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光の巫女  作者: 雪桃
第4章 次への訓練
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フィンガ村

 そして迎えた土曜日。

 千花達はいつもの訓練着を身にまとい、アイリーンから依頼を引き受ける。

 手首に浮かび上がる──千花がクラゲのようと言った──紋様が青白い光から元に戻ると、受注完了だ。


「はい! じゃあ行ってきてね。慌てなくていいからしっかり依頼をこなしてきてね」


 アイリーンが鼓舞してくれる中、シモンが興人に小さな鈴を1つ渡す。


「これは?」

「呼び鈴だ。俺のワープ魔法と繋がってるから、何かあったらこれを鳴らせ。すぐ飛べる」


 シモンの緊急安全グッズらしい。

 だが興人は受け取るのを少し渋る。


「あの、お言葉ですが。流石にビーストモンキーくらいなら俺と田上で……」

「俺だってそう思うけどよ。チカに怪我でもさせてみろ。あの過保護男にチクチク言われんのは俺なんだよ」


 過保護男とは言わずもがな邦彦のことである。

 結局あの魔水晶事件から千花達が邦彦と合流することはなかったが、あの時色々とシモンも言われたのだろう。

 興人はそれ以上何も言わずに鈴をポケットの中にしまった。


「それじゃあ行ってらっしゃい2人とも。気をつけてね」

「行ってきます」


 アイリーンとシモンの見送りが見えなくなるまで手を振った後、2人は雑多の街を迷わず歩いていく。

 行き先はトロイメアの森を抜けた先にある小さな村だ。


「こっち側って来たことあるような」


 徒歩で30分。

 街外れの門まで来た千花は向こう側に見える森に既視感を覚えた。


「あ、初依頼で来た所だ」


 千花が自分で気づいたことに対し、興人は立ち止まって頷く。


「あの時はシモンさんの風魔法で飛んでたから、街外れまでこんなにかかるなんて知らなかった」


 ただの薬草集めのはずが猛獣に襲われたりシモンと仲直りしたり色々あって本当に疲れた。


「依頼先はこの森を抜けた先にあるフィンガという村らしい」

「村なんてあるんだね。国の間は全部森だと思ってた」


 今までウェンザーズまでの道なりも全て森だったため、リースには都市しかないのだろうと千花は考えていた。


「シモンさんにも今日中に帰ってくるよう言われてるし先を急ごう」


 興人に誘われ、千花も森の方へと足を進めることにした。

 

 初依頼の時には迷子になりそうな森の中を進んで薬草畑に到着した千花だったが、興人に案内されたのは少し荒れた、だが舗装されている道だった。

 こういう人道的な道があるなら先に教えてほしかった。


「田上、今日の戦闘の目的は覚えてるか?」

「もちろん。相手の癖を見極めながら戦い方を考える、でしょ」


 流石に1週間前に自分達で決めたことを忘れる程馬鹿ではない。

 興人は千花を見下ろし頷きながら人差し指を上に立てる。


「もう1つ条件をつけないか」

「条件?」


 ビーストモンキーという超初級の戦い相手と言えど、初心者の千花に色々条件をつけてしっかり任務がこなせるだろうか。


「簡単なものなら」

「そんなに難しくない。ただ2属性分の魔法を必ず使うだけ加えようかと思って」

「2属性分? 私なら地属性と草属性ってこと?」

「そう。合わせ技まではいかなくても、せっかく2つ目の属性を学んでいるんだから実践に活かそう」


 確かに相手の癖を知るのも大事だが、魔王との対決に活かせる魔法を練習しなければ先には進めない。

 千花は否定することなく興人の提案に従った。


 近くの村まではトロイメアからそこまで時間がかからなかった。

 こんな近くに村があるならもっと早く知っておけば良かったと千花は考える。


「トロイメアって言うより、ウェンザーズに近い村風景だね」

「ウェンザーズは獣人の特性上ああなってるだけで、国と呼ばれている所以外は皆こんな感じだぞ」


 千花は木造建築と大きな畑が目立つ村・フィンガを見回す。

 見た所家は密集とまでは言わないまでも、それなりに家庭はあるのだとわかる。

 今は皆農業をしているのか、見えるのは小さな子ども達だけだ。


「依頼主は村長らしいな」


 千花達は目の前で遊んでいた子ども達に尊重の家を聞き、足を進めることにした。

 村長は白髪と長い髭の目立つ杖をついた老人だった。


「はじめまして冒険者様。よくぞおいでくださいました」


 村長は物腰柔らかに千花達に一礼する。

 のどかな村にぴったりの雰囲気だ。


「私はソロン。フィンガで長らく村長をしております。それで、冒険者様。依頼内容についてですが」

「ビーストモンキーの群れを退治するんですよね」


 時間も限られているため、興人が足早に依頼内容を確認する。


「その通り。今まではビーストモンキーも森の奥の方に生息していたため被害を受けていなかったのですが、数ヵ月前、突然群れがこちらまで近づいてきまして。幸い命までは取られなかったのですが、作物を荒らされて」


 千花には土地柄がわからなかったが、どうやら今頃は畑も豊作で、食べる物に困らなかったらしい。


「どうかビーストモンキーを退治し、森の奥へと誘導してはいただけませんでしょうか」

「あ、はいもちろんです」


 何だかべモスを倒す前のウェンザーズと同じ状態だと千花が思いながら返事をする横で、興人が何やら思案していた。


「興人?」

「ああいや、なんでもない。ソロンさん、群れはどちらの方に?」

「ここを出て南の方から群れはやってきます。恐らくそちら側かと」


 南であれば、トロイメアとは反対の方向だ。

 興人は位置だけ聞くと、椅子から立ち上がって速やかに外へ出た。

 千花も後に続く。


「興人、何か思いついたことがあった?」

「いや……田上、お前がビーストモンキーに襲われた場所ってここからどこら辺だ?」

「え? えっと、あっちだったかな」


 千花は崖があったと思われる場所を指す。

 それは、ソロンが言っていた南の方向から少し西に逸れた方向だった。


「……なるほど」

「え、何興人。もったいぶってないで教えて」

「いや、田上の勢力が落ちるから言わないでおく」

「どういうこと!?」


 結局群れを見つけるまで、興人は頑として内容を教えてくれなかった。

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