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光の巫女  作者: 雪桃
第4章 次への訓練
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初めての実践訓練

 それからは意地と度胸で日中の授業についていった。

 気を抜けば寝そうになるため、学校で──許される範囲内で──眠気覚ましを駆使し、何とか寝落ちすることはなかった。

 それもこれも自分で選んだ道のためだ。

 そして金曜日の夕方。


「リーフカット!」


 千花が手中に緑色の葉っぱを召喚し、素早く的目がけて飛ばす。

 的は葉っぱに当たった瞬間音を立てて真っ二つに割れた。


「ウッドボム!」


 続けて両手のひらに収まる程の丸太を出現させ、隣の的も同じように割る。

 今度は粉々の的が地面に落ちた。


「どうですかシモンさん」


 2つの魔法を繰り出した後、千花はすぐ側にいたシモンに感想を聞く。


「そうだな。機動力はともかく、威力と精度は上がってる。たった1週間でよく上達したな」


 最近シモンはよく千花のことを褒める。

 千花も喜ぶことはあるが、どちらかと言うと戸惑いの方が勝つ。


「シモンさん、なんでそんな褒めてくれるんですか」


 千花が少し気味悪そうにするとシモンが額に青筋を立てる。


「貶してほしいならやってやろうか」

「褒めてください。でも最近多くないですか。ウェンザーズに行く前は結構ダメ出しされてた気がするんですけど」


 千花の食い下がる言及にシモンは気まずそうに後頭部を乱暴に掻く。


「……から」

「はい?」

「お前のこと、信用してっから」

「……はい?」


 聞き返す千花に聞き取りやすく少し声を大きくするシモンだが、結局意味を理解してもらえなかった。

 シモンは照れ隠しなのか顔を赤くしながら怒鳴るように答える。


「だから! 今まで魔王どころか悪魔すらまともに戦えなかった候補者にお前が選ばれたんだ。最初はちょっと悪態ついてやれば怖気づいて逃げると思ったんだよ。なのにお前は自力で魔王すら倒しちまうし、これ以上挑発しても意味ないってわかったんだよ」


 シモンが早口でまくし立てるので、理解するのに少し時間がかかる。

 数秒かかってようやく1つの答えを導き出した千花は首を傾げながら口を開く。


「巫女として認められてるってことですか?」

「さっきからそう言ってんだろ。なんで急に理解が遅くなった」


 それはシモンが説明を言い淀むから──とは千花は思わなかった。

 認められた嬉しさと喜びで心が満たされたから。


「シモンさんってばもう」

「きもい」


 表情を緩み切ってにやけながら肩を叩いてくる千花にシモンは軽く一蹴する。

 2人がそのようなやりとりをしている間に興人が近づいてきた。


「シモンさん、1つ聞きたいことがあるんですが」

「ああ。チカ、お前は自主練習してろ」

「はーい」


 シモンが離れていく中、千花は緩みきった頬を両手で戻す。

 自分が褒められて伸びるタイプだと今わかったのだ。


(シモンさんにもっと褒めてもらうためには光魔法を習得しなきゃ)


 地魔法も草魔法も少しずつ実践に使えるほどになっている。

 シモンが難しいと感じている光魔法を1つでもできればきっと更に光の巫女として称賛してくれるだろう。


「ライトアロー」


 千花は意気込み良く初級の光魔法を唱えながら的に向かって右手を伸ばす。

 しかし案の定何も起こらない。


(……そんな簡単にできたら苦労しないよね)


 一見すると想像を形にする他属性の魔法の方が難しいイメージがあるが、何度も試してみてわかる。

 既存の魔法を既存の呪文で成功させるのは本当に難しい。

 例えるならプロの料理人の味をレシピを見ずに再現するといったものか。


(シモンさんがこの前見せてくれた魔法を呪文だけで発動させる。イメージしてもいいけどそれが魔法になるとは限らない……ってまだ半年しか訓練してない私にできるか!)


 1人で誰に聞かれるわけでもなく小さなノリツッコミをかましている千花は仕方ないので相変わらず地属性と草属性の特訓と復習を始める。


「リーフカット! 泥の海(マッドシー)!」


 草魔法を繰り出した直後に地属性の魔法を杖から放つ。

 連続して異なる魔法を使うのもしっかり訓練した証拠だ。


(今の、順番を逆にすれば目くらましにもなるよね。じゃあ今度は……)

「チカちゃーん! オキトくーん!」


 千花が頭の中で魔法の応用を考えていると、後ろの方──訓練場の出入り口から名前を呼ばれた。

 振り返ると、そこにはいくつか薄い紙を束ねて小走りしているアイリーンがいた。


「2人に頼まれてた依頼、いくつか持ってきたわよ」


 同じく名前を呼ばれ、近づいてきた興人と一緒にアイリーンから依頼書類を受け取る。


「頼まれてた……ってあれか。2人だけでやる任務のやつ」


 シモンは若干渋ったような声で2人に割って入ってくる。

 渋った声を出した理由は、まあ多々あるのだろう。


「戦わなきゃ意味がないって言ってたから討伐依頼のものを持ってきたわよ。近辺の山の猛獣対峙か魔物退治」

「あんまり無茶な依頼はやめろよ。俺がクニヒコに小言を言われるんだからな」


 千花の予想通りシモンが渋っているのは邦彦も関係していた。

 仕方ないだろう。

 邦彦に興人とこの訓練を頼んだ時も結構渋られた。


『容易なものであれば許可します……が、いくら日向君に実戦経験があったとしてもあなた達はまだ世界では初心者扱いですから。そこは念頭に置くこと』


 邦彦とシモンから散々念を押されているが、ぶっちゃけその時2人はこう思った。

 (初心者が魔王退治なんてするか?)と──。

 体裁は良い子の2人は特に反論もせず、アイリーンにできそうなものを選んでもらった。

 そして今に至る。


「どれにする田上。一応お前の訓練だから選んでいいぞ」

「うーん。目的が相手の癖を知って慣れる戦い方だからそれなりに互角で戦える相手がいいな」

「それなら猛獣対峙なんてどう? これとかビーストモンキーの群れと戦うから目的に合ってるわよ」


 アイリーンが取り出した紙には『農作物を荒らす猛獣を倒してくれ』と書かれている。


(ん? ビーストモンキーって聞いたことが)


 千花のふとした疑問に気づいたシモンが近づいて話しかけてくる。


「初めて薬草取りに行った時、襲ってきた奴らがいたろ。あれだ」

「ああ、あれ。結構強かったけど私で戦えますか」


 あの時は千花自身手も足も出ず、結局シモンと崖に落ちたのだった。

 そんな千花の不安を他所にシモンは軽く答える。


「あの時お前は魔法の1つも使えてない幼児状態だったろ。今度は明確に魔法も使えるし、万が一でもオキトがいる」

「ビーストモンキーは何度か俺も戦ったことがあります。シモンさんも心配しなくていいかと」


 興人もそう言うので、千花はその依頼を引き受けることにした。

 「それなら」とアイリーンが新しい束から1枚紙を取り出す。


「同じ村から引き取ってほしい物があるって依頼が来てるから、一緒に受けておいて」

「討伐ついでのおつかいってことですか?」

「そう」


 それならお安い御用だ。

 おつかいなら魔法が使えない時にでも行った。

 スラムに片足を突っ込んだが。


「じゃあこれは取っておくわね。明日、2人で受注に来て」


 アイリーンはそれだけ伝えると、またロビーの方へと戻っていった。

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