表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
光の巫女  作者: 雪桃
第10章 フレイマー
262/277

逆さ鱗を探して

(鱗に掴まってないと落ちる! 身動きが取れない!)


 千花は握力を込めて鱗に掴まるが、そのままでは逆向きの鱗を探すなど困難だ。

 だが千花は1人ではなかった。


「街を壊すな!」


 ヒートがイリートの首に噛みつき、動きを止めようとする。

 すぐに振りほどかれてしまうがその隙を狙って興人が炎を纏った大剣でイリートに斬りかかる。


「小賢しい真似を。吾輩は巫女にしか興味がない。お前達は黙って静観していろ」

「そんなことができるかって話だな」


 同じくプラムも背後からイリートを襲撃し、シモンが魔法で援護する。

 動きが緩くなったことで千花も動けるようになった。


(急いで!)


 千花は鱗を掴んで渡り歩きながら逆さ鱗を探す。

 炎のように赤い鱗は魔王に乗っ取られていなければ荘厳さえも感じる程だ。


(焦らないで、ちゃんと探すの)


 首元に降り立った千花は飛んでいくイリートの進行方向とは逆に進む。

 よろめきながらもプラム達が気を逸らしてくれているおかげで振り落とされる心配がない。

 千花は目を凝らしながら逆さになっている鱗を探す。


「愚かなり。下等な生物共が」


 そう言うと、イリートは体から衝撃波を出す。

 吹き飛ばされたプラムとヒートは壊された家屋へと叩きつけられる。


「おっと……おい大丈夫か、プラム」


 シモンがドラゴンの下敷きになる前に抜け出し、彼女の安否を確認する。

 巨体を動かしにくそうにしながらも、プラムは立ち上がり再び翼を広げる。


「馬鹿にしないで。これくらいの傷、何ともないわ」


 強がりで言っているようにも聞こえるが、シモンは敢えて見て見ぬふりをし、その体に乗る。

 一方で遠くに飛ばされたヒートは乗っていた興人を庇うように体を旋回させたために打ちどころが悪かったらしく、ドラゴンの憑依が崩れてしまった。


「王、子……申し訳ありません。今体勢を立て直して……」

「無理はするなヒート。まずは回復してくれ」


 興人は自分を庇って大怪我を負った家臣に多少なりとも罪悪感を覚える。

 同時に、イリートへの怒りがふつふつと込み上げてきた。


「俺の故郷を、俺の父親を、国民を傷つけたこと、必ず後悔させてやる」


 興人は大剣を持って意識を風属性に集中させ、そのまま飛ぶ。

 向かう先はイリートの体だ。


「フレイムソード!」


 興人は大剣に炎を纏わせ、イリートの喉元目がけて斬りかかる。

 鱗のない生身の部分であるため少しばかり傷はつけられるが、致命傷とまではいかない。


「お前は、この体の息子か。消息不明で帰ってくるとは」


 イリートは飛んでいる興人をすぐさま手で捕まえると、大きな牙が見える口を開く。


「魔力もある。このまま丸呑みにしてやろう」

「くっ」


 身動きが取れない興人は抵抗する間もなくイリートに食われそうになる。

 だがその寸前、プラムがイリートの腕に噛みつき、シモンが興人を救出する。


「お前な、無謀に突撃していくなよ」

「すみません、ありがとうございます」


 興人は再びプラムの体に乗せてもらい、攻撃の機会を待つ。

 激闘が繰り広げられている中、千花は賢明に逆さ鱗を探していく。

 これだけ興人達が足止めしてくれているのに見つけられない自分に焦りを感じ始める。


(落ち着いて。落ち着いて。皆を救うために)


 千花が深呼吸をし、体勢を整えようとする時だった。

 プラムとイリートが衝突し、その衝撃が千花をずりおろそうとしたのは。


(落ちる!)


 千花は鱗を掴もうとするが、運悪く鱗は滑る方向に並んでいる。

 このままでは落下は免れない。


(風魔法を……あれ?)


 落ちる恐怖と魔法を使わなければならないパニックに襲われる中、千花はふと掴めた部分を探し当てる。

 他の鱗とは向きが異なる逆さまの鱗。


(これだ!)


 千花はその鱗に必死にしがみつき、腕の力で何とか這い上がる。

 色で同化してわかりにくいが、確かにそれは逆さ鱗で間違いない。


「これを剥がせば」


 千花は両手を使って鱗を剥がそうとする。

 だが、皮膚に密着している鱗を剥がそうとなるとイリートが気づかないはずがない。


「見つけたか、光の巫女。ならば、こちらも本気で行くとしよう」


 そう言うと、イリートは興人達のことなど目もくれず、急に空高く飛び、そのまま急降下していく。


「わっ、うわっ」


 まるで命綱も安全装置もないジェットコースターに乗せられているように千花は体を引きずり回される。

 シモン達が追いかけて応戦しようとするが、スピードには勝てない。


「プラム! 追いつけ!」

「言われなくてもやってる!」


 プラムも傷だらけの体に鞭を打ち、全速力でイリートを追いかける。

 だが届かない。


(このままじゃ手を離した瞬間振り落とされる。でも、私がやらなきゃ何も始まらない。なら)


 千花は片手を鱗から離し、魔法杖を出現させる。

 鱗を掴んでいる左の手と腕が悲鳴を上げているが、耐えるしかない。


(一か八か。これに懸ける!)

「アイヴィー!」


 千花は魔法杖から太く長い蔦を繰り出し、自分と逆さ鱗に巻きつける。

 そのまま空高く上がっていくイリートが気づく前にその体を蹴って跳ぶ。


「外れろ!」


 さながらバンジージャンプをするように空中へ飛んだ千花は自分の重みで逆さ鱗を外そうとする。

 蔦が切れてしまえば──否、鱗が取れればそのまま千花は真っ逆さまに地面に叩きつけられるだろう。

 千花の思惑通り、逆さ鱗は「ベリッ」と音を立てて剥がれるが、同時に千花も急速に落下する。


「チカ!」


 プラムも間に合わないスピードで落下していく千花は、それでも死を確信しなかった。

 シモンが焦りを含んで千花の名を叫ぶ中、興人はプラムの体から跳ぶ。


「興人!」

「ああ」


 千花には確信があった。

 興人は、必ず助けてくれると。

 そして、その予想は的中した。


「興人、ドラゴンになれ!」


 千花が命じると、興人の体が瞬時に変化していく。

 イリートのような──ラヴァ―王の血筋を引いている赤い鱗に大きな爪と体を持ったドラゴン形態の興人は、千花を素早く捕らえると、地面に降り立った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