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光の巫女  作者: 雪桃
第3章 ウェンザーズ
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獣人の反撃

 褪せた色もなく、全てダークブラウンの木材が敷き詰められた城の床は、今は真っ赤な血の海と化していた。


「はあっ……はあっ」


 血の海に立っている彼もまた、返り血なのか自分の傷なのかわからないものを全身につけていた。


「これで、10体目……後、何体いるんだよ」


 ミラン達を一度退けてから何分経ったのか。

 シモンは1人で何十体もの猛獣を相手にしていた。

 魔導士の中で強い部類に入るシモンでも、心身ともに疲弊している。


「グルルル」


 シモンが何とか倒れないように己を叱咤して立っているというのに、目の前からはとめどなく猛獣が飛び出してくる。


「……くそがっ」


 シモンが悪態を吐きながら目の前を飛ぶ猛獣に鋭い岩を突きつける。

 必ず絶命できるように的を絞って魔法を撃っているが、集中力も途切れている。

 段々攻撃1つでは動きを止められなくなっている。


(そろそろ、限界か)


 目眩によって猛獣が2体にも3体にも増える。

 もうどれが本当に動いている敵かもわからない。


「ぐっ!」


 シモンが正面に気を取られている間に背後からモグラの猛獣に鉤爪で背中を裂かれる。

 咄嗟に避けたものの、シモンの背中には大きく3本の傷が走った。

 当然傷口から血も溢れ出る。


「……おらぁ!」


 シモンが激痛に意識を飛ばす前に、猛獣の心臓目がけて岩を深く刺し込む。

 モグラはすぐに息絶えるが、その後ろから狼がシモンの腕を噛みちぎろうとしてくる。


「っ!」


 シモンは腕が体から離れる前に狼の腹に蹴りを入れて引き剥がす。

 1体倒したらまた1体、更に1体、シモンの目の前から猛獣が絶えることはない。


「頼むから……そろそろ消えてくれ」


 意識が朦朧とする中、シモンは弱音を吐く。

 猛獣の追撃がいつ終わるのかもわからないまま、たった1人で、死ぬまで対峙しなければならない。

 段々絶望を浮かべ始めたシモンの腹を、何かが頭突きしてくる。

 もう何の猛獣かもわからないが、今のシモンにとってはどうでもいい。


(もう、死んでも)


 虚ろになったシモンの目に、鋭い爪が見える。

 その爪で殺してくれるなら、それでいいとシモンが諦めた時、近くで発砲するような乾いた音が響いた。


「シモンさん! 避けてください!」


 遠くから聞こえる大声に、反射的にシモンは横に避ける。

 その直後、シモンの目の前にいた猛獣は銃弾に撃ち抜かれてその場に倒れた。


「シモンさん!」

「……クニヒコか」


 シモンに駆け寄り、急いで邦彦は彼を肩に担ぐ。

 シモンはゆっくりと邦彦を見上げる。


「ここまでよく耐えました。後は休んでいてください」

「そうしたいのはやまやまだが、お前1人でこの猛獣の数を相手にできるとは思えないぞ」


 邦彦も戦闘技術も優れている。

 だが、彼は魔法を使うことはできない。

 いくら拳銃の操作ができても弾が切れれば終わりだ。

 その意図で話すシモンだが、邦彦の視線はそちらには向いていなかった。


「クニヒコ?」

「いえ、戦えるのは僕だけじゃありませんよ」


 何を言っているのか、邦彦の視線の先をシモンが追おうとすると、横から何かが通り過ぎていく。

 それは、シモンを傷つけていた猛獣を噛む、獣だった。

 その後も続けて様々な獣がシモン達の後ろから猛獣に飛びかかっていく。


「猛獣同士が戦ってる?」

「いいえ。あれは猛獣ではありません」


 シモンが呆気に取られている中、邦彦は理解したように不敵に笑う。


「猛獣じゃないならあれは……」

「遅くなってすまない」


 シモンが言いかけた言葉に被せるように、背後から低い男の声が聞こえた。

 そちらに目をやると、先程一度撤退したミランが立っていた。


「お前……」

「おかげで体勢を立て直すことができた。後は任せてくれ」


 ミランの言葉にようやくシモンは理解した。


「こいつら全員獣化したのか」

「任せてもいいんですね。こちらに敵を向かわせることは」

「こちらで必ず足止めをする」


 邦彦の念押しのような問いにミランは即答する。

 その表情を見つめた後、シモンは無言で頷いた。


「わかりました。では僕はシモンさんを処置してきますので」

「ああ」


 邦彦は判断力が鈍っているシモンを引きずるように連れて猛獣から遠く離れる。


「あいつらに任せて大丈夫なのか」

「確証はできませんが、まずはあなたの存命が第一です。それまでは彼らに任せましょう」


 邦彦達が姿を消したところでミランは戦闘を繰り広げている猛獣と仲間達を見上げる。

 獣化すれば魔法も使えるため、負傷が少ない。

 だが、それを続けていればまた先程のように大量の同士討ちが起きる。


「すまない、同胞よ。お前達の無念は、必ず責任を取ってみせる」


 そう言うとミランは獣人の姿を解く。

 肌色の部分は茶色く毛深い体毛に覆われ、手足の指先は長く、鋭利になる。

 顔つきも変わり、丸かった歯は全てを噛みちぎれるような牙に、目は獲物を捕らえる力を持つ獰猛なものに。

 ミランは人の姿を変え、巨大な熊の姿をした獣になった。


(我々の国は、我々で救う)


 ミランは他の仲間と共に、猛獣の群れへ突進していった。

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