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光の巫女  作者: 雪桃
第4章 次への訓練
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対ビーストモンキー

 村を出て南西に進むこと10分。

 千花は茂みに隠れながら目の前の光景を見ていた。


「あれがビーストモンキーの群れ?」

「ああ。あいつらは目が良くない分嗅覚が優れてるから気をつけろ」


 隣の興人に確認をとりながら、千花は改めて目の前の岩山に向き合う。

 『モンキー』というだけあって、群れの様子は動物園で見かける猿山のようだ。

 違うところと言えば、見慣れている猿より3倍ほど巨体だということだろうか。


(1、2……見えてるだけで10体はいるかな)


 ビーストモンキーはまるで今危険物が何もないとでも言うように、寝転がっている者やじゃれあっている者で埋め尽くされている。


「これ、倒すの?」


 千花の少し怖気づいた声に興人はしばし考え、首を横に振る。


「前まで被害がなかった所を見ると、あいつらの元の拠点は別にある。威嚇をすればあいつらも人間を襲おうと思わなくなるだろうから、それを目標に動こう」

「人里から離すってこと?」

「そう」


 それなら倒すよりも穏やかに解決できそうだ。

 今回興人はサポートにまわるため、千花が基本的にビーストモンキー達を追い返す。

 命を奪うことに関しては千花もまだ心の準備ができていなかった。


「村と反対側の方にあいつらを追い詰めれば自然と逃げていくだろう」

「わかった。やってくる」


 千花は魔法杖を片手に、茂みの外へ飛び出す。

 本来は見えない所から攻撃するのが鉄則だが、今日は正面から対決することが目的だから仕方ない。


泥団子(マッドダンプ)!」


 ビーストモンキーが千花の存在に気づく前に、岩壁に向かって泥団子を発動させる。


「キキッ!?」


 のんびり寝ていたビーストモンキーは岩壁に打ちつけられた泥団子に驚いたようで情けない声を出す。


土人形(マッドドール)!」


 驚いて反応が鈍るビーストモンキーに隙を与えず、千花は攪乱のために土人形を目の前にありったけ作り出す。

 怯んでいたビーストモンキーは怯えて逃げる素振りを見せたが、それも少数。

 多数は千花の存在に気づき、殺気を露わにする。


「田上、怯むなよ。ビーストモンキーは群れでないと怯える猛獣だ」

「わかってる」


 千花は再び杖をビーストモンキーに向け、泥団子をいくつも噴出する。


「キイイイ!」


 ビーストモンキー達は軽々と泥団子を避けると、千花に向かって岩山を振り始める。

 千花は土人形を盾にできるよう動きながらビーストモンキーの様子を観察する。


(岩山に隠れているのは3、4匹。様子を見てはいるけど今のところ攻撃しそうにはない。こっちに向かってきてるのは6匹。体格的には威圧感がすごいけどそこまで知能はなさそう)


 よく観察すると、土人形をいちいち壊しながら千花を探している素振りがどれも見受けられる。

 匂いの元がどこにいるか正確な判断はできていないようだ。


(それなら)

泥の海(マッドシー)!」


 ビーストモンキー6体を覆うほどの泥を頭上から降らせる。

 泥を浴びたビーストモンキーは身動きが取りづらくなった。


「リーフカット!」


 千花はビーストモンキーの体を掠めるように鋭い葉っぱを繰り出す。

 自慢の嗅覚の質が落ちたことに加え、見えない所からの脅威を感じ取ったビーストモンキー2体は怯えながら岩山の方へ走っていく。


(2属性分の魔法も使えてるし、相手の動きを見ながら攻撃できてるから今回の任務は順調そう……)

「ウガアアア!」


 千花が自信を付け始めたその瞬間、先頭にいたビーストモンキーが怒りの咆哮を上げ、千花に向かって大きく飛んできた。


「えっ」

「レビン」


 千花がビーストモンキーをただ見上げていると、興人が大剣から雷を繰り出す。

 雷はビーストモンキーの脇腹に直撃し、体を麻痺させる。


「油断するなよ田上」

「う、うん」


 興人に叱咤され、千花は再び気を引き締める。

 怯える敵に良い気になっていたが、森の奥まで追い払うまでが戦闘だ。


(残り3体。土人形をたくさん出して岩山の向こうまで追いやろうかな)


