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光の巫女  作者: 雪桃
第2章 リースへ
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喧嘩ばかりの初日

 30分後。

 千花はシモンの魔法を見ながら目を輝かせていた。


「……と、こんな風に自分がイメージしたものをいかに正確に素早く形作れるかが求められるわけだ。魔法を知らない奴は大抵すぐに攻撃魔法ができると考えているが、そんなことができれば犯罪率は上がっている。まだ完璧に発話できず嫌なことがあると泣いて助けを求める子どもができることなんて精々小さな人形を作ってままごとをするくらいで」


 シモンが口頭で説明しながら大小様々な土人形を作っていく。

 先程まで千花が自由に走り回れていたグラウンドには既に動かない土人形が10体以上固まっている。

 千花が試しに1番小さな人形を1体指で突いてみると形が崩れ、地面に山ができていた。


「おお……」

「今はまだ土を積み上げて固めただけの人形だが、ここに俺の魔力を込めると」


 シモンが大人サイズの人形に手をかざすと、ただの土だったものが両手を交互に上げ始めた。


「動いた」


 土人形は千花の前まで来ると挨拶をするように手のひらを向けて数回横に振った。


「こいつも土だから強度は弱いが触れるくらいならできるぞ」


 シモンに促され、千花は手を上げている土人形と自分の手を重ねてみる。

 恐る恐る触れただけだが、人形は崩れることなくそのままの状態で待っている。


「すごい……っ」


 感動している千花にシモンは軽く指を鳴らして土人形を全て無に返す。


「さあ、今度はお前の番だ」


 お前の番と言われても千花にはどうしたらいいかわからない。

 魔法なしでやったこととなれば幼児の頃に泥団子を極めたことくらいだ。

 不安になって遠くの方から見守っている邦彦へ目をやると隣にいたシモンが舌打ちをした。


「なんで教師の俺じゃなくてクニヒコを見るんだよ。そんな顔しなくても投げ出したりしねえし」

「不安しかないからですよ」

「なんだとてめえ」


 更に怒りを上乗せしていくシモンだが、千花は知らんぷりをするように邦彦から目を離さない。

 魔法の基礎を教えてくれることはとてもありがたいが、いちいち挑発的に指導してくるため千花自身のストレスも溜まってくる。

 邦彦も嫌味を言うことはあるがまだ大人の対応をしてくれている。


「初めの印象が最悪じゃなかったらもう少しいい子になりました」

「これ以上舐めた口利いたらそのうるさい舌引っこ抜くぞ」

「どうぞ。私が戦えなくなって巫女候補がいなくなったら困るでしょうけど」

「んだとこのガキ」

「喧嘩なら私だって受けて立ちます」


 魔法そっちのけで喧嘩を始めようとする2人を見かねて邦彦は眉根を寄せながら口を挟んだ。


「シモンさん、もう少し大人になってください。相手は年下の女の子です。当たり所が悪ければ事故に繋がりますよ。田上さんも、教えていただく立場なんですからもっと敬意を払ってください。時間もないですし、次また喧嘩しようとするなら明日の依頼はなしにしますからね」

「ちっ」

「むうっ」


 邦彦の説教に2人はそれぞれ消化不良とでも言うような表情を浮かべながら喧嘩をやめた。


(全く。先が思いやられる)


 巫女候補がこのような状態でいつ世界を救えるのかと、邦彦は1人不安になりながらしばらく2人の動向を見届けた。

 それから更に15分後。

 シモンに教わった通り自分で小さな人形を思い浮かべながら手に力を込めた千花だったが。


「あら可愛い! タコ? これは、三本足の宇宙人?」

「全部人です……」


 見学しに来たアイリーンが上機嫌に千花の作った人形を眺めていく。

 その感想に千花は泣きそうな声で訂正する。


「まあ形が作れただけでも大きな一歩だと思いますよ」


 アイリーンの隣で邦彦もフォローになっているかわからない感想を出す。

 その中でシモンはというと。


「覚えたての3歳児だってもっといい人形が作れるぞ。やっぱ心根が腐ってると魔法に影響するな」


 追い打ちをかけるように千花の作った人形を貶してきた。

 それだけに留まらず千花の人格まで否定してくる。


「指導してくださった先生の真似をしたんですけどね。心も真似てしまったようで」


 千花も負けじと毒を吐く。

 無視すればいいのにそこで喧嘩を買うからまた険悪になるのだ。

 2人は無言で睨みあう。


「仲が悪そうね」

「シモンさんもその性格さえなければ優秀な魔導士で済むのですが」


 どちらかが譲らなければこの喧嘩はいつまでも続くだろう。

 邦彦もそこまで対応する気はない。


「田上さん、時間も惜しいので帰りますよ。シモンさんにお礼をしてください」

「ありがとうございましたっ!」

「どういたしましてっ!」

「挨拶はしっかりするのね」

「礼儀云々で揉めましたからね」


 怒りをお礼に込めながら2人は不機嫌なまま別方向へ帰っていった。

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