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光の巫女  作者: 雪桃
第4章 次への訓練
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第2属性調査

 千花達がカルロの店を出てから30分後。

 2人が訓練用の服に着替え、お互いに準備運動をしているところでシモンが訓練場にやってきた。


「クニヒコはまだ来てないのか」


 2人の様子を見ながらシモンは聞く。

 千花と興人は知らないと言うように同時に首を横に振った。

 千花達も邦彦が先に来ていたと思っていたのだ。


「お前らの監督はクニヒコだが、魔法指導は俺がやっていいか」


 シモンが独り言のように呟いてから2人に向き直る。


「初めにいつも通り模擬戦闘を15分やる。その後、新しいことを始めるぞ」

「新しいことって?」

「属性強化だ」


 興人はすぐに理解できたようだが、千花はシモンが何を言っているかわからなかった。

 千花の表情を読み取ったのかシモンが簡単に言い直す。


「得意な属性を増やす訓練だ」

「属性?」


 すっかり知識が抜けている千花に一瞬青筋を立て、シモンは更に言い直す。


「お前は地属性だろ。それに加えて新しい属性の魔法を覚えるってことだ」

「ああ」


 ようやく千花は理解に追いついた。

 今まで同じ魔法の復習しかしていなかったため、すっかり忘れていたのだ。


「シモンさんが全て教えるんですか。講師を分けることなく?」


 興人が控えめにシモンに聞く。

 シモンはその質問に首を横に振って否定する。


「負担を考えると専門家に頼みたいところだが、俺達が目指しているのは光の巫女の悪魔討伐だ。前にクニヒコに言われただろ。チカが巫女候補だと知っている人間は限った方がいい」


 確かにそのようなことも言っていた。

 現に、リョウガにも最後の最後で問い詰められたこともあった。


「俺は幸い7属性分の魔法が使える人間だし、基礎であればすぐに教えられる。もちろん、お前らが他の奴から教わりたいなら話は別だが」

「そんなことないです」


 興人が即座に否定する。

 千花も続いて首を横に何度か振る。

 2人の行動を見て、シモンは不敵に笑った後、真剣な顔に戻った。


「なら、俺は属性に必要な水晶玉を持ってくる。お前らは2人で模擬戦闘をやってろ。魔法は使ってもいいが、後で属性調査するから魔力は残しておけよ」


 そう言うとシモンは元来た道を戻って倉庫に向かった。

 千花は興人と視線を合わせて、一定の距離を保つ。


「どうする?」

「シモンさんの言う通り、魔法は防御以外使わない。武器もなしの体術戦闘にしよう」

「わかった」


 ルールが決まると、千花と興人は始めの合図もなしに、同時に地を蹴った。




 数分後。


「ったく、なんでここの倉庫はこんなに汚ねえんだよ」

「皆報酬欲しさに依頼より多めに素材を持ってくるからねぇ」

「お前がいちいち片づけてんのか? 1回あの野郎共にここの片づけをやらせればいいんだ」

「ダメよ。貴重な素材も含まれてるのよ。彼らが片づけたら全部壊されて本当にガラクタになるわ」


 一見ゴミの山にも見えるギルドの素材倉庫の中でシモンは苛つきながら愚痴を零す。

 隣にいたアイリーンはよく似合う愛らしいワンピースが引っかからないように注意しながら目当ての品を引っ張り出していた。


「あった。シモン君が探してた物」

「魔法で出来てるとは言えもう少し丁寧に保管しろよ」


 アイリーンが引っ張り出してきた魔水晶は所々埃を被っていた。

 シモンは近くにあった布で拭いながら文句を垂れる。


「忙しくてね」

「だからもう1人くらい雇えって。マスターは何も言わねえのかよ」

「いいの」


 シモンが立て続けに言う中、アイリーンは食い気味にその意見を否定する。


「ここが私の居場所だから」


 アイリーンは低く小さな声で零す。

 更に言及するでもなく、シモンは言葉を切って魔水晶を訓練場へ運んだ。



「ふっ!」


 千花が足を高く蹴り上げ、興人の首を狙う。

 興人はそんな千花の足首を掴むと体勢を崩させようとそのまま引き寄せる。

 しかし千花もそのままにする訳もなく、息を大きく吸い込むと、後方に宙返りして手を振りほどく。


「成長したな。特にチカは瞬時に判断ができるようになってるな」


 シモンは魔水晶を小脇に抱えて訓練場へ足を踏み入れる。

 ちょうど千花と興人の肩慣らしも終わったようで、観察しているシモンにも気づかないまま2人は真剣に取っ組み合いをしていた。


「おかえりなさいシモンさん」


 先にシモンの存在に気づいた興人が顔を向ける。

 千花もその言葉に手を止めてシモンに体を向ける。


「体力もそこまで大幅に減っているわけでもなく、自分のできる行動範囲も理解できている。毎日模擬戦闘をしてるだけあるな」


 当初のシモンとは比べ物にならないくらい千花を褒めている。

 千花はむず痒い思いを抱きながらも、褒めてもらえることに嬉しさを覚える。


「さて、それじゃあキリのいい所でお前らの第2属性を検査するぞ。使い方はわかってるな」


 シモンの質問に逡巡することもなく千花と興人は頷いて肯定する。


「そしたら1人ずつ魔力を吹き込んでいけ。第2属性は時間差で来るから、少し長めに手を置いておけ」


 シモンに流され、千花と興人は互いに目を合わせる。

 どちらが先に検査をするか悩んでいるところだ。

 2人の間に無言が続いた後、興人が目を閉じて魔水晶に近づく。


「そうだ。そのまま水晶に集中しろ」


 興人が片手を魔水晶にかざしたまま魔力を込めると、徐々に中から小さな炎が灯り始める。

 そこで止めず更に集中していると、炎の周りをバチバチと雷が鳴り始めた。


「あっ」


 千花が声を上げたのと、興人が手を離したのは同時だった。


「オキトの第2属性は予想通り雷だったな」


 千花は以前邦彦と勉強した8属性の表を思い出す。

 向かい合わせになっている属性の相性がいいことも覚える。


「次はチカ、交代しろ」

「はい」


 興人と場所を交代してもらい、千花は見様見真似というように水晶玉に手をかざす。

 魔力を込めると第1属性を示す土埃が水晶玉の中を舞う。


(確か向かい合わせは草だったような。そしたらこの中に草が生えるはず……)


 だが千花の予想とは裏腹に水晶玉の中は土埃塗れで変化が見られない。


「あれ?」

「時間がかかることもあるから気にすんな。そのまま続けろ」


 不安になる千花にシモンは冷静に返す。

 その通りに千花はまた力を込めるが、全く変化が見られない。


(魔力が足りないのかな。もっとたくさん、魔力を出せば)


 千花は手の中にある魔力を徐々に増やしていく。

 もしや土埃が多くて見えないだけなのか。

 どちらにせよ確認のために千花は水晶玉に顔を近づける。

 そうすると、小さな光が目に入った。


「あ、何か浮かんで……」

「離れろチカ!」


 千花が光を覗き込もうとした瞬間、シモンが慌てたように叫ぶ。

 千花が聞き返す間もなく、光は一瞬で水晶玉を埋め尽くし、気づいたら破片が飛び散るほどに激しく割れていた。

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