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光の巫女  作者: 雪桃
第3章 ウェンザーズ
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味方同士の殺し合い

 暗く寒い城の最下層を歩くこと10分。

 しかし、この室内以上に千花とリョウガの間には、冷たい沈黙が訪れていた。


「……リョウガ、後どれくらいで地上に着くの?」

「……」


 千花の質問にもリョウガは答えない。

 理由はわからないが、どうやら完全にリョウガを怒らせてしまったらしい。


(でも、そんなに怒ることもないじゃない。私達だって、命がけでここまで来たのに)


 黙ってはいるものの、千花もそれなりにリョウガに対して苛立ちは感じている。

 千花だってここに来るまでに何度か命の危険を経験してきた。

 ウェンザーズに来てからも魔王を倒す決断をするために迷うこともあった。

 それを仲良しごっこと言われれば千花もそれなりに憤りを感じる。


(大体なんで頑なに1人でべモスを倒そうとするの。人間と獣人が力を合わせないと勝てないって自分で言ってたのに)


 協力して倒すべきという意見の千花と、絶対に1人で倒すという意見のリョウガでは馬が合わないのは当たり前だ。

 リョウガは頑固だと千花は心の中で薄ら悪態を吐く。

 それから更に5分。

 歩いても歩いても見えるのは頭1つ分のみ高いリョウガの背中だけで、一向に変化した所はない。


「リョウガ、本当に出口に行ってる?」

「……」


 うんともすんとも言わないリョウガ。

 千花は獣人でないため匂いも飛び抜けて良い聴力もないが、リョウガが意図して無視しているのだけはわかる。

 いい加減千花も我慢の限界だった。


「ねえ、無視しないで。いくらリョウガが強くたってこの現状を見れば1人で立ち向かえないことくらいわかるでしょ」

「……」

「そうやって黙って進んでても犠牲者が増えるだけじゃない。自分がさっき言ってたこと、もう忘れたの」

「……」

「私だってここに来るまでに何度だって悩んだし、怖い思いも沢山した。でも仲良しごっこをするつもりで来たわけじゃないことは確証できる。他の人達だってあなたの言う腑抜けた態度を持って来たわけじゃない」

「……」

「なんか答えなさいよ!」

「うるせえな!」


 千花が怒りのまま叫ぶと業を煮やしたのかリョウガもそれ以上の声量で怒鳴る。


「偉そうに説教垂れてんじゃねえ! お前が今まで俺の目の前で敵を倒したことがあったか? 俺が対峙した時も隠れて人任せにしてたくせによ!」


 リョウガの声は威圧感があり、こちらが委縮するような気配を漂わせている。

 これまでの千花ならそこで怯み、何も言い返せなくなるところだが、今は彼女も苛立っているため真っ向からリョウガを睨みつける。


「夜中に1番力がない私に奇襲をかけてきた卑怯な男と対等に戦うなんて馬鹿のやることでしょ! そういう卑怯者を腑抜けって言うの!」

「本当に食い殺してやるよ弱虫!!」

「やれるもんならやってみなさいよ卑怯者!!」


 説得をしようとしていた千花なのに、気づけば子どもがやるような激しい罵り合いの喧嘩になっていた。

 だが今の2人には魔王を倒すという大きな目標は頭の片隅にもなく、ただ目の前の目障りな奴をどう黙らせるかに変わっていた。

 2人は一瞬で間合いを取ると、臨戦態勢に入る。

 千花は魔法杖を、リョウガは獣人特有の鋭い爪と牙を向けながら同時に飛びかかる。


泥団子(マッドダンプ)!」


 千花がすぐさま杖の先端から岩のように固い泥団子をいくつも生み出してリョウガに投げる。

 しかしリョウガは軽々と爪で弾くと、強い脚力で千花の鼻を噛みちぎろうとしてくる。


泥の海(マッドシー)!」


 千花も瞬時に反応し、動きを止めるためにリョウガの頭上に重い泥を降りかける。

 動きを止めたリョウガから離れるために千花は後ろでに飛ぶ。

 着地したその隙をついてリョウガは泥を振り払い、千花を攪乱させるように岩壁を登っていった。

 目にも止まらぬ速さで壁から壁へ走るリョウガに千花は目を凝らして追いつこうとする。

 だがそれより早くリョウガが千花の真後ろにまで立ってその黒髪を乱暴に掴み、引っ張る。


「うっ」

「お望み通りその首噛みちぎってやるよ」


 リョウガは千花の髪を引っ張ったまま自分に彼女の首を近づける。

 そうして剥き出しになった首の動脈目がけて肉ごと噛みちぎろうとしたその時だった。


「キイイイイ!」


 とてつもなく耳障りで、聞いているだけで吐き気がするような音が牢獄中に響いた。

 驚いた千花はその不快な音に思わず耳を塞ぐ。


「いたっ」


 拘束されていた髪から手を離されたのか、千花は法則によって前のめりに転ぶ。

 すぐに立ち上がって振り返ると、リョウガが顔色を悪くしながら千花と同じように──それより強く耳を塞いでいた。


(そっか。耳がいいから私よりダメージが)


 獣の習性がこんなところで効果を及ぼすとは思わなかった。

 とどめを刺そうと思えばできるが、そこまで非道なことは千花にはできない。


(とにかくこの音を止めないと。音源はどこに)


 千花が何も見えない中、声の元を辿ろうとした瞬間、ぱたりと音が鳴りやんだ。

 まだ鼓膜に先程の衝撃が残っているが、一先ず辺りは糸が張ったように静かだ。

 千花が原因を探ろうとすると、横で何かが落ちる音がした。


「リョウガ!? 大丈夫?」


 千花がそちらに目をやると、リョウガが四つん這いの姿で激しく息をしていた。

 千花が駆け寄って座ると、リョウガは反抗するように弱々しく千花の手を振り払う。


「いらねえ。さっさと俺にとどめを刺せばいい」

「今はそんなこと言ってる場合じゃないでしょ! 早くここから出ないと」

「無理だよ。あいつがいるから」

「キイイイ!」


 リョウガが諦めたように吐き捨てると同時に再び耳障りな絶叫が響いた。


「ぐぅっ!」


 リョウガが苦しそうに呻きながら耳を塞いで耐えようとする。

 千花でさえ気分が悪くなるような音だ。


(気に食わないけど、それとこれとは別。私が声の主を探して止めないと)


 千花は手探りで声の響いている場所を当てようとする。

 杖を握りしめ、壁伝いに歩いていると、再び音が止んだ。


「何なのこの音。黒板を爪で引っ掻いた音というか、金属同士をかち合わせたような音というか」


 千花は五感を上手く使えない中、辺りを見回す。

 すると次の瞬間、室内全体が地響きのように揺れ始めた。


「うわっ」


 千花が戸惑いながら壁を支えに立っているが、地響きは更に激しくなる。

 そのまま千花が杖を目の前に向けて魔法陣を展開しようとした途端、リョウガが凄まじいスピードで千花の腹を抱えながら壁から離れた。

 直後、千花が立っていた所の壁が轟音を響かせながら何かに破壊された。

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