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光の巫女  作者: 雪桃
第4章 次への訓練
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ピンク色のお店

 興人にカルロと呼ばれたその男は口を真一文字に結び、挨拶をする興人に近づく。

 バレリーナが着るようなピンク色のチュチュを身にまとって。


「や……」

「?」


 千花が目を丸くして固まっていると、カルロは筋肉だらけの腕を大きく広げて勢いよく興人の体を抱きしめた。


「やっだああああ!! オキトちゃんじゃなーい! どこに行ってたのよぉもう! 寂しかったんだからね」


 カルロは先程の野太い声から2オクターブ高くした声で女性のような口調になりながら興人の体を左右に振り回す。


「えぇ……」


 千花は自分よりも体格が大きく、訓練でも中々動かせない興人を軽々抱き上げて振り回しているゴツイ身体の持ち主に引いて、1歩下がる。


「お変わりないようで安心しました。連れに説明したいので降ろしてもらえますか」


 分厚い胸筋に顔を押しつけられている興人だが、そんなことは特に気にせず顔を上げてカルロに尋ねる。


「連れ?」


 興人を一度降ろし、カルロが千花を見つける。

 千花はヤクザとも思えるその容貌を向けられ、胃を鷲掴みされたような錯覚に陥る。


「あら。あらあらあら! 可愛い女の子じゃない! オキトちゃんもついに彼女ができたのね!」

「わああ!?」


 千花が身を引くより先にカルロが突進するように走り、千花の体を持ちあげながら振り回した。

 急な無重力状態に襲われた千花は必死に逃げようともがく。


「お名前は? どこから来たの? オキトちゃんとはどこで知り合ったの? どこを好きになったの!?」


 眼前に迫る胸筋に口と鼻を押さえつけられて千花は窒息しそうになる。

 カルロが何か大きな誤解をしているため弁明しなければならないのに、頭が回らない。


「カルロさん、田上が死にます。ちゃんと紹介するので降ろしてあげてください」


 興人はカルロの剥き出しになっている肩を数回叩き、我に返す。

 カルロから解放された千花は酸欠に目を回しながら意識を保つ。


「中に入らせてもらえますか」

「あらやだ私ったら。親しき仲にも礼儀ありよね。どうぞ、今は誰もいないからお茶を出すわ」


 カルロが恥ずかしそうに言いながら手招きして室内へ促す。


「あ、あの、どこへ」


 千花は明らかに異彩を放つ部屋に入ることを若干渋る。

 しかし興人はそんな千花にお構いなく、室内へ足を進める。


「お、興人!」

「大丈夫。カルロさんもここも危険な所じゃない」

「そんなこと言われても」


 千花は入口から見える部屋の内部を見渡す。

 天井から吊るされている蛍光色の強い電球が部屋全体に設置されているため、中は目が痛くなるようなショッキングピンクで覆われている。

 中は雑貨屋かと思われるような棚に所狭しと得体の知れない商品が並べられているが、正直千花の感想としては未成年が入ってはいけない所を思い浮かべる。


「あ、あの興人。ここはまだ私達には早いんじゃない!? そ、そりゃゆくゆくはこういう所にも遊びに来たりするんだろうけど」

「違う。お前の想像してるものは全くないからな」


 ふしだらな妄想に顔を赤らめながら否定する千花に対し、興人は冷たく一蹴する。


「怪しいお店じゃないの?」

「見た目はな。とにかく中に入ればわかる」


 それ以上は説明してくれることなく、興人はカルロの入った奥へと1人進んでいく。

 千花は不信感を露わにしながらもそこに1人で取り残されたくない思いで渋々興人についていった。


 数分後。

 千花達は奥にあった個室に腰かけていた。

 相変わらず照明はピンク色のままだが、それを抜かせば上にあった普通の住宅と変わりない。


(いや、ピンクの印象が強すぎて全然普通に見えないけど)


 千花が忙しなく視線を彷徨わせていると、更に奥にあるキッチンからカルロがお盆片手に小走りでやってきた。

 1歩進むごとに床が抜けるのではと千花は心配する。


「お待たせぇ。ごめんなさいねぇ、つまらないもので」


 カルロがお盆に乗ったカップをそれぞれ千花達に分ける。

 天井の光に晒されて中に入っている液体でさえピンク色に見えるが、匂いは以前アイリーンにもらった紅茶と同じだ。


「改めてはじめましてぇ。カルロス・デュランよ。皆は愛称でカルロって呼んでるわ」

「あ、えっと、千花です。はじめまして」

「やぁだ可愛い名前! ねえオキトちゃん、どこでこんな可愛い子と知り合ったのよ」

「ギルドで」


 テンションが昂っているカルロに興人は紅茶を飲みながら冷静に答える。

 やはり出されたものは普通なのかと千花は1人納得し、自分もカップに口をつける。


「あらあらいいわね偶然の出会い」

「先に言っておきますが冒険の仲間であって特別な仲ではないので」


 千花が遠慮して否定するのを躊躇っていると、興人が代わりに誤解を解いてくれた。


「あらそうなの? いい雰囲気になるかと思って飲み物の中に媚薬入れといたのに」


 「ぶーっ!」と千花は口に含んでいた紅茶を噴き出してしまう。

 カルロが「冗談よ」と言わなければ指を喉に突っ込んで中身を吐き出そうとしていた。


「いやぁねぇいくら私でも未成年に毒は与えないわよ」

「カルロさん」


 からかうように笑うカルロに向かって千花の代わりに興人が非難の目を向ける。


「ごめんなさい。新しいお客様は久々だからちょっと気分が昂っちゃった。オキトちゃん、チカちゃんにこのお店は説明したの?」

「全く」


 千花が呼吸を整えられた所でカルロは興人に尋ねる。

 首を横に振って答える興人にカルロは「もうっ」と少し怒ったように返答する。


「何の説明もなしに連れてきたの? そんなんじゃ怪しいお店だと思われちゃうじゃない」

「説明があっても怪しいお店でしょう」

「失礼しちゃう」


 冷たく返す興人に口を尖らせるカルロだが、千花がそのやりとりを見ている姿に気づき表情を和らげる。


「こんな無粋な男とはあまり付き合わない方がいいわよチカちゃん。それと、うちは別に違法なお店じゃないから安心して。ピンクのライトも私の格好も全部趣味だから」

「は、はあ」


 人の趣味趣向をどうこう批判する気はない千花だが、ヤクザのような容貌にピンク色のフリルが沢山ついたバレリーナ姿はやはり近寄りがたいものがある。

 何とかそこに意識が向かないように千花は店内の様子に目を向けながら口を開く。


「ここは何のお店なんですか」

「巷で売られているものを改良した道具を売っている、いわゆる雑貨屋ね」

「改良?」


 カルロの言葉にピンと来ていない千花は首を傾げて更に聞く。


「実際に見ながら説明しましょうか。可愛い新規のお客様のチカちゃんには特別に1つタダでプレゼントするから選びながら聞いてね」


 カルロが席を立って誘うので、千花は不安そうにちらりと興人を見る。

 興人は心配いらないとでも言うように1つ頷くので、千花はカルロの後を追った。

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