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光の巫女  作者: 雪桃
第3章 ウェンザーズ
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決行は明日

 1時間程話して千花達は基地を後にする。

 道中ミランが見送ろうとしたが、その前にリョウガが千花達の前に現れる。


「お前らには少しも期待してねえ」

「またかリョウガ。何がそんなに気に喰わないんだ」


 未だに牙を剥くリョウガにミランは半分怒りを露わにしながら諫める。

 リョウガは襲いかかってこそ来ないまま、唸る姿から警戒していることはわかる。


「これは獣人の問題だ。人間のお前らに、この国を守れるか」


 それだけ吐き捨てるとリョウガは身軽な体で家の隙間を縫うように消えていった。


「……全く」


 ミランは仕方ないというような溜息を吐くが、その表情は慣れたものだった。


「リョウガのあの態度はいつものことなんですか」


 千花の指摘にミランは気まずそうに目を泳がせる。


「まあ、そうだな。あいつは境遇が特殊だから、協力することを拒むんだ」

「ミランさん達にも?」


 興人が畳みかけるように問うと、ミランはしばらく考えてから小さく頷く。


「一応話は聞くが、信頼されてるとは言えない。悪魔討伐の一時的な協力者としか思っていないだろう」


 それも全て境遇が関係しているのだろうか。

 そこまで人を信じられなくなる要因は何なのか。


(悪魔から国を取り戻せれば、リョウガも少しは心を許せるのかな)


 千花は怒りや恨みが籠もったあのリョウガの目をずっと心に留めておいた。

 ミランと別れ、千花達は先程いた場所へと戻る。

 邦彦達も調査が終わったらしく、元いた所に立っていた。


「戻りました」

「おかえりなさい。危ない目には遭いませんでしたか」


 一瞬殺されかけたが、それを言うと邦彦が二度と偵察に行かせてくれないような気がしたので千花は無言で頷いた。

 興人が一度千花を見た気がするが、あえてそちらを見ないようにする。


「安城先生達は予定通り裏道を見つけられましたか」


 千花が話題を変えるように邦彦に問いかけると、すぐに頷いて口を開いた。


「城の裏に広い下水道がありました。整備されておらず柵も壊れているため、恐らく監視の目はないと思います」

「明日討伐隊も基地から襲撃をかけるそうです。そっちを使ってもいいと言われましたが」

「そのようですね。僕達も、見張りに来ていた獣人の方から聞きました」


 いつの間にかコミュニケーションを取っていたことを自然と話す邦彦に千花と興人は頷こうとして驚きに首を不自然に止める。


「獣人と話したんですか」

「ええ。僕達が味方だとわかると少しずつ心を開いてくれました」


 千花はたまに邦彦の真意がわからなくなる。

 光の巫女の敵に対して一番警戒していることもあれば、このように誰よりも気さくに関わるのだから。

 シモンの方を見ると邦彦よりかは獣人に心を開いていない様子だった。


「俺が対応する前にクニヒコが獣人に近づいていくから。俺もチカと同じ意見だよ」

「ですよね」


 実際にアジトに行ってミランの話を聞いた千花達でさえまだ警戒心を解いてはいないと言うのに。


「彼らと話し合いましたが、日時だけ決めて別行動をとることに決めました。通路をいくつか決めて襲撃する方が不意打ちを狙えますので」


 邦彦が獣人とそれを決めたというならミラン達にも情報が行っているだろう。

 そこまで話したところで邦彦が真剣な表情に戻る。


「べモスは暴食かつ自分からは動かない性格です。彼らは明日日の出とともに襲撃するそうですし、僕達もその騒動に乗じて気づかれないように侵入しようと思います」

「どこに通じているかはわかるんですか」


 興人の問いにこれも邦彦はすぐに頷く。


「獣人に協力を仰ぎ、居場所を特定してもらいました。下水道に人が通れる穴が1つあるらしく、どうやら武器庫に繋がっているようです」


 武器庫なら万が一のために何か武器を拝借することも可能だろう。

 監視がいないことが望ましいが、その時に備えて気は緩めないでおく。


「明日は全面戦争です。気を引き締めてくださいね」

「はい」


 新たに加わった獣人の仲間とともに、千花達は魔王の城へと乗り込むことになった。




 城の中、べモスの目の前に跪く従者の1人が外の声を耳にする。

 同胞の会話や、聞き慣れない声が彼の耳に入ってくる。


『明日……に……入る』

『一軍は……少数部隊で……』


 今までは外の声など聞きたくても聞こえなかった。

 城の中には機密事項が漏れないように防音の魔法がかかっているから。

 それなのに声が聞こえるということは。


(誰かが城の内部に潜入している?)


 声の主は誰なのか。

 べモスに洗脳されていて自由に会話ができる者など城の中に1人としていなかったというのに。

 まさか外へ逃れた者が討伐来たというのか。

 そんな無謀なことをすれば最悪ウェンザーズは国民諸共滅びるというのに。


(だが……)


 万が一、いや、億が一でも可能性があるならば、べモスの暴挙を止められる者が現れたのであれば、一刻も早く自分達を救ってほしい。

 3年も続いたこの悪魔から、覚ましてほしい。


(どうか、我々をお救いください。レオ様……光の巫女様)


 心の中で手を強く組んで祈る青年。

 そんな彼の耳に、何かを破壊するような轟音が響いた。

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