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光の巫女  作者: 雪桃
第3章 ウェンザーズ
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魔王討伐隊

 着いた先は1つの木造建築の民家だった。

 なんてことはない、他の家とほとんど違いのない家に大男とリョウガは躊躇わず入る。

 千花と興人は互いに目を合わせてから後に続く。


「少し離れていてくれ」


 指示に従い千花達は扉の前で待つ。

 その隙に大男は本棚がある場所に立つ。

 そのまま本棚を3度叩く。


「エルヒート」


 大男が言葉を唱えると、本棚がゆっくり音を立てて横に動く。

 先程本棚があった場所には暗い通路が現れた。


「これって」

「隠し通路だな」


 千花達がそのカラクリに驚いている間に大男が入ってくるよう手で促す。

 更にその後をついていくと、段々奥の方から光が灯る。


「ただいま。約束通り連れてきたぞ」


 大男が声をかけた先には、数人の男がいた。

 リョウガよりは皆年上に見える。

 後は街中でも見た木箱や松明、それと仕事に使われるであろう鍬や斧が壁に設置されていた。


「安心していい。彼らも俺達の仲間だ」


 リョウガに睨まれている中、安心できるものかと反論したくなる千花だが、そこはぐっと堪える。


「ここは俺達の最終防衛基地だ。絶対に外に知らせてはいけない」


 千花と興人が同時に頷くと、大男はそのまま2人から少し離れた所で向かい合う。


「遅れてすまない。俺の名はミラン。熊の獣人だ。こいつはリョウガ……おい、どこ行く気だリョウガ」


 大男──ミランが千花達に紹介しようとしているにも関わらず、リョウガは面倒そうに離れていく。


「紹介なんていらねえ。どうせ後でしっぽ巻いて逃げ出す奴らのことなんか誰が覚えるか」

「リョウガ! お前はいい加減に……」

「リョウガの言う通りだ。ミラン、お前は人を信用しすぎなんだよ」


 ミランがリョウガを諫めようとするが、後ろにいた木箱に座っている猫目の男が反論する。


「だが彼女達は現にあいつらと交流していない」

「罠の可能性もある。基地へ来させるなんて俺は反対していたんだ。どこで裏切るかわかったもんじゃない」


 他の獣人達も一様に強ばった表情のまま視線を向けてくる。

 やはり歓迎はされていないことを千花は興人と認識する。


「裏切るなんてそんな。現にこちらに従ってくれているんだぞ」


 ミランが千花達を庇おうとするが、数には勝てない。

 猫目の男はミランを押し退けると素早く武器を取り、千花にその刃先を向けた。


「危ない芽はさっさと取り除け。それが先代の教えだ。納得がいかないならお前も背中にある杖を抜け」


 目と鼻の先にある剣を見て千花は戸惑う。

 信じてもらえないことは予想のうちだが、まさか戦闘を申し込まれるとは思わなかった。

 リョウガもそうだが、何故こんなに血の気が多い者が来るのだろうか。


(いや、違う。誰に対しても警戒しなきゃいけなかったんだ。そうしないと、家族を奪われて殺されるから)


 千花は一瞬躊躇った後、後ろ手で自身の魔法杖を引き抜く。

 隣で興人が息を呑むような音が聞こえたが、千花は構わず男を見る。

 杖を引き抜き終わると男が瞬時に刃先を振りかぶり、千花の首を切り落とさんとする。

 しかし、千花は杖を片手に持ったまま避けようとも攻撃しようともしない。


「どういうつもりだよ」


 千花の行動に男は寸での所で刃先を止め、忌々しそうに千花に吐き捨てる。

 千花はそのまま杖を──捨てようとしたが壊れるのを心配して──音を立てないように地面に降ろした。


「私は戦う気はない」

「あ?」


 男の殺気が伝わってくるが、千花は構わず口を動かす。


「私はあなたより……ここにいる誰よりも弱い。魔力も体力も1番低い。だから、私より強い人と戦わない。悪魔と戦うまで、無駄に力を消費しない」


 千花の言葉に男が信じられないというような表情を見せる。

 一方で千花の意図を理解した興人がしばらく考えた後、自身の腰にかけてある大剣を鞘ごと外し千花同様地面に降ろした。


「殺したければ殺せばいい。でも私はあなた達に約束する。悪魔を倒すまでは、絶対に裏切らない」


 千花が意気込んだ後、薄暗い基地に重い沈黙が訪れる。

 正直本当に殺されるのではないかと若干不安を抱いていた千花だが、意に反して男は大きく舌打ちをすると武器を降ろして乱暴に元いた場所に座り込む。


「ミラン、お前がどうにかしろ。俺は助けてやらねえからな」


 呆気に取られていたミランが自分の名を呼ばれはっと我に返る。

 すぐに千花の元へ寄ると頭を下げてきた。


「すまない。怪我はないかい」

「大丈夫です。寸前で止めてくれたので」


 千花が平常心を装いながら返答するため、ミランも肩の力を抜いた。


「それならもう少し奥で話そう。ここは前線で仲間の帰還を待つ場所だから」

「はい」


 千花は地面に降ろしていた自分の武器を拾い、促されるままミランについていく。

 興人も同様についていくが、その寸前、リョウガが強く歯軋りをしながら千花を睨んでいるのが見えた。


(どうしてそこまで田上を恨む?)


