。


「話したらわかってくれたみたい……なんで興人武器構えてるの?」


 千花が嬉しそうにビーストモンキーを見送っていると、呆気に取られた興人が視界に映った。


「お前、無謀にも程があるだろ」

「なんで?」

「ビーストモンキーは話通じないから、逆上してそのまま丸ごと食われるところだったんだぞ」

「今わかってくれたよ?」

「手下がいなくなって戦意喪失したから森に帰っただけで、気性の荒いリーダーなら1体でも襲いにかかってくるぞ。運が良かったのかなんなのか」

「え、えぇ」


 猛獣とも意思疎通できるかもしれないと希望を持っていた千花は興人が呆れて頭を抱えている姿を見て軽くショックを受ける。


「で、でも最終的にビーストモンキーは追い払えたから依頼達成だよね! 予定通り癖を見て動いたし、魔法もたくさん使ったし、全部おっ……けー」

「田上!?」


 頑張って自分をフォローしようと声を張り上げた千花だったが、突然脱力感に潰され、その場に崩れ落ちてしまう。

 間一髪興人が支えたが、意識はなくなっていた。


「魔力切れ? あれだけで?」


 興人も昔実践を行った時に同じ現象を何度か経験したことがある。

 だが、驚いたのはそこではなかった。


(確かに今回は初めて連続で魔法を出したが、べモスとの戦いはもっと力を使ったし、浄化だって何度も行ってた。これだけで気絶するのはおかしい)


 興人が脳内で思考を巡らせるが、千花は体を預けたまま一向に起きる気配がない。

 起きるまで待っているという手もあるが、シモンに今日中に帰ってくるよう命じられている。


「とりあえず、フィンガに戻るか」


 興人は後でシモンに報告することを念頭に、千花を背負って来た道を戻ることにした。


(それにしても、やっぱり俺の予想は合ってたらしいな)


 フィンガを出る前、千花に言い淀んだ考え。

 彼女の戦う気力がなくなりそうで敢えて言わなかったが、群れの数とリーダーの性格で何となく答えは見えた。


(あいつら、前に田上とシモンさんを襲った群れと一緒だな。その時に食料の場所がわかって村を襲った、と)


 薬草集めの際に、千花達に攻撃したというビーストモンキー。

 方角的にも時間的にも、別の群れが近くに現れることはまずない。


(……まあ、田上のせいではないにせよ、田上が倒して正解な依頼だったな)


 この話は千花には打ち明けないでおこうと決めた興人だった。






 千花は規則的に動くベッドの振動によって目を覚ました。

 覚醒までに自分がどこにいるのか見渡すことにした。左右を見ると一定の間隔を開けた木々が風に揺られていることがわかる。

 上を見れば少し西の方に傾いている太陽と蒼空。

 前を見れば赤が多少入った黒の髪。


(髪?)


 千花は目の前の黒髪を両手で触ってみる。

 少し固めの短い髪だ。


「田上、痛い」

「興人だ。え、興人!?」


 千花が無造作に髪を弄りまわすため、興人が不愉快そうに振り向く。

 一瞬で現実に引き戻された千花は驚きのあまり興人の背中から落ち、尻を地面に打ちつけた。


「何をやってるんだ」

「ここどこ!? あれ、森の中じゃない」


 混乱状態のまま覚醒してしまった千花に、興人は気絶したところから説明することにした。


「……つまり、フィンガに依頼達成の報告したのも、ついでのおつかいも、全部興人がやって、今は帰ってる途中だと」

「そう」


 興人の隠すことない肯定に、千花は地面に手をついて項垂れた。


「私、依頼達成してない」

「しただろ。目的はビーストモンキーの討伐なんだから。俺がやったのは雑用みたいなもので」

「全部自分でやることが任務です!」

「なんだその家に帰るまでが遠足みたいな論理は」


 変な所で千花が悔しがるので、興人は面倒そうに千花を抱え上げる。


「ちょっと興人」

「ここに猛獣が来ないとも限らない。街までは抱えるから、魔力を回復しておけ。まだ万全じゃないだろう」


 言われてみれば、体がいつもより怠い。

 いつぞやのウェンザーズでも同じ現象が起きた気がする。


「魔力切れって誰でもなるものなの?」

「ああ。討伐に出る奴は特に。限度を知って魔法と体術を使いこなすのも必要だな」

「1つ終わればまた1つの課題」

「俺だってまだ完璧じゃないんだから、田上なんて更にやることは山積みだろ」

「ひー」


 千花は興人の腕に揺られながら、まだ遠い魔導士の道を想像して弱い悲鳴を上げた。

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