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光の巫女  作者: 雪桃
第2章 リースへ
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初依頼

 翌日。

 土曜日ということもあって高校は休みだ。

 そのため朝から千花はリースへとやってきた。

 扉を抜けたのは確か朝の10時頃だったが、リースの空を見るとまだ日が昇り始めている頃だ。


「あ、時差があるんですよね」


 千花が明暗の差に気づきながらいつもよりも静かな大通りを歩く。

 人がいない分ギルドへの道のりも空いていてわかりやすい。

 邦彦は道案内ではなくしっかりと自分で目的地まで向かっている千花に静かに微笑んだ。


「なんですか?」

「いえ。田上さんも随分この世界に慣れてきたようで安心しました」


 邦彦の言い回しに千花はよくわからないと言うような表情を浮かべながらそれ以降気にせず真っ直ぐな足取りで歩いていく。


(初日にあんなことがあったというのに、1人で上京してきて不安だというのにあなたはこちらを受け入れようとしているのですね)


 千花がただ能天気なだけではないと知っているからこそ、邦彦は千花の小さな成長に顔を綻ばせた。




 ギルド内もまた人はほとんどいない。

 いるとしたら夜まで依頼をこなし、ようやく戦利品を持って帰ってこれから休むといったような人達ばかりだ。

 その中でカウンターには朝支度を始めているアイリーンと冒険に行くような恰好で座っているシモンが待っていた。


「おはようございます。お待たせしました」


 邦彦に続いて千花も軽く会釈をする。

 アイリーンが笑いながら手を振る中シモンは相変わらず眉根を寄せたまま千花を睨む。


「本当に遅かったな。寝坊か?」

「約束通りです。早く来すぎたのが問題じゃないですか」


 売り言葉に買い言葉とはこういうことを言うのだろう。

 朝からこんな低レベルの喧嘩をされてはいくら邦彦でも呆れないわけにはいかない。


「2人は少し落ち着いてください。アイリーンさん、依頼登録をお願いします」

「もう準備万端よ。チカちゃん、手首を出して」

「手首?」


 千花はアイリーンに促されるまま紋章が刻まれている左手首を出す。

 その真下にアイリーンは依頼書と思われる文字が羅列している薄い紙を1枚差し出す。

 すると千花の紋章が青白く光り、依頼書の文字を生き物のように吸い込んでいった。


「!?」

「はい完了。シモン君はもう終わってるから後はご自由に」

「ありがとうございますアイリーンさん。朝早くからすみませんね」

「いいのよぉ。可愛いチカちゃんの門出なら私も協力しないと」


 呑気な2人と対称的に千花は白紙になった依頼書と手首の中に入ってきた文字を交互に何度も見比べながら驚いた。

 その姿を見てシモンが呆れた表情を浮かべる。


「今更文字が動いたくらいで驚くなよ。毎回そんな表情してたら先に進めねえぞ」

「初めてなんだからしょうがないでしょう!?」


 これに関しては千花も譲れない。

 産まれた時から魔法に親しんでいる者と物心ついてから魔法を知った者では感じ方も違う。


「2人とも、出発しますよ。今日は時間があるので色々覚えてもらわなければなりませんから」


 邦彦が2人に準備をするよう促す。

 とは言え準備が既にできているシモンと何も知らずとりあえず邦彦に言われるままに動きやすい服装で来た千花が何かすることもなく、ギルドを出ることになった。


「これから王都を出て国外へ向かいます。遠いのでシモンさんに魔法で連れて行ってもらいます」

「国外? トロイメア以外は悪魔に占領されてるって」

「はい。ですが、国と国の間にも森や洞窟など整備されていない場所は世界中至る所にあります」


 ある種の無法地帯ということだろうかと千花が考えているとシモンが待ちくたびれたとでも言うように間に入ってきた。


「おい。早く出発するんじゃねえのか」

「そうでしたね。では王都の外れまでよろしくお願いします。シモンさん」


 邦彦がシモンの右肩に自身の左手を置く。

 何が起きるかわからず固まっている千花に軽く舌打ちをするとシモンは空いている左腕で千花の腹を抱え、勢いよく建物の屋根目がけて飛んでいった。


「わあああああ!?」

「うるせえチカ、黙れ」


 前もこのようなことがあったが、千花は不意に訪れた浮遊感と遥か下にある先程まで立っていたはずの地面を見て絶叫する。

 シモンは文句を垂れながらすぐさま屋根を一軒二軒と越えていく。


「おおお下ろしてください!」

「今下ろしたら1人で取り残されることになるぞ」

「シモンさん絶対私のことペチャンコにするでしょう!」

「するか馬鹿!」

「2人とも、早朝なのでもう少し声を落としてください」


 パニックになる千花と怒るシモンの叫び声を耳元で聞きながら邦彦は眉根を寄せながら苦笑した。




 シモンの魔法で空を飛ぶこと10分。

 千花達は王都の外れだという境界線までやってきた。

 レンガ張りの地面が連なる王都と違い、境界の外は整備のされていない土と草が生い茂る地面に鬱蒼とした木々ばかりが目に見える。

 誰が見てもここが国境線だということがわかる。


「今日の依頼は薬草採取だったか。本当に子どもでもできる仕事かよ」

「魔法を覚えたての人に戦闘はさせられないので」


 邦彦とシモンが何気なく会話する中で、千花は(うずくま)りながら抜けた腰を戻していた。


「ジェットコースターが長すぎる……」

「あ?」

「絶叫系アトラクションのことですよ」


 地球のことについてよく知らないシモンに邦彦が代わって説明する。

 千花は顔色をいつもより悪くしながら体勢を戻した。


「さて田上さん。依頼書が脳にインプットされているでしょうが改めて説明します。今日の依頼は回復薬に使われる薬草を集めてギルドに提出すること。ノルマは薬5個分なので15本あれば十分ですね」

「そこら中に生えてるんですか? 雑草みたいに」

「そうなれば簡単ですが、少し特殊な場所に何十本と生える薬草なんです。だから護衛要員としてシモンさんに来てもらったわけで」


 単純に移動手段と茶々を入れるだけの存在かと思っていた千花は、シモンの役割に「へえ」と1人頷いた。

 シモンは千花の思いに知ってか知らずか少し片眉を吊り上げる。


「それでは行きましょうか。迷わないで来てくださいね。迷子経験があなたは多いので」

「……善処します」


 自覚がある千花は特に反論せずに、大人しく指示に従ったまま邦彦の後をついていく。

 シモンも同じように隣を歩いていった。

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