 興人はリョウガの行動に疑問を抱きながら奥へと進んだ。


 そのまま進むと色々な場所に通じている道が無数にあった。

 どこも整備されているため基地であるのだろうが、何というか。


「蟻の巣みたい」


 無意識に言葉が出て、慌てて失礼だったかと口を噤んだ千花だが、ミランは気にしないとでも言うように微笑みながら頷く。


「君の想像通りだ。この巣は元々蟻の獣人が地下に住むために開拓したものだ。それを今は基地として使わせてもらっている。武器庫や食料庫もあるし、悪魔に存在をバレる前に保護した女性や子どももいる」

「蟻の獣人なんているんですね」


 虫は獣に入るのか? と心の中で疑問に思う千花だが、ミランは続けて答える。


「君達が生き物と呼ぶ者は皆獣人となる。虫も草食動物も肉食動物も、全てだ」

「不思議な世界」


 地球ではありえない話を聞き、千花はウェンザーズへの興味をますます増幅させていく。

 必ず魔王を倒せたら、いつか普通にこの国に遊びに来てみたいと。


「さて、着いた。他の仲間にはちゃんと言っておくよう命じたから安心して入っていい」


 千花達が案内された場所へ入ると、そこは応接間のような場所になっていた。

 千花達以外に人はいない。


「時間も惜しい。手短に話そう」

「はい」


 千花達の向かい側にミランは座り、本題に入る。


「まずは確認だ。君達は悪魔を倒しに来た人間で間違いないね。疑われる前に言うが、我々も勿論悪魔討伐派だ」


 ここまでついてきて黙秘することも無駄だろう。

 千花達はミランの問いに素直に頷く。


「君達が討伐隊に選ばれた理由はこの際気にしないことにしよう。人間が助けようとしてくれたことには礼を言わなければならない。我々が持っている悪魔の情報を共有したいのだが、どこまで知っているのか教えてくれないか」


 千花と興人は再び目を合わせ頷いてから、マリカから以前教えてもらって情報をそのままミランに伝えた。

 また、邦彦達と話し合った推測も入れて話す。

 大方話し終わった後、ミランは1つ息を吐いた。


「思った以上にそちら側も知識を持っていたのだな。ではこちらからは3点話させてもらおう」


 ミランは指で3を作ってから話し始める。


「1つ目は暴食の魔王べモスと、我らの王だ。ウェンザーズを統べている王はライオンの獣人、レオ様である」

「ライオンって百獣の王って呼ばれている?」

「そうだ。レオ様は風貌通り強く勇ましく、聡明なお方だ。彼が1度天に吠えれば我らは安定した生活を送ることができた。しかし3年前、レオ様はべモスにその体を乗っ取られ、意思をコントロールできなくなってしまった」


 千花達の予想していた通りだ。

 国王が潰れれば必然的に民も崩れる。


「2つ目。べモスの使用する魔法は雷属性である可能性が高い」

「可能性?」


 断言しないところに千花が疑問を抱くと、ミランがその問いに答える。


「我々もその目で見たことはない。ただ、リョウガが言うにはレオ様が対峙した際に、べモスが雷を発していたらしい。そこから、べモスは雷属性を得意とする魔王だと」

「へえ」


 素直に納得する千花だが、興人は更に浮かんだ疑問をぶつける。


「リョウガはべモスとの戦いを間近で見ていたのか。とすると、街中で戦闘は起こったと?」


 興人の指摘にミランが一瞬言葉に詰まる。

 しかし千花達が気づく前に答えを出した。


「街への被害はなかった。ただリョウガは……特殊な生い立ちであるからレオ様の側にいたんだ」

「……」


 あまり納得していない興人だが、話題を変えるようにミランは3つ目を提示した。


「そして最後に、我々は明日、べモスの眠る城へと奇襲をかけようと思う。それは君達も同じようだが」

「シモンさん達が今から裏道を確保します」

「ああ。だが、この基地の中にも城へと続く道がある。信用してくれるのなら、そちらを使っても」


 千花は悩む。

 ミラン達は既に信用に値する。

 だが、それは素人の考えであって邦彦達は否定するかもしれない。


「話し合わないと。ミランさん達のことは信用してますが」

「ああ、無理を言ってすまなかったね。我々としても、君達には仲間として無事に生き残ってほしい。そのために協力は惜しまない」

「はい」


 力強く頷く千花の隣で興人はやはり何か引っかかるような面持ちを浮かべていた。

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