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光の巫女  作者: 雪桃
第3章 ウェンザーズ
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べモスとの死闘

 中心部に近づくにつれ、血の匂いは充満していく。

 しかし猛獣が襲いかかってくる気配はない。


「大丈夫?」


 嗅覚が鋭いリョウガが具合の悪そうに顔を顰めるのを見て、千花は尋ねる。


「平気じゃねえけど、もう慣れた」


 慣れる程嗅がなければならなかったということがリョウガにとっては癪なのだろう。

 そのまま警戒しながら進んでいった先には、トロイメアの王城にあったように重厚な、朱色の扉が聳え立っていた。


「ここが」

「あいつの住処だ」


 扉が閉まっているにも関わらず、中からは気絶してしまいそうな程気持ち悪い空気が漏れている。

 ここに魔王がいることは、一目瞭然だ。


「あいつが飛びかかってくる可能性もある。端に寄ってろ。俺が扉を壊す」


 リョウガが先頭に立って力を込めるため、千花と興人はそれぞれ武器を構えながら両側の端に立つ。


「行くぞ」


 リョウガは合図をしたと同時にその強い脚力で頑丈な扉を蹴り破る。

 扉は内側に向けて破片が飛び散りながら倒れていく。

 破壊音と倒れる音に耳がやられるが、それと同時に中から吐き気どころでは済まされない悪臭が襲ってきた。


「田上、杖を下ろすな」


 千花がその悪臭に意識を飛ばしそうになると、興人が冷静に注意してくる。

 千花は我に返りながら、杖を握る力を強める。


「中の様子は」


 千花は壊れた扉とリョウガの間から、警戒しながら中の様子を確認する。

 中は光が灯っていないのか、奥の方までは見えない。

 ただ、外側の光が漏れて見える手前の景色は最悪なものだった。

 床一面は獣人が流したであろう血だまりとも呼べない程に大量の血が外にまで流れてくる。

 その間から見えるのはおおよそ人の姿を保てていない猛獣になり損ねた半人半獣や、べモスに仕置きと称して引きちぎられながら食われたのか、腕だけない者や胴体の半分がない者。

 いずれも動いていない所から絶命しているのはわかる。


「酷すぎる」


 千花が吐き気やその醜悪さに唖然としながらぽつりと呟く。

 その声と同時に、リョウガが今まで以上に憎悪と言っても足りない程の感情を浮かべながら唸っていた。


「殺す……殺してやる」


 今にもべモスに飛びかかりそうなリョウガをどう宥めようか千花が悩んでいると、中から何かが小さくぶつぶつと呟く声が聞こえた。


「どいつもこいつもしつこいんだぞ。僕が王様なのに口答えするなだぞ」


 苛立っている声音だが、この中で余裕そうに独り言を呟いている声の主は1人だけだろう。


「あれが、べモス」


 千花は緊張の面持ちで杖を構えながら声のする方へ向ける。

 興人も無言で大剣を鞘から抜く。


「久しぶりだなクソ悪魔。俺達の国を返せ」


 リョウガが怒りを隠さずにべモスに吐き捨てる。

 しかしべモスは気にした様子はない。


「腹が減ったんだぞ。全く、こいつらは揃いも揃って役立たず。おまけに痩せ細って美味しくもない」


 そう言いながらべモスは近くにあった獣人の亡骸を口に入れ、気持ち悪い音を立てながら食していく。


「はあ、ゴミを食べるのも一苦労なんだぞ」

「殺してやる!」


 とうとう怒りが限界を迎えたリョウガは憎悪の言葉を吐きながら持ち前の爪と牙でべモスに飛びかかる。


「リョウガ!」

「田上、後方に回って援護しろ」


 何の作戦も立てていないため、リョウガが1人で戦場へ行くのに焦った千花だが、興人はそのまま大剣を手に続けて中へ入る。


「あいつも戦闘は慣れてる。2人であいつの魂を引きずり出すから、浄化の力を蓄えておけ」

「う、うん」


 千花は突然の戦闘に若干戸惑いながらも、今まで訓練してきた通り、周りを見ながら魔法陣を展開し始める。


(まずは様子を)


「トレノ!」


 暗い室内でもリョウガは標的を捉え、爪に電流を込めながらべモスの体に刺す。

 べモスは殺気に気づいて避けるかと思いきや、もろにリョウガの攻撃を喰らってその場に叩きつけられた。


「痛いんだぞ! 誰なんだぞ!」


 べモスは突然の攻撃とでも言うように驚きと怒りが混じったような声を張り上げる。


「誰? よくそんな口が利けたなクソ悪魔」

「僕はこの国の王様なんだぞ! 失礼な態度を取ってただで済むと思うなだぞ!」

「親父の国をクソ悪魔にあげたつもりはねえ!」


 べモスの言葉に憎しみと怒りをぶつけながらリョウガは叫ぶ。


「この国は親父たちが代々守ってきたものだ。お前が奪った親父も、国民の命も、全部俺が取り返してやる」


 そう言うとリョウガは再び爪に電流を込めてべモスへ飛びかかる。

 べモスは寸での所で後ろに退き、攻撃を避ける。


「怖いんだぞ! いきなり襲いかかるなんて卑怯だぞ」


 べモスが、まるで自分は悪いことなどしていないと言うようにリョウガを罵る。

 しかしその後ろに殺気を感じて振り向いた瞬間、背中を斬りつけられた。


「イグニート!」

「うわあ!?」


 いつの間にか背後に立っていた興人が大剣に炎を込めながらべモスに攻撃を仕掛けていた。

 べモスは前後から攻撃を受けて子どものように地団駄を踏みながら文句を言う。


「1対2なんて卑怯すぎるぞ! 正々堂々戦えだぞ!」

「悪魔が正々堂々ね……」

「これまでに惨殺してきた人達に対して全く反省してないんだな」


 リョウガが額に青筋を立て、興人も決して気を良くしていないように眉間に皺を寄せて言葉を出す。


「田上が浄化をするには魔王の魂を引きずり出す必要がある。なるべく弱らせられるか」

「誰に向かって言ってんだ?」


 興人の問いにリョウガはナメるなとでも言うような声を出す。


「俺はあいつと正面からやる。お前は支援に回れ」

「生憎俺は攻撃型だ」

「今見てたからわかるわ! あいつの攻撃が飛び散らないように警戒しろってことだよ!」


 リョウガの言葉をそのまま受け取る興人に1つツッコんでからリョウガは素早くべモスと間合いを詰める。


獅子の雷(レーベトレノ)!」


 先程の電流よりも更に強く雷を爪に纏わせ、べモスの顔を斬りつける。


「痛いんだぞ!」

「レビン!」

「ぎゃあ!」


 そのままゼロ距離でリョウガは強力な雷を体に打ちつける。

 べモスは悪魔の王だと言うのに情けない声を出しながら攻撃を受ける。


「もう怒ったんだぞ! お前は拷問してから殺してやるんだぞ!」

「やれるもんならやってみろノロマ!」


 べモスの脅しの言葉にも全く屈することなくリョウガは全力で魔法を展開し続ける。

 その様子を観察しながら、千花は援護用に溜めていた力を1度解く。


(べモスがあの調子なら、興人とリョウガだけで倒せるかも。なら私は浄化に集中して)


 リョウガに魔法を使ってから数分が経ち、千花の体力もそこそこ回復した。

 しかし全力でべモスを消滅させるには一瞬の詠唱では足りない。

 何とか時間を稼いでもらわなければ。

 千花は余計に気が散らないように目を閉じて杖の先端に魔力を込め始めた。

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