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光の巫女  作者: 雪桃
第2章 リースへ
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はじめまして、冒険者さん達

 席を立ったクラウスの体はやはり筋骨隆々という言葉がよく似合う見た目だ。

 クラウスは千花が見ている前で鞘から剣を抜く。

 その刃は大きく、千花の顔がしっかり鏡のように映し出される程だ。


「俺はこの剣で魔物を倒していくことが得意だな。属性は雷だから、一発で仕留められるぞ」

「へ、へえ」

「千花さん、一度握らせてもらったらどうですか」


 邦彦に名前を呼ばれ一瞬驚いた千花だが、確かに「田上」と呼ぶと不思議に思われるかもしれない。

 千花は安全のために鞘に収めたクラウスの剣を握らせてもらうことにした。


「危ないから気をつけろよ」

「はー……いっ!?」


 千花が両手で握ってようやく一周できる柄からクラウスが手を離す。

 その瞬間千花の手に全ての重力がかかり、剣が地面にめり込んだ。


「おっも……」

「そりゃそうだ。俺に合わせて作ってるんだからな」


 クラウスは愉快そうに笑いながら千花から大剣を返してもらう。

 そのすぐ隣にいたブルートという男も目を輝かせながら千花に向かって口を開く。


「俺のも持ってみるかい。斧だけど、威力は抜群だよ。それはもう猛獣の肉なんて真っ二つにできるほど」

「ひっ」


 ブルートは何故か斧の刃先を千花に向けてくる。

 綺麗な銀色に光る斧が千花の引き攣った顔を照らす。


「馬鹿かお前は! 人間相手に斧振り回すなって何回言えばわかるんだ!」


 向かいに座っているカールが千花から斧を遠ざけながらブルートを叱る。


「全く。僕の武器はナックルダスターだ。属性は地だよ」

「なっくるだすたー?」


 千花が理解できていないので、カールは実際に自分の武器を出して見せる。

 ボクサーのように両手に嵌めて殴るようなものだった。

 千花的にはメリケンサックといった方がわかりやすいかもしれない。


「これなら試せるんじゃないか」


 カールが渡してくるので千花は実際に自分の手に嵌めてみる。

 思ったより軽く、手の異物感もあまりない。

 先端についている鉤爪のようなものが少し怖いが。


「楽だろう。その鉤爪に毒を仕込ませておけば苦しませて殺せるんだよ」

「え……」


 カールが笑顔で物騒なことを言うので千花は青ざめながら急いで武器を返す。

 最後のビアンカは何やら分厚い本を捲りながら魔法陣を展開している。


「ビアンカさんは何を?」

「私は支援魔法が主だから、魔導書が武器なの。属性は音ね。ほら、こんな風に」


 ビアンカが魔導書から魔法陣を展開し、黄色の手のひらサイズしかない妖精を1体出した。


「この妖精が近くにいる間は防御力が上がったり、同じ魔法を仲間に植え付けておけば位置を把握できたりするのよ」

「へえ」


 千花の周りを何度か回った妖精はすぐにビアンカの魔導書の中に帰っていった。


「後は依頼履歴だったか? 特別なことはしてねえな。魔物討伐に魔石の配達、後は商人の警護とかかな」

「パーティーって組んだ方がいいんですか」

「そりゃあもちろん」


 千花の素朴な疑問にクラウスは即答した。


「報酬は山分けだが、1人じゃ到底倒しきれない魔物も分担して戦えるし、時間も短縮される。それだけ1日でこなせる依頼量が違うな」


 確かに自分が窮地に陥ってもすぐに助けてくれる仲間が側にいるということは心強いかもしれない。

 特に今の千花はシモンの手助けがなければ敵とも戦えないので教えてもらうこともできる。


「私もどこかに入ってみたいなー……」


 千花がぼそっと──本当に隣に聞こえるかわからないくらい小さな声で呟いた言葉に、クラウス達だけでなく周りの人間も千花に視線を集めた。


「おやおや」

「え? え?」


 千花が視線に戸惑っている間に薄情にも邦彦は離れた所に移動してしまう。

 千花はわけがわからないとでも言うように一度瞬きをした。

 そして目を開けたその時、一斉にギルドの人間が千花に近寄ってきた。


「え!?」


 千花が呆然としている間にギルドの人間が我先にと千花の手を取ってきた。


「うちに来いよ! 初心者でも歓迎だ!」

「こんなむさ苦しい男共よりこっちにいらっしゃい。女だけのパーティーだから気楽よ」

「おい! チカと先に知り合った俺達だ。入るなら当然ここだろ!」


 いつの間にかクラウス達も混ざって千花の取り合いを始めている。

 髪や体を強引に引っ張られることはないが、様々な色の目が千花を逃がさんと捕らえている。


「あうっ……安城先生?」


 戸惑いに変な声を出しながら千花は邦彦の名を呼ぶ。

 邦彦は人混みに巻き込まれないように遠ざかりながら肩を竦める。


「初心者は大好物なんですよ。魔法を教える代わりに、天狗にならずしっかり働いてくれるので」

「先に言ってくださいよぉ!!」


 千花は嘆きながら逃げることもできずギルドの人間にもみくちゃにされた。

 その姿にカウンターに座っていたシモンは不憫なものを見るような目を向けた。


「クニヒコも教えてやればいいのに」

「ギルドに初めて来た子は全員洗礼を受けるから。シモン君も昔はそうだったわね」


 カウンターで皿を拭きながらアイリーンは懐かしいとでも言うように微笑みながら言葉を返す。


「洗礼ねえ。あれでトラウマになる人間もいるが」

「シモン君を庇ってまで魔物を退治しようとするチカちゃんが洗礼を受けて嫌になることはないと思うけど」

「言えてるな」


 不憫な目を向けつつ、特に止めることもない2人の会話もつゆ知らず、千花はその後30分はギルドに引き止められた。

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