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光の巫女  作者: 雪桃
第4章 次への訓練
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危険な買い物

「後で自由に見れるように配置場所も教えておくわね」


 相変わらず天井の光で目がチカチカするが、慣れもあってか先程よりは店内の様子も観察できる。

 カルロの言う通り、見た目は陳列された商品の棚と会計場所があるだけの雑貨屋だ。

 カルロは一番手前の棚に進んでいく。


「ここは食品コーナーね。一般的に流通が難しい物も売ってるし、香辛料も揃えてあるから巷の味に飽きたらぜひ試してみるといいわ」

「それは?」


 カルロが瓶詰めになっているらっきょうのような白くて丸い食材を見せながら説明するので、千花はその正体を聞く。


「タラドラっていう大蜘蛛の卵を酢漬けにしたものよ」

「……蜘蛛?」


 千花がカルロの言葉を小さく反芻しながら顔色を悪くする。

 カルロが1つ食べるかと瓶の蓋を開けようとしたので千花は凄まじい反射能力で首を大きく横に何度も振った。


「あ、後でゆっくり見るので」

「それもそうね。それじゃあ次はお隣。ここには世界各国の貴重な薬が置いてあるわ」


 カルロが指す先には圧巻とも言えるほどの薬があった。

 液体状、固形状、粉薬、更には注射器もある。


「でも名前だけじゃどれが何か」

「どういう用途か教えてもらえればぴったりの物を用意するわ。例えばこれなんか人気ね」

「何に使うんですか」

「冒険なんかで賊に会った時かしら。これが少しでも皮膚に付着すると全身に水疱ができるの。とんでもないかゆみに襲われるけど、引っ掻いたらそこの皮膚から何百ものウジ虫が……」

「もういいです!」


 言葉だけで吐き気を催してきた千花は口を手で押さえながらカルロの声を遮った。

 「そう?」と薬を棚に置くカルロを後目に、様子を見に来た興人を千花は「なんで連れてきたの」と言うように睨む。


「必ず役に立つ」

「こんな危険な物が?」


 確かに戦闘においては便利かもしれないが、その様子を見届けなければならないのだから絶対使いたくないと千花は断言する。


「ここが最後。魔法道具よ」


 カルロが腕をいっぱいに広げて千花に示す。

 カルロの指す魔法道具の棚は全部で4つ。

 食品と薬は2つだったため、量が倍になっている。


(どうせこれも爆弾とか危ないものなんだろうな)


 千花が身構えながらカルロに体を向けると、案の定試供品を手に取って見せてきた。


「これは匂い袋。冒険の中で魔物を寄せにくくする道具よ。色々種類があるから好きな匂いを選ぶといいわ。チカちゃん、魔法属性は?」

「地です」

「それならこれがいいわね」


 そう言ってカルロは棚から手のひらサイズの球体を1つ取り出した。

 正確な色は天井の光で判別できないが、茶色だと推測する。


「これは粘着ボール。草と地属性の魔法を合わせた物で、当てた先の相手を蔦と土で固めることができるのよ」


 カルロが比較的まともな商品を見せてくれるため、千花は若干警戒を解く。


「それって2属性をマスターすれば私1人でできる魔法ですよね」

「そうそう。だからこれを一度使ってみて、特訓の見本にすればいいのよ」


 初めて実用できそうな品を見せられて千花は少し誘惑に負けそうになる。

 しかし直前になって前回の2つを思い出し留まる。


「他のを見てもいいですか」

「いいわよ。わからないことがあったら聞いてちょうだい」


 カルロが店の奥へ入っていき、姿が見えなくなった所を計らって千花は興人に詰め寄った。


「安城先生達にバレたくないって」

「実用するには危険な物が多いから」


 違法ではない、と興人に付け加えられたところで千花の疑念は晴れない。

 他の商品を見ると言った手前このまま帰ることはできないが、正直早く出ていきたいというのが千花の本音だ。


「興人はここにある道具を使ったことあるの?」


 千花の問いにもちろんと言うように興人は頷く。


「魔王との戦いでも一度使った」

「えっ、いつ? 何に?」


 興人は薬棚の方に戻り、目当ての物を探す。

 千花が後ろにくっついて歩いている所で興人は1つ錠剤の瓶を手に取った。


「アーティフェニクス。直訳すると人工の不死鳥だな。これを1粒口の中に含んでおいて殺されそうになった時に飲み込めば一度だけ軌道を逸らしてくれる」


 果たして興人がこれを使っていた場面があったかと千花は記憶を辿る。


「田上は浄化に集中していたから知らないと思う。一度魔王の雷で鳩尾を貫かれたんだ。この薬で脇腹に変えられたが」


 確かに興人は千花を助けに来た時に脇腹を負傷していた。

 そういうことだったのかと千花は思い出す。


「完全に攻撃を逸らすことはできなかったの?」

「本物の不死鳥ならできただろうが、これはあくまで人工物だから。そういう点では諸刃の剣とも言えるな」


 軌道がズレたとは言え、あの時の興人の傷は決して軽傷とは言えなかった。

 攻撃がどこに行くかというのは全く予想がつかないというので、本当に危険な時のみだということがわかる。


「……で、興人が私にここを勧めた理由は?」


 まさかただ危険道具を揃えている店を紹介するだけではないだろうという意味も含めて千花が聞くと、興人がすぐに答える。


「こっちだ」


 興人は再び魔法道具の棚に向かい、迷うことなく1つ商品を取る。

 それは何の変哲もない髪ゴムだ。

 ダイヤの形をした水色──と思われる飾りがついている。


「魔力制御装置だ。一般の物に比べて耐久値が高い」

「これが目当て?」


 理由を尋ねようとする千花よりも前に興人が口を動かす。


「リースではつけなくていい。学校にいる間、無意識に力が暴走しないようにつけておけ」

「……はい」


 興人が何のためにここに来たのかその一言で理解できた。

 千花は今までここに連れてきたことを恨んでいた興人に謝罪の目を向けながら装置という名の髪ゴムを受け取る。


「カルロさん、これもらってもいいですか」

「どうぞー。他に欲しい物はない?」


 奥にいるカルロに声をかけてから千花は思い立ったようにもう一度商品棚の方に戻り、粘着ボールを1つ取って戻ってきた。


「これは買います」

「はーい。10ペインね」


 いつものようにお金を置こうとした千花だが、慣れない単位と貨幣に苦戦する。

 見かねた興人が千花の代わりに貨幣を順番に出してくれた。


「ありがとうございました」

「まいどありー。またいつでも遊びに来てね」


 千花はカルロに1つ会釈してから元来た階段を興人と共に上がる。


「……これ、持ってたら安城先生にバレるよね」


 いい買い物をしたと喜んだのも束の間、外に出ていつもの賑やかな大通りに着いた所で千花はふと手元に持っている品に1つ呟く。


「とりあえず今は高校のバッグに入れておけ。後で収納の魔法を教える」

「そんな便利な魔法があるの!?」


 相変わらず魔法は奥深く面白いと千花は荷物をまとめながら期待に胸を膨らませる。

 今の彼女も忘れていた。

 興人が、魔法を教えることが下手だということを。

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