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光の巫女  作者: 雪桃
第2章 リースへ
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魔法の座学

「さあ着きましたよ。下ろしますからね」

「あんな恥ずかしいタクシーは初めてです……」


 何故かスッキリした顔の邦彦の隣で千花はやつれたように足を地につけた。

 リースに来てから、地面から足を離す機会が増えている気がする。


「読めますか?」

「えっと、トロイメア、大図書館?」

「正解です」


 翻訳機を使って千花は頭の中に入ってくる言葉を口にした。

 シンプルな名前だが今の千花にはちょうどいい。

 邦彦に続いて中に入った千花はその広さに口を開いたまま固まった。


「ひろーい」

「リース各国で出版されている全ての書籍がこの施設に貯蔵されていますので」


 感心する千花を引き連れて邦彦は更に奥へと進んでいく。

 特に驚いたのは天井にまで届く棚に配置されている書籍を一切上らずに女性が魔法で取り出しているところだ。

 やはりまだ魔法には慣れない。


「安城先生。今日は何をするんですか」

「お勉強です」

「ええ……」


 千花は明らかにテンションを落とした声で返事をした。

 つい先程まで机に向かって1人真剣に授業を受けていたというのに今度は邦彦とマンツーマンで勉強しなければならないことに落胆したのだ。


「まだ課題は出ていないでしょう。だからチャンスなんです」

「ちなみに何を勉強するんですか」


 どうせリースの歴史や法律についてだろうと千花は堅苦しいものばかりを想像する。

 その中で邦彦は予約しておいたのか教材となる分厚い本を何冊も持ってきた。


「あなたの想像しているものも学びます。ですが別にテストをするわけではないので少しずつ教養程度に頭に入れるだけで結構です」

「じゃあ何を?」

「魔法です」


 邦彦が促してくるので、千花は隣の椅子へ腰かける。

 邦彦が持っている分厚い本は大分年季が入っているのか剥げている部分もある。


「魔法、基礎編?」

「はい。本来は魔法を習い始める3歳に提供される本ですが、そういったことに無縁な候補者はこれを読んで学びます」

「魔法って自動的に願えば出てくるんじゃないですか」

「そんなチートみたいなことができれば悪魔なんて易々と倒せますよ」


 光の巫女はチートキャラではないのかと疑問に思う千花だが、邦彦は気にせず早速本題へ入る。


「普通は魔法の定義や歴史を学校で学びますが今は必要のないことなので省きます。あなたに習得してほしいのは魔力のコントロールですから」


 邦彦が分厚い本のページをめくりながら該当する箇所を指す。

 そこには8等分に分けられている円が描かれていた。


「火と水と、草? 土?」

「翻訳機も万能とまではいきませんからわからない言語もありますね。これは魔法の属性を表しています。もっともわかりやすいのは火でしょう。主に攻撃として用いられますが、日常生活でも料理に使ったり暖炉に火をおこしたりと道具としても使われます」

「あ、これは漫画みたいな感じですね」

「僕はあまり漫画を読まないのでわかりませんが恐らく想像通りでしょう」


 千花は自分が今までに見た魔法系漫画やアニメの記憶を辿りながら想像を重ねていく。


「水は水道とか水やりですよね。それでこの……草は植物を育てたりするんですか」

「概ね合っています。残りの魔法も説明してしまいましょう」


 そういって邦彦は文字を指で追いながら説明を始めた。

 『草』の隣にある字は聴覚に入る全ての音を操ることができる『音』、電力系を操る『雷』、更に『風』『地』『光』と続いている。


「ところでどうして円になってるんですか。別に魔法周期なら四角でもいい気がします」

「相性が関係しているからですね。隣り合わせになっている属性同士は同時に使用するには実力がないとできません。火と水がいい例です。反対に向かい合わせの属性は相性が良く、組み合わせると威力を倍増して使用することができます」


 勉強は苦手な千花だが、邦彦の教え方は上手い。

 いつもは右から左へ流れていく言葉がしっかりと脳に定着している。


「ただ急にどの属性も使いこなせるかと言われればそうでもありません。初めに属性を試す水晶でテストをし、その色によって分けられます」

「私は光ですか?」


 光の巫女なのだから当たり前だろうと千花が指をさして聞くが、邦彦は「さあ?」と言うように笑いながら首を傾げた。


「光の巫女は確かに光と書かれていますが、そもそもその名前は人間がつけた仮称なので。巫女は神ですし全属性の魔法が使えたはずですよ」

「じゃあ私の属性は?」

「今から確認してみましょう」


 邦彦はそう言うと側に会った地球儀のような形の透明な水晶玉を前に取り出した。

 一見するとただのボールだ。


「これがテストをするための機械です。実際に見てもらった方が早いかと思いまして」

「へえ。私魔力の出し方とか知らないんですけど」

「ご心配なく。水晶玉に触れれば血液や遺伝子から鑑定してくれます」


 どうぞと促され、千花は目の前の大きな水晶玉に半信半疑で両手を乗せてみる。

 その瞬間、透明な水晶玉の中が砂と土で覆われ始めた。


「ば、バグった!?」

「いいえ。これは地の属性ですね。運がいいことで」

「そ、そうなんですか」


 千花が手を離すとゆっくりと土や砂は消え、元の透明に戻った。


「依頼は山岳や草原に行くことも少なくありません。その時地面にある土を使用することで魔力の省エネに繋がります」

「魔法にエコってあるんですか」


 言いたいことはわかるが、邦彦の口から予想外な言葉が出てきたので千花は少し拍子抜けする。


「何事も最低限であることが求められます。次に武器について説明しましょう」


 邦彦はページを更にめくって目当ての場所まで進めていく。

 紙にはリースの言葉と武器と思われる絵が描かれている。


「魔法には前衛と後衛があります。攻撃型と支援型と言えばわかりやすいですかね。どの属性でもこの二種類は存在しますので覚えておいてください」

「魔法なのに武器を使うんですか」


 千花はリアルに描かれている絵を目で追いながら邦彦に質問する。


「魔法は何も発射して攻撃するだけではありません。時には剣に炎を纏わせて斬りかかることもあれば、斧を振りかざして風を呼び起こすこともあります」

「多種多様……」

「だから時間があるこの時期に学ぶべきなんです」


 邦彦が最初に言っていたことがよくわかった。

 確かに頭に残りやすいが、量が膨大で脳が破裂しそうだ。


「これは復習が必要なやつだ」

「頭で習って体で定着させるのもありですね。少しずつ実践しながら学びましょう」


 一通り今日の分の説明は終わったのか、邦彦は基礎編の本を閉じる。


「もう終わりですか?」

「一気に詰め込んでも定着したいことはわかっています。冒険に出ても良い5日後までには終わらせますので」


 そう言って邦彦は基礎編よりも一回り小さい単行本を千花に差し出してきた。


「それでは宿題です。これを読んできてください」

「……猿でもわかるリースの歴史?」

「明日読んだか確認します。大丈夫。友達と話すことがなければ1日で読める量ですから」


 邦彦の嫌味に慣れることは一生ないだろうと怒りを抑えながら千花は単行本を握りしめた。

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