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光の巫女  作者: 雪桃
第3章 ウェンザーズ
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リョウガの正体

「……馬鹿か! 猛獣は絶命するまで敵を殺そうとすんだよ! 油断すんな!」

「ご、ごめん。あの、怪我が」


 撃退直後にリョウガに説教され、千花は尻込みしながら謝る。

 動揺したままリョウガの傷を指摘すると、どうでもいいと言うように手を払い除ける。


「サソリのトゲには毒が入ってるから触るな」

「尚更早く治さないと!」

「俺は毒に耐性があるからいいんだよ。このまま失血しない程度に血を流して毒を逃がしてればな」


 それでいいのかと千花が心配そうに見るので、リョウガは呆れたように千花の隣に座った。


「はあ。もうお前と戦う気も失せたわ。好きなように行動しろよ」

「だからなんで1人で戦おうとするの。ここまで来たら一緒に戦えばいいじゃない」


 サソリとの戦闘で千花もリョウガも相当体力を削られた。

 皮肉を垂れることはできてももう武器を手に取ることもできない。


「ねえリョウガ。どうしてそんなに1人で抱え込もうとするの」


 千花が静かに質問を投げかける。

 今なら反撃されないだろうというわけではなく、単純に今までの言動が気になったからだ。


「……」

「言いたくないならいいけどさ。なんだかんだ言って私のこと助けてくれたじゃない。本当に仲間がいらないって人は、あの場で助けようとしない」


 サソリの鳴き声で苦しんでいたはずなのに、気づけばリョウガは何度も千花を救っていた。

 壊れる壁から避けたり、サソリのヘドロを魔法で封じたり、挙句毒から庇うなんて、本当に殺したい相手にはしない。


「……」


 リョウガが黙っているので千花も諦めようとする。


「私はついていくからね。そのために、ウェンザーズに来たんだから。リョウガも好きに……」

「俺のせいだから」

「え?」


 千花が言葉をかけたと同時にリョウガも口を開く。

 千花が聞き返すとリョウガはそのまま全て話し始めた。


「俺があの時、べモスに体を乗っ取られなかったから、親父もこの国の民も、全て魔王に奪われた」


 リョウガの言葉に千花は目を丸くして見つめるしかなかった。


「乗っ取られなかったから? 親父?」


 千花の戸惑いの理由がわかったのか、リョウガは更に付け足すように口を開く。


「ウェンザーズの国王であるレオは俺の親父だ」


 簡単に説明されたが、それで千花が「ああそうか国王の息子だったのか」と理解できるかと言われればそんなことは全くない。


「訳あって城にいたって」

「国王の息子が城に住んでてもおかしくねえだろ」

「そういうこと!?」


 あまりにも単純──というか訳ありで城に住むと言えばそれが一番妥当な理由なのに思いつかなかったことが千花の中で一番驚きだ。

 口を開けて今目の前にいる少年──この際王子と呼ぶべきなのか──を見ている千花だが、本題から逸れていることに気づいた。


「ごめん脱線した。それでどうしてリョウガが乗っ取られなかったからって理由になるの」


 千花の更なる質問にリョウガは少し躊躇った後、暗い表情のまま言葉を紡ぎ始めた。


「3年前のあの日。俺は城の中で悪さばかりしていた」


 リョウガはどうやら幼い頃から王族としてはありえないくらいのあくどい子どもだったらしい。

 従者の話は無視する、勉強をサボって1人で勝手に街に遊びに行く、物は壊す、と毎日のように大人を誑かしてきたらしい。

 中でも最悪だったのは父親であるレオとの喧嘩である。


『リョウガ。王族としての自覚を持ちなさい』


 リョウガが悪さをする度にレオは幼子をあやすように毎日同じ言葉を繰り返す。

 それが反抗していたリョウガにとっては癪に障り、次の日には更に激しく悪さをしたという。


 そんなことが続いたある日。

 ウェンザーズには珍しく重い雲が立ち込めている天気の中、リョウガは度胸試しと称して立ち入り禁止区域となっている城の裏側──罪人の牢屋へと向かった。

 とは言え、牢屋が使われたのは随分昔のことであり、今は新しい更生施設を建設し、生き物としての権利は保証されるようになっている。

 それでもリョウガが牢屋に行く理由は、最近街の若者の間で城の奥から呻き声が聞こえるという噂を聞いたからだ。


(俺が噂を究明してあぶり出してやる)


 そんな若者特有の怖いもの知らずの性格で1人、暗い室内を突き進む。

 獣人の特性を使えば慣れない場所でも余裕だ。


「……た」


 暗い牢屋を進んで20分経った頃、不意に遠くの方から声が聞こえた。

 リョウガが一度立ち止まって様子を見る。

 するとまた声が聞こえてきた。


「空いた……お腹が空いた」


 しっかりと声が聞こえたのと、リョウガが魔法陣を展開したのは同時だった。

 存在が認知された時に感じたのは得体の知れないものへの恐怖よりもつまらない生活を変えてくれる玩具に対する興味だった。


「さあ来いよ! 俺を楽しませろ!」


 リョウガが声のする方へ雷を撃って檻を壊す。

 そのまま敵が来るのを迎え撃とうとした瞬間、圧倒的な魔力と体のうちから震え上がるような叫びがリョウガを襲った。


「食わせろ! お前も、あいつらも、全部全部食わせろぉぉぉ!!」


 リョウガの目の前に、黒く大きな靄が飛び出す。

 そのまま標的をリョウガに向けて、大きな口を開けてその体を飲み込もうとした。

 その迫力にリョウガが何もできずに呆然と立ち尽くしていると、後ろから何かに突き飛ばされた。

 それは紛れもなく、毎日喧嘩していたあの口うるさい父親だった。


「国民を守れ、リョウガ」


 それだけ言うとリョウガの父・レオは黒い靄に飲み込まれていった。

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