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光の巫女  作者: 雪桃
第4章 次への訓練
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体力の限界まで

 アイリーンと別れ、その後少しだけ本を読み返してから1時間。

 千花は本を元に戻してから外に出る。

 図書館に入った時には薄暗かった空もあっという間に晴天に見舞われている。


(結局アイリーンさんに教えてもらった所以外は何となくしかわからなかった。やっぱり新しい魔法はシモンさんがいないとできないのかな)


 人通りが少ない朝の大通りを1人歩き、図書館からほど近いギルドへ寄り道せずに足を進める。

 中に入ると受付兼カウンターでは別れたばかりのアイリーンが新たな依頼整理や雑務をこなしていた。


(すごい切り替えぶりだな)


 千花はアイリーンを横目にカウンターの隣にある木造の扉に手をかける。

 いつもの訓練場に入ると、すぐに濃い紫色の髪を持つ青年が目に入った。


「シモンさん、おはようございます」


 千花がシモンに歩み寄る。

 シモンもすぐに気づいたようでこちらに目を合わせてくる。


「今日は早いですね。いつもなら私達が準備し終わった後に来るのに」


 千花が驚いたように話しかけるとシモンは気まずそうに目を逸らす。


「さすがに、何の用意もなしに魔法を教えるのは無理だからな」

「え?」

「ちょうどいい。オキトが来る前にお前に見せておこう」


 千花が言葉の意味を理解する前に、シモンが遠くに設置してある的当てに向かって手を伸ばす。


「ライトアロー」


 それは千花が先程唱えた光属性の呪文だ。

 シモンが唱え終わると、手のひらから矢の形をした光が凄まじい速さで駆けていく。

 光の矢は瞬く間に的まで辿り着くと、激しい音を立ててそれを真っ二つに割った。


「お、おお……」


 圧巻としか言えないその魔法に千花は感心した声を出しながら小さく拍手する。

 しかし一方のシモンは渋い顔をして肩を竦める。


「こんなんで訓練ができるか」

「え、普通にできてますよね?」


 何も知らない千花が聞き返すと、シモンは溜息を吐きながら返答する。


「素人から見ればな。だが、実践では使い物にならない。せいぜい見世物程度だな」


 シモンの説明では、この「ライトアロー」という魔法、光魔法の中でも超初級のものらしい。


「だが光魔法の質は変わらず、攻撃すると同時に能力上昇が付与される。この魔法なら速度上昇だな」

「それで?」

「俺にはその能力が付与されていない。つまり超初級魔法なのにまだ未完成ってことだ」

「なるほど……」


 シモンが授業を渋る理由がようやくわかった。

 たった1つの魔法もできていないのに教えられる教師なんていないだろう。


「ど、どうしたらいいんですか? 第2属性ができなかったらその次の魔法も」

「慌てるな。別に属性の相性がいいからってそれに固執する必要はねえ。光魔法ももちろん教えるが、お前には同時に3つ目の属性も教える」

「3つ目の属性はどうしますか」

「本来は魔水晶で確認するが、この前魔力が暴走したからな。好きな属性を選んでいいぞ」


 シモンは空中にいつもの属性表を映し出す。

 千花は数秒悩んだ後、草属性を指した。


「地属性の反対側なので」

「妥当だな。オキトが来たら模擬訓練をして、その後光魔法、草魔法を順番に教えてやる」

「はい」


 千花は意気込みながら頷く。

 そんな彼女の姿を見てしばし考える素振りを見せた後、シモンは久しぶりに意地の悪い笑みを浮かべる。


「言っておくがチカ、これから先ハードだぞ」

「ハード?」

「これまで通り模擬訓練と地魔法の復習は行いつつ2属性の魔法を一気に教えるからな。休む暇なんてないから覚悟しておけよ」

「……え」


 いつぞやに見た鬼畜バージョンの邦彦を思い出し、千花は1人血の気を引かせる。