 千花が魔法杖を握りしめ、呪文を唱えようとしたその時だった。


「ウギイイイ!!」


 地面が震えるほど大きな怒声が千花の鼓膜を刺激する。

 千花が驚いて体を固まらせている間に、今までのビーストモンキーから更に倍以上大きい猛獣が出てきた。


「何あれ!?」

「群れのリーダーだ。ビーストモンキーには必ずいる」

「聞いてないよ!」

「言ったら訓練の意味がないだろ」

「そうだけど!」


 興人の冷静な返しに慌てる千花は、目の前にリーダーが飛んできたことに反応できなかった。

 その大きな体躯とも深い黒の体毛、鋭い爪と牙に千花はたじろぐ。


「危なくなったら必ず助けるから自力で頑張ってみろ」

「そんなこと……いや、うん、頑張る」


 魔王の1体を倒したのだ。

 こんな猛獣の群れに怯えてどうする。

 千花は興人を背に、魔法杖をリーダーに向ける。


泥団子(マッドダンプ)!」


 とにかくリーダーと距離を空けたい千花は泥団子を彼の腹に撃つ。

 泥団子は巨体に触れただけで何も効果を為さない。


(威力が弱すぎる? それなら)

泥の鉄球(マッドアイロン)!」


 泥団子より更に硬い球体を千花は発射する。しかしリーダーは手のひらで簡単に弾き飛ばす。


(それも効かないの!?)


 千花が慄いている間に、リーダーは様子を見ていた子分のビーストモンキーを呼ぶ。

 怯えて隠れていた者もリーダーが来たことで自信をつけたのか、見えていた10体全員が表に出てきた。


(うそ……ビーストモンキーって初心者向けじゃないの? 全く歯が立たない)


 千花が目の前で殺意を向けているビーストモンキーの群れに恐れていると、興人が肩を叩いてきた。


「田上、よく周りを見ろ。そうすればビーストモンキーの弱点がわかるはずだ」

「でも魔法が全く効いてないよ」

「効いてないわけじゃない。ちゃんと、さっきまでの戦いを思い出せ」


 「さっき?」と千花が聞き返す前にビーストモンキーがこちらに飛んでくる。

 千花と興人は咄嗟にお互い反対方向へ避ける。


(さっきの戦い方って何? ビーストモンキーの動きを思い出せってこと?)


 千花は土人形を再度出現させ、今一度ビーストモンキーの動き方を観察してみる。


(ビーストモンキーは丈夫な体をしていて、腕の力が強い。牙もすごいけどあまり使ってる様子はない。後は飛んで攻撃してくるくらい……ん?)


 ビーストモンキーの動きを何度も思い出し、千花はある疑問に辿り着く。


(試しにやってみるか)

草むすび(グラスノッツ)


 千花は茶色い地面に数十本等間隔で雑草を生やす。

 雑草は2本1組になって足を引っかけられる形に変える。


「グルルル」


 草むすびをリーダーの足下に設置すると、匂いと触覚で気づいたのか、千花に唸り始める。

 まるで「舐めてるのか」とでも言いたげだ。


(いいよね? これでいいよね?)


 千花は急に不安になり、後ろの興人に目配せする。

 興人は大剣を下げたままなので、危険性はなさそうだ。


「ウガアアア!」


 リーダーは一度吠えると、膝を深く曲げ、千花に向かって頭上高く飛んでくる。

 千花はその場から離れながら、今いた場所に杖を向ける。


「メテオ!」


 千花が唱えた瞬間、地面に尖った岩が転がる。

 ちょうどリーダーが降りた場所と岩が一致し、足に刺さった。


「グアアア!!」


 リーダーの大きな足にはトゲを踏んだかのように岩が1本突き刺さっていた。

 リーダーの絶叫を聞きながら、千花は岩山から大きく飛ぶ。


「リーフカット!」


 リーダーが痛みにもがいている間に千花は群れのビーストモンキーに葉っぱを振りかける。

 ビーストモンキー達はリーダーが戦えなくなったことと攻撃されたことに我に返り、岩山の向こうへ駆けていった。

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