 そんな2人のやり取りも知らず、数分後、興人が訓練場に入ってきた。




 数日後。


「ちか……千花! もうお昼だよ」


 春奈の声が遠くから聞こえるかと思えば、強めに肩を叩かれる。

 意識が覚醒し始めるとそこが墨丘高校の教室だということがわかる。


「はるな? どうしたの?」

「どれだけ寝てるのよ。もう授業終わったよ。千花の大好きなお昼の時間」

「おひる……うそ!?」


 昼前の授業が起きたことさえ覚えていない千花は急いで教室の時計を見る。

 指している時刻は12時10分。

 春奈の言う通り昼休みの時間だ。


「半数以上寝てたしおじいちゃん先生だから注意されることもなかったけど、45分ずっと寝てたね」

「また安城先生に叱られる……」

「なんで安城先生?」

「いや、こっちの話」


 授業を1時間分寝ていただけで学習としてかなりのロスになる。

 もうすぐ1学期の期末試験があることも踏まえて赤点など1つでも取った時には邦彦に何をされるかわかったものではない。


「ごめん春奈。今日の分のノート見せてほしい」

「いいよ、特別ね」

「ありがとう」


 千花は春奈からノートを借り、机の下にしまう。

 とりあえずは先程から体中に響き渡っている腹の虫を鎮めなければならない。


「それにしても千花が授業中寝るなんて珍しいね。いつも頑張って聞いてるじゃん」

「あー、うん……」


 中学生の頃は毎日のように寝ていたことは体裁が悪いので黙っておく。


「最近ちょっと忙しくて」

「テスト勉強もあるもんね」

「それだけじゃ……いや、うんそうなんだよ。大変だよね」


 実際それ以上に忙しいが春奈にバレてはならないのでこれも黙っておく。


(本当にきつい。このままじゃ午後の授業も寝る。何とかしないと)


 土日はただひたすら魔力と体力との戦いだった。

 初めの15分はまだ良かった。

 勝手知ったる興人との戦闘は日課だから。

 問題はその後だ。

 10分で地魔法の復習、15分で光魔法の講義、そして15分で草魔法の練習。

 魔力が少なくなれば筋トレを、回復したら魔法の練習を繰り返すこと6時間。それを2日。

 とっくの昔に体力は限界を迎えていた。


(それに加えて帰ったらテスト勉強も。安城先生の鉄槌が降りる前に集中しなきゃいけないけど抗えない所まで来てる)


 こうなればいっそのこと邦彦に勉強も見てもらうか。

 いや、シモンの鬼特訓の直後に臨時授業はそれこそ体力的に死んでしまう。


(これも慣れ。1週間もすればこれが普通になる。頑張れ千花。ていうか安城先生最近忙しそうだしやる気があったとしても頼めないか)


 己を鼓舞しながら、千花は最近邦彦の姿を見ていないことに気づく。

 言ってみればこの土日も会わなかった。


(べモスを倒すまではほとんど毎日一緒にリースに行ってたのに、そんなにやることが多くなったのかな)


 寂しさを少し感じながらも、千花は仕方ないのかとも思う。

 興人が言うには、邦彦はいわゆる機関という所の管理職のような所に配属されているらしい。

 候補者を導くために生半可な身分の人間が来ても困るが。


(べモスを倒したことによって私が本当に光の巫女としてやっていける人間であることが少し証明された。安城先生も私が更に戦いやすくなるように支援してくれてる)


 そう考えれば一緒にいてほしいなどとわがままを言ってはいけない。

 ただ少し心に穴が空いたような感覚に陥るだけだ。


(ていうかそもそも機関って何? 記憶の書き換えに扉の管理、街の修復なんて魔法が使えたら国家を牛耳ることすらできるのに、どこにあるかすらわからないんだけど)


 邦彦達がごくごく普通に「機関」の名を口にするので千花も慣れた気でいたが、ふと思い出してみると疑問だらけだ。

 確か興人も機関の人間だ。


(後で聞いてみよう)


 千花は春奈と食堂に向かいながらそんなことを考えていた。

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